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表面上だけ改善した日韓関係とサウジ-イラン「和解」。その違いは何か?

韓国の尹錫悦大統領が訪日し岸田文雄首相と会談。戦後最悪と言われた日韓関係に改善の兆しが見えました。しかし、あくまで“兆し”で、それぞれの国内の反応を見るとまだまだ両国の間には溝があるようです。一方、世界を驚かせたのがサウジアラビアとイランの関係改善。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、日韓接近を後押ししたと見られる米国と、中東の両大国を和解へと導いた中国とで、外交スタンスの違いがはっきり見て取れると伝えています。

日韓関係の改善とイラン、サウジアラビア急接近に対比される米中の対外政策の違い

日本と韓国の冷え切った関係が、やっと正常化へと向かい始めた。そう考えて良いのだろうか。東アジアにとって大きなインパクトを持つニュースが駆け巡ったのは3月16日から17日にかけてのことだ。

韓国大統領として12年ぶりに訪日した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が岸田文雄首相と会談、シャトル外交の再開と日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化などを決めたのだ。この動きは、日本政府の言葉を借りれば、韓国政府による「旧朝鮮半島出身労働者問題に関する措置」、いわゆる徴用工問題における韓国側の取り組みを日本が「評価した」からだという。

だが、トップ会談を受けた両国の雰囲気が高まっているのかといえば、そうではない。象徴的なのは3月16日の韓国KBSテレビのニュース番組『News 9』だ。冒頭、女性キャスターは「岸田首相から誠意あるお詫びはありませんでした」と、岸田首相が歴史問題で明確な謝罪や反省に触れず「歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」としたことを批判。韓国が差し出したものは得たものより多いと断じた。

細部では、映像の一部で尹大統領が日の丸に頭を下げているような映像を日本のメディアが流したことや、日本が海外の首脳の待遇では、4段階のうち最低のランクで迎えたことも報じられた。譲歩を繰り返した韓国は何を得たのか、と疑問を投げかけた。

悪いことに大統領府の移転に関し、風水師(天供)のアドバイスがあったとの疑惑も浮上し、大統領への逆風が強まっている。韓国の日本接近は国内での反発を招き、見通しも暗い。そもそも岸田政権はアメリカの意向と国内世論に汲々とするしかなく、大きな決断を期待できる相手ではなかったのだ。

尹大統領が持ち帰ろうとした「日本が輸出規制措置を解除した」という小さな手柄も、早速、西村康稔経済産業相が17日の記者会見で「措置を解除したわけではない」と否定。早々と梯子を外されてしまった。

もっとも尹大統領の日本接近には、多くの海外メディアが指摘したように、背後にアメリカの意向が働いた。おそらく尹大統領は核兵器に関する何らかの見返りを期待しているのだろう。だとすれば尹大統領の収支を俎上に載せるのは時期尚早なのかもしれない。

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アメリカが日韓関係を取り持とうとするのは、中国をにらんでのことだ。その中国は全国人民代表大会の期間中に驚くべき仲裁をやってのけた。宿敵であり、イエメンやシリアでは代理戦争さえ行ってきたサウジアラビアとイランの仲介だ。2016年から断交を続けてきた両国を国交回復へと向かわせたのである。

この中国の外交を当局者は一様に「中国の『グローバル安全保障イニシアティブ』の勝利」と繰り返した。グローバル安全保障イニシアティブとは2022年4月21日、ボアオ・アジアフォーラム年次総会の開幕式で習近平国家主席が打ち出し、以来ずっと中国の重要な外交の場面で繰り返されているキーワードだ。

実は、ウクライナ戦争の平和解決のため、中国は『ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場』を打ち出し、話題を呼んだが、このときも同時に出されたのが「グローバル安全保障イニシアティブ・コンセプトペーパー」だった。

グローバル安全保障イニシアティブが何を指しているのか。中国の今後の外交の肝になるので項を改めて触れてゆきたいと思うが、今号では中国が仲介したサウジアラビア・イランと日韓の関係改善の違いについて焦点を当ててゆきたい。

両者の決定的な違いは、まず日韓が対北朝鮮やインド太平洋を強調していることでもわかるように安全保障を意識したものだということだ。これに対しサウジアラビアとイランの国交回復は、そのベースを経済発展に置いている点が明らかに違うのだ。

欧米からの厳しい制裁に晒されてきたイラン経済は国内のデモなどでさらにダメージを深めていた。一方のサウジアラビアは脱石油を掲げ、次の展開を模索しなければならないという事情があった。サウジアラビアは脱エネルギーを視野に、日本に秋波を送っていた時期もあったが、ここにきて対米関係の悪化もあり、中国に大きく傾斜したと考えられる。

これに関し中国中央テレビ(CCTV)のニュース番組『今日亜州』は16日、興味深い切り口で両国の結びつきを扱っている。中国の対中東諸国向けの輸出がここにきて急増したというのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年3月19日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 首相官邸

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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