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コスプレが大きな鍵になる?次世代のアパレル企業が進むべき道とは

多くの業界がロシアとウクライナ紛争の影響を多かれ少なかれ受けるなか、ファッション業界はこれからどのように動いていくのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、現在の日本が頼り切っている中国でのアパレル生産や次世代のアパレル企業へのヴィジョンを論じています。

ファッションビジネスの未来は?

1.今後、中国アパレル生産はどうなる?

最初に言いたいのは、アパレル生産は最も平和的な産業であるということです。日本が中国企業にアパレル生産を委託しても、それが戦争に直結するわけではありません。

ですから、半導体やハイテク分野での規制が行われても、繊維製品の貿易は最後まで続くでしょう。

と言っても、経済活動ですから、企業の利益が税金として国に流れ、それが軍事費に使われることはあります。しかし、それを防ぐには国交断絶しかありません。貿易も人やモノも全てストップするということです。つまり、日本と中国が戦争状態に陥れば、完全に国交断絶になります。

現在、中国生産、中国製品の輸入を完全に止めたら、多くの日本企業は倒産します。大量の失業者も発生し、日本経済は壊滅的な影響を受けます。同時に、日本人の生活にも大きなダメージがあります。量販店や大型専門店、普通の専門店から百均ショップでほとんどの商品が消えてしまうからです。アパレル、インテリア、家電、靴、玩具、あらゆる雑貨商品の大部分は中国製です。

しかし、これまで通り中国と付き合うことも困難です。安全保障の問題もありますが、そもそもビジネスとしても政治リスクが高過ぎます。いつまた工場が操業停止になるかも分からないし、自社の商品が輸出禁止になるかも分からないからです。ルールを守らない、約束を守らないのではビジネスなど不可能です。

日本企業は、中国生産、中国製品の比率を下げて、東南アジア、日本国内に分散する必要があります。中国から撤退できるのならば、それも積極的に考えるべきです。現在の状況が短期間で収束することは考えられず、少なくとも10年は続くと思われるからです。

日本市場向けの中国アパレル生産が続いたとしても、日本企業がどこまで介入できるかは分かりません。例えば、アマゾンで販売されているアパレル製品は、アマゾンオリジナルを含めてほとんどが中国製品です。

中国メーカーが日本市場向けに企画をした商品がネットで大量に販売されれば、日本のアパレル企業、アパレル小売業の売上はその分だけ減少します。そして、中国メーカーの利益は増加します。日本の下請けをしているより、直接販売した方が有利です。特に、安価なコモディティ商品からこの流れが加速するでしょう。

この流れが拡大し、日本アパレル企業が衰退すれば、今度は、日本アパレル企業からOEM生産を受託していた企画会社や商社も直接販売に参入するでしょう。

中国生産のネットアパレル企業が成長すれば、実店舗の出店も増えます。おそらく、試着専門の店舗になるのではないでしょうか。

こうした変化の中で、日本アパレル企業はどのような戦略で生き残るかを考えなければなりません。

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2.エンタメ系ネットアパレルの可能性

次世代のアパレル企業はどのような業態になるのでしょうか。

まず、店舗流通からネット流通に主役が移ります。ネット販売を主体としたネットアパレルが主流になるかもしれません。

ネット流通では、返品保証や決済の安全性が保証されていることが多いので、生産地や販売企業の国籍は問題になりません。

と言っても、市場には固有の嗜好があるので、同じ商品を世界中で販売するというグローバルブランドには無理があります。「フォーエバー21」等、初期のファストファッションの業績悪化がその裏付けになるかもしれません。

中国生産であっても、日本市場向けのブランドのニーズはなくならないでしょう。特に日本のローカルなファッション市場のポテンシャルは高いので、この市場はなくなりません。

ネット流通が主体でも、実店舗のニーズはあります。色や素材を確認したい、試着してサイズを確認したいというニーズがあります。ネット通販のブランドが相次いで試着目的のショップを開設しています。この流れは更に発展するでしょう。

