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これではプーチンの思う壺。巷の「ロシアは悪くない論」を信じてはいけない根拠

国連が把握しているだけでも、開戦から1年で8,000人以上の民間人が犠牲となったウクライナ戦争。しかしこの侵攻の責任が、ウクライナ側にあるとする主張もまま見受けられます。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、読者からの質問に答える形でこの主張が正しいのか否かを検証。国際法に照らし合わせ「ウクライナ責任論」バッサリと切り捨てています。

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「ロシアは悪くない説」についてどう思いますか?

今日は、読者のHさんからのご質問にお答えします。

北野様

 

ロシア時から貴方のメルマガを拝見しています。情報ありがとうございます。質問があります。

 

ウクライナ政府がロシア語の使用を禁止したり、オデッサの悲劇を含め親米のゼレンスキー政権を批判するロシア住民税を虐殺、彼らを攻撃した1万4,000人もの市民が殺されたというのも嘘でしょうか?

 

オリバストーン監督も嘘をついているのでしょうか?西側がミンスク合意を最初から遵守するつもりはなかった。米国のネオコンがロシアを弱体化させようとしてること、だからというのはないのでしょうか?

 

コロンビア大学教授のレスリーサックス教授やシカゴ大学のミアシャイマー教授の話も上記を裏付けているように思うのですがどうなのでしょうか?

 

ノルドストリームパイプラインを爆破したのも米国のようですが、攻撃を始めたのはロシアでなく米国と傀儡のゼレンスキー政権ではないですか?上記のついての見解をお願いします。

お答えします。

Hさんが挙げたたくさんの事象について、いちいち深堀りはしません。とても長く複雑になってしまうからです。

「ロシア側の事情」について深く知りたい方は、拙著、『プーチン最後の聖戦』『クレムリンメソッド~世界を動かし11の原理』『黒化する世界~民主主義は生き残れるのか?』をご一読ください。

はっきりいえるのは、アメリカとロシアの戦いは、03年にはじまったということです。どういう戦いかというと、

と全部つながっています。

ちなみに2014年出版の『クレムリンメソッド』には、バイデン(当時副大統領)の次男ハンター・バイデンが、ウクライナのエネルギー企業ブリスマの取締役になった事実が記されています。

Hさんの質問は、

攻撃を始めたのはロシアでなく米国と傀儡のゼレンスキー政権ではないですか?

です。この答えはプーチン自身が、昨年5月9日の演説で明言しています。

アメリカとその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた。

 

繰り返すが、軍事インフラが配備され、何百人もの外国人顧問が動き始め、NATO加盟国から最新鋭の兵器が定期的に届けられる様子を、われわれは目の当たりにしていた。

 

危険は日増しに高まっていた。

 

ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。

つまりプーチンは、「ウクライナがロシア侵略の準備を進めていたので、ロシアが先制攻撃したのだ」と断言している。だから、「攻撃を始めたのはロシア」というのが答えです。

そして、ウクライナがロシアを侵略するなどありえないと昨日も書きました。

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ウクライナは、ロシアが侵攻してきて1年経つのに、ロシア領をほとんど攻撃していません(軍事施設へのドローン攻撃はあるようですが)。

実際、プーチンがこの話を出してきたのは、昨年5月9日がはじめてでした。もしそれが事実なら、2月24日の侵攻開始時に「ウクライナがロシア侵略を企てているので、先制的な対応をとらざるを得ない!」と宣言したはずです。5月になってはじめてこの話が出てきたのは、ウクライナがロシア侵略をする計画など存在しなかったからです。

善悪論で考える

これでHさんの質問には答えました。しかし、巷では、「ロシアは悪くない説」が流行しているので、それについてお話ししようと思います。

どんなケンカ、対立、戦争でもそうですが、「双方の言い分」があります。たとえばロシアが、「アメリカは1990年の約束を破って、NATOを拡大しつづけた」と非難するとき、ロシアのストレスも理解することができます。なんといっても、冷戦終結時16か国だった「反ロシア軍事同盟」NATOは、現在30か国まで増えているのですから。私も「NATO拡大、やめておけばよかったのに」と思います。

