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顧客データ「盗み見」の卑劣。大手電力会社を「新電力つぶし」に走らせる岸田政権の無為無策

大手電力会社による独占を解消する目的で、2016年に完全自由化された電力の小売り。しかし彼らの「やりたい放題ぶり」はとどまることを知らないようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、カルテルや顧客情報の不正閲覧など、次々と明るみに出る大手による不正行為を紹介。さらに日本において再生可能エネルギーの普及が立ち遅れている理由を解説するとともに、再エネに対する姿勢をはっきりさせることのない政府を批判しています。

顧客データを盗み見。新電力会社を営業妨害の大手が取り組むべきこと

岸田政権は原発回帰をめざして原子力政策を大転換した。その一方で、資源小国日本を救うであろう再生可能エネルギーの普及は、諸外国に大きく後れをとっている。

その原因としてコストや環境、技術などさまざまな問題が指摘されているが、電力の全面自由化をうたいながら、いぜんとして大手電力会社が送配電の実権を握っているため、再エネを扱う新電力会社の経営が成り立ちにくくなっている面も否定できない。実際、新電力が撤退するケースも目立っている。

大手電力会社は自らの経営努力の足りなさを棚に上げ、電気料金の大幅値上げを申請したり、カルテルを結んだり、顧客無視でやりたい放題だが、さすがに当局もこれを見過ごすわけにはいかないとみえ、この3月末、独禁法違反で、中部、中国、九州の電力3社が公正取引委員会から総額約1,010億円の課徴金納付命令を受けたのに続いて、大きな動きがあった。

関西電力と九州電力の社員が、子会社の送配電会社のシステムを通じ、商売ガタキである新電力会社の顧客情報を見ていたとして、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(電取委)が、業務改善命令を出すよう西村康稔経産相に勧告したのだ。

大手電力が地域独占する状態を解消し、自由競争により顧客サービスを高める目的で「発送電分離」が行われたはずなのに、親会社・子会社の関係が働いて、いまだに大手電力が送配電会社を支配し、新電力に移った顧客をとり戻そうとしているようなのだ。なんとも不公平な実態である。

電力事業は大手10社が各地域で独占していたが、それでは電気料金が割高になるため、段階的に自由化を進め、2016年に完全自由化された。これにより、電力小売に多くの新電力が参入した。

しかしこの段階では、「発電」と「小売り」が自由化されたものの、「送電」を大手電力会社が握ったままだったため、送電網に再エネ電力を接続するのを拒むような動きも多々あった。

このため、2020年4月、大手電力会社から送配電部門を法的に切り離す「発送電分離」が行われたのだが、これでも不十分なことが顧客データ盗み見事件で露呈した。

関西電力社員が昨年12月に内部告発したのが事件発覚のきっかけだ。子会社である「関西電力送配電」のシステムにアクセスし、新電力の契約者の名前や電話番号、電力使用量など顧客情報を盗み見し、自社から新電力に切り替えたユーザーらに対してより安い電気料金を提示する「取り戻し営業」をしていた。

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「原発の積極活用」の国策から抜け出せない政府

家庭や企業に電力を届ける送配電網は、もともと大手電力の設備であり、新電力もそれを使っている。だからこそ、新電力の顧客リストを送配電会社も共有するわけであり、送配電会社が中立的でなければ公正な競争は保てない。

その送配電会社の100%株主が大手電力であるという仕組みは、もともと問題があった。大手電力の送配電部門を形だけ別会社にする「法的分離」ではだめで、「所有権分離」が必要不可欠なのだ。

それができないのは、要するに大手電力が拒否しているからだ。そこに天下りする経産省官僚も既得権死守に加担していると見ていいだろう。

日本の発電電力量に占める再エネの比率は2021年度で22.4%である。だが、水力発電を含んでおり、これを除くと、全体の14.6%ほどに過ぎない。ヨーロッパ主要国や中国と比較してかなり低い。太陽光発電が爆発的に増えたはずなのに、なぜその程度の普及率なのか。

その原因として真っ先にあげられるのは、「系統制約」というやつだ。早い話、送電網の能力が限られているため、天候に左右される再エネだと需要と供給のバランスが取りづらくなるというわけだ。しかしこれは多分に、再エネに消極的な大手電力の言い訳といった側面もなきにしもあらずである。

山地が多く平地が少ないという日本列島の事情もある。そのためか、たとえばメガソーラーに必要な広い敷地スペースを確保しようと森林伐採をして周辺の環境を破壊したり、安全性の低い安価な土地に太陽光パネルを設置したために土砂崩れの原因となるケースもある。コストダウンで暴利をはかる業者や投資家の思惑が、再エネのイメージを落としているのだ。

再エネ技術の発展が遅れ、発電コストが高いという問題もある。たとえば太陽光発電パネルの製造技術や性能において、かつて日本は世界をリードしていたが、その後は再エネに対する政策支援が十分に行われなかったため技術革新が停滞してしまった。

その一方で、政府の支援を受けた中国など競合国はグローバルな事業展開をはかり、効率の高い太陽光発電パネルの製造技術を急速に進化させ、低価格で大量生産できるようになっている。

しかし、こうした数々の障壁を乗り越えなければ、未来はない。力強く前進するには、政府が高い目標を掲げる必要がある。

政府は2030年度の温室効果ガス46%削減に向けて、野心的目標として再エネ比率36~38%をめざすとしている。以前の目標に比べると高くはなっているが、この数字を「野心的」というのでは、まだまだ消極的と言わざるを得ない。原発を積極的に活用するという国策から脱却できないため、再エネの発展をあるていど抑えようとしているのではないかと疑いたくなるほどだ。

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2035年までに90%の脱炭素化の実現が可能

3月1日に公表された米国のローレンス・バークレー国立研究所の政策提言「2035年日本レポート:電力脱炭素化に向けた戦略」は、この日本において、2035年に再エネを70%に増やすことが可能だということを示している。

昨年のG7サミットで合意された「2035年までに電力部門の完全または大部分の脱炭素化」を受けて、バークレー研究所は最新のモデルによる解析を行い、日本の電力部門における再エネシフトの実現可能性を検討した。

その結果、太陽光発電、風力発電、蓄電池技術のコスト低下トレンドにより、再エネの割合を大きく増やすことができ、新規に火力や原子力発電所を建設することなく、2035年までに90%の脱炭素化が実現できることがわかった。

ただし、そのためには「2035年までにクリーンな電力を90%まで高める政府目標や、そうした目標に一致した再生可能エネルギー導入目標などの強力な政策が必要となる」と指摘している。

日本は深刻なエネルギー安全保障リスクを抱えている。資源に乏しく、エネルギー供給の約85%を化石燃料の輸入に依存している。一方で、日本には風力や太陽光のエネルギーのポテンシャルが豊富にある。それを活かしたエネルギー転換を進めることができれば、エネルギー自給率が高まって、安全保障につながる。

再エネの普及に立ちはだかる障壁を乗り越えるには、政府が電力システムの制度的な矛盾を解消するとともに、バークレー研究所が提言するような高い再エネの政策目標を掲げる必要がある。

大手電力各社はすでに全国各地で太陽光発電や風力発電を展開しているが、政府の姿勢がはっきりすれば、再エネ技術開発への大規模投資を安心して進めやすくなるはずだ。目先の利益にとらわれ、顧客データを盗み見して新電力の成長を妨害している場合ではない。

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image by: Shutterstock.com

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【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

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