荒井首相秘書官「見るのも嫌だ」オフレコLGBTQ差別発言は、岸田首相の代弁か?

2023.02.06
 

首相が選択的夫婦別姓や同性婚について語った内容

そもそも、荒井氏がこんな発言をするきっかけを作ったのは、岸田首相自身である。

1日の衆院予算委員会。立憲民主党の西村智奈美代表代行が、選択的夫婦別姓や同性婚制度の導入を岸田首相に求めたのに対し、岸田首相は「制度を改正するということになると、すべての国民にとっても家族観や価値観、そして社会が変わってしまう」と述べ、導入に否定的な考えを示した。

岸田首相は就任当初から選択的夫婦別姓や同性婚に否定的だったが、「社会が変わってしまう」という発言は、単なる「否定的」だけでは片付けられない強い印象を与えた。制度導入を望む多くの関係者に強い衝撃を与えた。「差別の肯定だ」「日本社会を30年逆行させる」。首相の発言には識者から強い批判の声が上がった。

首相の発言の真意は。同性婚に対する認識は。それを確認するため、記者団は荒井氏を囲んだ。荒井氏は秘書官として、首相発言の真意について「広報」する役目があった。

荒井氏の発言はこうした状況のなかで行われた、という点を忘れるわけにはいけない。

共同通信が公表したやり取りによれば、実際、記者団の質問の1問目は、まさに「社会が変わっていく」発言についてだった。これに対し荒井氏は「社会のあり方が変わる。でも反対している人は結構いる。秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対だ」と述べた。首相が言及した同性婚への否定的な認識は、世間一般の認識を説明したのではなく、自身を含む官邸自身の認識であることをにおわせたのだ。

首相秘書官が語る「私の身の回り」に、岸田首相自身は入るのか、いないのか。

この後記者団は「世論調査では若手の方が賛成を示す数は増えている」「(同性婚導入への)悪影響は思いつかないが」と、どちらかと言えば荒井氏の認識をやんわりとたしなめるような質問を続けたが、逆に荒井氏の発言は、さらに強さを増した。「それは何も影響が分かっていないからではないか」「国を捨てる人、この国にはいたくないと言って反対する人は結構いる」。そしてあの「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」へとつながった。

繰り返すが、これらの発言は「岸田首相の発言」の真意について、解説を求められたなかで行われたものだ。荒井氏は国会答弁の原稿をつくる役割もあったと報じられている。発言者が自身であることは表に出さないでほしい。だが「首相の発言の意図はこうだ」ということは、例えば「政府筋はこう語った」という形で広く伝えてほしい。そういう意図のもとに発せられた言葉なのだ。少なくともそう受け止められても仕方がない。

岸田首相は荒井氏を切り捨てて、自らは何事もなかったかのように振る舞いたいのかもしれないが、そういうわけにはいかない。荒井氏が官邸を去った今、岸田首相はこの問題に、自らがむき出しの形で対峙しなければならなくなった。

岸田首相は荒井氏の発言について「多様性を尊重し、包括的な社会を実現していく内閣の考え方には全くそぐわない。言語道断だ」と強調したが、もはや誰もそれを信じない。それどころか、今や首相自身の中に、荒井氏と同様な認識があるのではないか、という点が問われているのだ。

首相がそれを払拭したいなら、まさに「多様性を尊重し、包括的な社会を実現していく」という言葉にうそがないことを証明したいなら、まさに同性婚の法制化を即刻実現する、最低でも法制化に向けた短期のロードマップ(工程表)を示すべきだろう。

しかし、内閣支持率が低下し、自民党内の求心力も失いつつある岸田首相が、伝統的な家族観に凝り固まった議員が多く存在する党内を、本当に説得できるのか。そして、国政選挙で党所属議員に「『LGBT』問題、同性婚合法化に関しては慎重に扱う」ことへの賛同を明記した「推薦確認書」への署名を求めたとされる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を、有権者の納得のいく形で整理できるのか。

岸田首相が今後どのような行動に出るのか、今国会の行方を見守りたい。

image by: 首相官邸

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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