高い機能性とコストパフォーマンスが大受けし、女性からの人気をも不動のものとしたワークマン。そんな同社が先日発表した「ワークマンカラー」が話題となっています。この新業態を取り上げているのは、Webメディア『ECのミカタ』元編集長で株式会社「team145」代表取締役の石郷学さん。石郷さんはメルマガ『週刊145マガジン「腹割って話そうぜ!」まぐまぐ!出張版』で今回、「ワークマンカラー」がさまざまなメディアで報道されているような「ファッション業界への本格参入」ではない理由を解説するとともに、その本質を「新しい切り口」の提案であるとしています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊145マガジン「腹割って話そうぜ!」まぐまぐ!出張版』2023年2月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、2月分のバックナンバーをお求め下さい。
“ワークマンカラー”ファッション業界へ本格参入!ではない理由
ファッションブランドになるわけではない
「ワークマンカラー」と大きく銘打たれ、華やかなショーで始まった新作発表会。ファッションに本格的に進出。そう報道されていますが、違うのです。
どういうことでしょうか。多くのアパレル企業はブランドを提案して、そのブランドごとに新商品を展開して、多くのお客様の関心を惹きますよね。しかし、ワークマンが提案するのは、別に新しいブランドではありません。
提案するのは切り口です。だから、今まで通り、機能服重視の「ワークマン」の商品を出し続けるだけで、実は「何も変わらない」。
「切り口」こそが彼ららしい戦略であり、存在感を示せるだけの差別化があるのです。
なぜ、新たな切り口が必要なのでしょう。実は「ワークマン」と「ワークマンプラス」では1,000億円が市場規模だと述べています。
それに対して「#ワークマン女子」のそれはその2倍から3倍はあるだろうと同社は語っています。では「2倍から3倍に引き上げるために何が必要か」。その受け皿として「#ワークマン女子」という切り口だけでは「足らない」と考えたからなのです。
能ある鷹は爪を隠す作戦
じゃあ、どうやって不足分を補うのか。そこが切り口なんですよね。
今までワークマンは機能性と安さを売りにしていました。ところが、その姿勢とは裏腹に実際には「#ワークマン女子」の利用者(主に女子)のうち機能を気にして買っている人が半分にも満たないという現実。
これはいつも僕が言っている通り、男性はスペックを重んじる反面、女性は感覚で選ぶからです。そこで彼らは機能性を売りにしつつも、ファッション性を前面に出す事に意味があると考えたのです。
例えば、彼らの商品には背中に二つファスナーがついているカッパがあります。なぜファスナーがついているのか。それは背中にバックを背負って入れられるようにするためです。こんな商品は基本、ファッションを貫くと存在しません。
だから、彼らはその上で原色を使ったクレージー柄と呼ばれるものを取り入れるわけです。その根本は機能性にあるのだけど、デザイン性を前面に打ち出すというわけなんです。
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店の看板を変えて商品の見え方を変える
このデザインを前面に打ち出すために「切り口」を増やします。そうやって、より多様性に訴えかけることが妥当だと考えているからです。ここが「#ワークマン女子」だけではなく「ワークマンカラー」を用意する所以です。
以下の5つのスタイルで構成されています。
一番上が「Vivid」。ワークマンは元々作業着に起源があるから、赤や黄色など自らの存在を誇示して危険から守る姿勢がある。そういうカラーを用いるというのがこのスタイルです。
続いて「Tough」。元々の作業服をよりスタイリッシュに着こなす。
最後に「Travel」。彼らが脚光を浴びたアウトドアの要素をトラベルまで範疇を広げて提案します。
新たな挑戦も
彼らにとって挑戦なのが、まず最初に「Sustainable」。例えば、デニムを使うにしても製造工程で薬剤を減らしたり、素材にバナナを使ってみたり。今後、最終的には、プライベートブランドの約半分はサスティナブルな商品にしていくことを目標に掲げました。
もう一つは「Trend」。フェミニン的なコーデと謳ってはいるけど、それだけではありません。そこだけで勝負をすると、ファッションブランドとの差別化はできないですから。
機能性はトレンドを追う女性にとってもプラスになることが多い。例えば、ポケットを多くして、バッグが小さい女性の持ち物への負担を軽減する。つまり、“能ある鷹は爪を隠す”って作戦なわけです。
これらの5つのスタイルを提示しつつ、ワークマンcolorsという店も都内で秋から展開予定です。都心ではこのワークマンcolorsのお店を増やし品数は減らしてシーン提案を重んじます。地方では客層が広いので、#ワークマン女子で包括的な女性向けを意図します。
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今も昔もこれからも作業着イズム
実を言うと、この「切り口」に関してことさら丁寧に書いたのには理由があります。
この発表を受けて僕は、早速、会場内を回りながら疑問に思ったのです。どこへ行っても「Vivid」や「Tough」など、それで区分けされたコーナーが存在しない。
それで「さきほど、ステージで説明していた『ワークマンカラー』の『Vivid』はどこですか?」と聞いてしまった。それに対して、「いや、ないんですよ」と答えてくれたのがレディース製品企画の只野 沙弥華さん。
ええ?と叫ぶ僕。(笑)。つまり、商品単位で見れば、「Vivid」も「Tough」もない。普通に個々にバラバラで展示会で陳列されていて、それらはコーディネートによって初めて露見するのですと。なるほど!そうか「ワークマンカラー」はブランドではなく、「切り口」の提案であるとそこで初めて理解したわけです。
彼女の言葉が印象的で「今まで通りなんです。機能性重視のワークマンなんです」と。
それでこんなエピソードを話してくれました。作業着を買いにくるお客様が「作業のまま来るから、床を汚しちゃうから、きていいのかな?」などと言われたと。
スタッフとして店に入っていた彼女は何て言ったのか。
「何言ってるんですか。だから床を私たちはいつもきれいにして、お客様を待ってますよ」と。
ここに本質があります。ワークマンの本流である“ワークマン”を重んじるために、切り口を複数に分けるわけです。そこで入り口を分けることで、商品は同じだけど、気持ちよく買い物をしてもらいたいと。
商品は同じ。でも店ごとのフィルターが異なる
だから、何も変わらない。どこのお店に行こうが、彼らの提案する商品は手に入る。けれど、その店ごとにフィルターをかけて、色分けする事で、それぞれのユーザーが入りやすくしているに過ぎないのです。道標を作っているのです。
この話が深いのは生産の方針にも直結するからです。流行を目指すように思わせておいて、実は時期はずれの閑散期で商品を作ることで、コストを抑えています。
矛盾していると思ったんです。でも、それは違いますよね。標準的な商品を作っているのだけど、店ごとに感度を高めてコーディネート提案でその流行を抑えようというわけです。
であれば、流行りも安さも追求できます。なるほどねと。
だから、ファッションブランドになろうとしているわけではありません。機能性の幅が広がっただけのこと。作業着イズムの進化です。
これ以外にも「ワークマンプレミアム」など高価格帯の予定があることを明かしました。それだけ間口が広がる分、コアなお客様も同様にフォローしていくというわけです。手堅いですよね。
確かに、それであれば錚々たるファッションブランドを相手にその個性を発揮して対抗できますよね。だから、ファッションへの進出じゃないんです。
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