私は、試着ショップにエンタメ性を加え、SNSメディアと連携することが新たなビジネスモデルになるのでは、と考えています。

試着店舗に、SNS投稿スタジオの機能を加えるのはどうでしょうか。元々、試着目的のショップなので、商品を大量に陳列する必要はありません。ゆったりとした空間で、所々に撮影のための背景や小道具を用意するのです。あるいは、グリーンバックの壁紙と様々な背景を合成できる設備を導入してもよいかもしれません。

こうなれば、試着が目的ではなく、撮影が目的になります。化粧品メーカーとタイアップしてメイクアップの試供品を提供したり、ヘア&メイクのプロによるワークショップを開催するのも良いでしょう。

写真の撮影ワークショップの可能性も出てきます。その場合、静止画や動画撮影の器具を陳列し、ネット販売するのはどうでしょうか。

こうしたワークショップが整備されれば、インフルエンサー育成プログラムも可能になります。

店舗でインフルエンサーを育成し、店舗で撮影し、店舗からライブコマース番組を発信する。こうなれば、自社ブランドに限定せずに、ファッション番組を自由に発信するのも良いと思います。

店舗そのものがファッションを楽しむ場であり、ファッションを発信する場になるわけです。自社の商品を販売して利益を上げるというビジネスモデルだけでなく、ファッションメディアとしてのビジネスモデルが軌道に乗れば、更に可能性が広がるはずです。

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3.ファッションは全てコスプレだ!

コスプレは、漫画やアニメ、ゲームのキャラクターに扮装することです。多くは二次元のキャラクターですが、それを人間が三次元で再現するということです。

日本では伝統的に人形に扮装するという文化がありました。歌舞伎の荒事に登場するキャラクターは人形浄瑠璃の人形の顔や装束に似ています。人形は小さいのでデフォルメして作られますが、それを等身大に再現することで、現実離れしたシュールな造形をつくり出しています。

更に、歌舞伎には人形振りがあります。人形浄瑠璃の人形の動きを人間が等身大で再現するもので、「櫓のお七」という演目では、櫓を登るお七の狂乱が人形振りによって強調されています。

舞妓人形は舞妓を模した人形ですが、私は舞妓の化粧や姿そのものが、人形を模したものではないかと考えています。

これはロリータ愛好家が、フランス人形を模しているのと似ているからです。フランス人形はヨーロッパの白人女性をモデルにした人形ですが、それを日本のロリータ達が真似をする。なぜか、フランス人の少女たちも日本人のロリータはカワイイと言います。顔は平面的だし、背も低く脚も短いのですが、それが人形のようにカワイイのでしょう。成熟した女性を表すセクシーという概念の対極にカワイイという概念があり、それはどこか人形染みている感覚なのです。

例えば、田舎の娘達を京都に連れてきて、芸事や所作を教え、京言葉で話し、顔を白塗りにして、舞妓の衣装を着せれば、誰でも舞妓になれるのです。

このように日本には人形を人間が演じたり、それをまた浮世絵で二次元化したり、浮世絵を真似る人が出てきたりと、自由自在に、異世界転生するように次元を乗り越えています。

その延長にコスプレがあると思います。二次元のキャラクターを三次元の人間が演じることで、二次元しか許されないカワイサを獲得することができます。

最近のアイドルの姿はアニメに似ています。髪の色や化粧、衣装などを整えることで、アイドルが完成します。これは少女を舞妓にするのと同じ手法です。アイドルとは普通の少女がアイドルに扮装しているのです。

そう考えると、皆、誰かに扮しているのかもしれません。できるビジネスマンに扮装したり、知的な弁護士に扮装する。

多分、仕事かできる特定の職種に見えるように上手く扮装した方が、相手にあるべきイメージを伝えられるので、仕事も上手くいくはずです。

最近では、更にメタバースという仮想世界が登場しています。そこではアイデンティティのコスプレが行われています。誰でも名前、声、姿を変えることができるし、一人の人間がいくつものキャラクターを演じても良いのです。