ただ約束を破ったといえば、ウクライナ側にも言いたいことがあるでしょう。たとえば1994年12月の「ブタペスト覚書」。内容は、「ロシア、アメリカ、イギリスがウクライナの安全を保障するから、ウクライナは保有する核兵器を放棄する」というもの。アメリカとイギリスは現在、ウクライナを支援することでこの覚書を守っています。しかし、ロシアは、ウクライナを侵略することでブタペスト覚書を破っています。

私は、何が言いたいのでしょうか?

戦争の善悪論は、双方に言い分があるということ。では、「善悪」は決められないのでしょうか?そんなことはありません。個人のケンカ、対立、企業間のケンカ、対立、善悪はどうやって決まりますか?そう、「法律」で決まります。では、国家間の争いの善悪は、なんで決まるのでしょうか?そう、「国際法」で決まります。

国際法には、「合法的戦争」があります。一つは、自衛戦争。たとえば、北朝鮮が日本にミサイルを撃ち込めば、日本は憲法を改正しなくても反撃できます。これは、自衛戦争で合法だからです。歴史的な例としては、アメリカのアフガン戦争があります。今のウクライナも、自衛戦争、つまり合法的な戦争を戦っています。

二つ目は、国連安保理が承認した戦争です。歴史的な例としては、1991年の「湾岸戦争」があります。

さて、ロシアのウクライナ侵攻は、自衛戦争でしょうか?違います。ウクライナは、ロシア領を攻撃していません。ロシアのウクライナ侵攻は、国連安保理が承認した戦争でしょうか?もちろん違います。

というわけで、いろいろな人がいろいろなことをいいますが、善悪論の決着はついているのです。答えは、「国際法によると、ロシアのウクライナ侵攻は悪だ」です。

イラク戦争も悪の戦争だが

世界情勢に詳しい人は、気づいたことでしょう。では、アメリカのイラク戦争はどうなのでしょうか?

あれは、自衛戦争ではありません。イラクは、アメリカを攻撃していません。国連安保理の承認も受けていません。そう、イラク戦争は、「国際法違反の戦争」だったのです。

この件で、私に良心の呵責はありません。私は、メルマガでも過去本でも、「イラク戦争は国際法違反だ」と書きつづけてきたからです。

プーチンは当時、「アメリカのイラク侵攻は、国際法違反だ!」と批判していました。これは、本当にその通りだったので、多くの支持を得たのです。

当時世界は、アメリカ一極世界に飽き飽きしていて、フランス、ドイツ、ロシア、中国を中心とする多極主義陣営が力を増していました。プーチンは当時、フランスのシラク大統領、ドイツのシュレーダー首相、中国の胡錦涛国家主席などと組んで、アメリカ一極支配に挑戦していたのです。そして、プーチンを英雄視する人たちが現れてきました。

しかし、プーチンは昨年2月24日、ブッシュと同じ「国際法違反の戦争」を開始したのです。「殺人は悪いことだ!」と非難していた人が、自分で殺人事件を起こしたようなものです。

その人は、引き続き英雄でいられるでしょうか?そんなはずはありません。「アメリカは、国際法違反の戦争をしている」と非難するなら、自分自身は国際法を守る側にいるべきでしょう。そうあってこそ、国際社会での支持と尊敬を得つづけることができるのです。

というわけで、プーチンは、「大戦略的失敗」を犯しました。だから私は、戦争が始まる前から、「ロシアがウクライナに侵攻すれば、戦闘に勝っても負けても、ロシアの大戦略的敗北は不可避だ」と言っているのです。

結局、予想通りの展開になっています。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル2023年2月23日号より一部抜粋)

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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