リアル世界もバーチャル世界も、まず自分のキャラクター設定をしてから、声やしゃべり方をキャラクターに寄せ、ファッションもキャラクターに相応しいものを選ぶことになるのでしょう。

こうなると、ブランドコンセプトも変わってきます。まず、キャラクター設計が必要になるでしょう。そして簡単なアニメを作ってみる。こうなると、メタバースで仮想コレクションを開いてもいいし、そのキャラクターのコスプレができるようなリアルなアイテムを販売するということになります。

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4.全てはファッション化する

我々はどうしても、アパレルを中心にファッションを考えます。しかし、食品やサービスからファッション化を考えるのも面白いかもしれません。

アパレルは着用した人間のイメージを支配します。外見を変えることで性格まで違って見えるのです。

そして、服には流行があります。流行とは不思議なものです。ある意味で、ファッション業界が仕掛ける情報操作ですが、そんな人為的なものでなくても、日本では太古の時代から流行があったらしい。

ある意味で地政学的なことですが、ユーラシア大陸の果てからアラビア、インド、中国を通って様々な文化が入ってきます。そして、日本から出ていくことはありません。日本は文化の漂着地であり、吹き溜まりです。ですから、日本人はとりあえず新しい情報を受けいれるという性質を持っています。受けいれてから残すものと捨てるものを分別します。

ですから、流行体質、ファッション体質が強いのでしょう。

そんな日本ではあらゆるものがファッション化します。

最近の「米」のファッション化には目を見張るものがあります。次から次へと新種の米が発表され、ネーミングとデザインを競い合っています。米の名前はブランド化とも言えますが、毎年新種が発表されるとなるとファッション化といってもいいでしょう。

同様に「苺」もファッション化しています。

ある時期、スマホはファッション化していましたが、技術革新が止まって変化が遅くなっています。

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あらゆる商品には、様々な訴求ポイントがあります。

まず「技術」です。新しい技術によって、新しい商品が生み出され、新しい市場が生れます。

次に「品質」です。同じ技術の商品でも、素材や部品、仕様によって、品質が安定し、丈夫になり、長持ちするようになります。

次に、「デザイン」です。性能や品質が同じなら、次に心理的な性能が問われます。美しい、カッコイイという価値を訴求します。

「技術」「品質」等の物理的性能が変わらず、「デザイン」だけで勝負するようになると、デザインは細分化していきます。顧客を細分化し、更には、時代性、トレンド性が重要視されるようになり、ファッション化するのです。

ファッションとは、成熟の果てに生れた変化なのかもしれません。定期的な変化を定期的なコレクションで発表し、それを評価する評論家が存在し、それを伝えるメディアも存在する。それをシステム化したものがファッションシステムです。

ですから、成熟した商品はファッション化することで新たな魅力を訴求することが可能になります。

例えば、軽自動車がファッション化すると魅力が増すのではないでしょうか。各軽自動車メーカーが連携して一定期間の中で新デザインのコレクションを発表する。

基本的性能は変わらなくても、外装と内装だけの変化でも可とします。自動車メーカーだけでなく、塗装やラッピング、内装、カーシートの企業もコレクションに参加できます。

このコンセプトはEVにも応用できます。小型EVをファッション商品として販売すれば、新たな市場が生れるでしょう。基本的なシャーシーは共通にして、ボディのバリエーションを作り、コレクションとして発表する。

このようにファッション化という視点は、イノベーションにもつながっていくと思うのです。

編集後記「締めの都々逸」

「近くのものは ぼやけていても 遠くのものは 良く見える」

近くは見えなくても遠くは見える。これは老眼ビジョンと呼ぶべきだろうか。

歳を取ると、昔のことばかり思い出しますね。最近のことは忘れちゃう。これは老脳でしょうか。もしかすると、歴史を振り返って、未来を考えるのは、高齢者が適しているのかもしれません。

現役世代はどうしても目先の利益にとらわれます。自社の利益にもとらわれますね。組織から抜けると、世の中全体の動きが見えるようになります。これも老人力の一つでしょうか。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock,com

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