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アメリカの「機密文書流出」でウクライナが被る大き過ぎる3つのダメージ

アメリカの軍事・情報機関の機密文書がインターネット上に流出していた問題では、米国内はもちろん同盟国を始めとする関係国にもショックが広がっています。特にロシアとの戦争の真っ只中にいるウクライナにとっては深刻な事態です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、米メディアの報道を引きながら、ウクライナが被る3つのダメージを詳しく解説しています。

中国がひそかにほくそ笑むアメリカ・国防省からの情報漏洩事件の波紋

中国の機密文書には、赤い文字でタイトルがつけられていることから「紅頭文献」と通称で呼ばれる。4月7日、米紙『ニューヨーク・タイムズ』が報じ、全米を震撼させた機密文書の流出事件で、SNSに拡散されたとされる文書もまた、赤文字で「TOP SECRET//HCS-P/Si-G/TK//FGI//RSEN/ORCON/NOFORN/FISA」と印字されていた「紅頭」だった。

この問題の衝撃度の大きさは、記者からの質問に応じたジョン・カービー(ホワイトハウス戦略広報調整官)が、「(流出文書の)内容も、誰がやったかもよく分かりません」と厳しい表情で答えたことからもよく分かる。

米テレビ『PBS』は11日の放送で、キャスターが冒頭、「近年稀に見る最も深刻な情報流出と位置付けられる事件」と紹介したほどである。現地のメディアによれば、持ち出された文書は数100点に及び、2月下旬から3月上旬にかけてネットに投稿されてきた、明るみに出た問題は、まだ氷山の一角だとされた。

すでに流出が明らかになった内容で、最も深刻なダメージを負ったのは、どこの誰なのだろうか。報道を整理すると、それはウクライナだと考えられる。次いでウクライナを支援するバイデン政権だ。

国防総省からの文書流出であれば、軍や政権に影響が及ぶのは当然だが、その禍は海を越えても広がった。アメリカの同盟国やパートナー国だ。具体的に名指しされたのは韓国やイスラエル、エジプトなどの国だが、彼らは自らの意思とは関係なく内情をさらされてしまうことになり、困惑が広がったのである。

前出『PBS』によれば、流出したのは統合参謀本部議長への説明のために用意された文書だという。それほど重要な資料が漏れたとなれば、多くの点でアメリカに強い逆風が吹くことは避けられない。

まずは、ロシア・ウクライナ戦争へのダメージだ。この視点で最初に懸念されるのは、春から反転攻勢に出ようと準備してきたウクライナ軍の作戦計画への悪影響だ。前出『PBS』で解説を担当した記者によれば、文書には「ウクライナにおける反転攻勢について、いつ、どの旅団が準備を終えていて、どの武器を準備するかについてまで具体的に日付入りで示されている」という。

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また2点目の懸念として関係者が言及したのが、ウクライナ側がいま直面する物資の枯渇というアキレス腱を文書が暴露してしまったことだという。

各紙の報道によれば、ウクライナ軍がいまのペースで迎撃ミサイルを使い続ければ、S300のミサイルは5月3日までに、ブークのミサイルは4月中旬までにすべて枯渇してしまうとの分析(2月28日付けの文書)が記されているというのだ。

ウクライナの旧ソ連時代の防空設備が尽きるとの指摘は、アメリカがいまドイツやスウェーデンと協力して西部の防空部隊の編成を急いでいる事実とも符合するので、重い指摘だ。

そして3番目のダメージとして挙げられているのは、アメリカが具体的にロシアについてどの程度の情報をつかんでいるのかが明らかにされてしまったことだ。

文書には、アメリカが現地でワグネルの情報を傍受していたことが具体的に記されている。例えば、ワグネルがNATO(北大西洋条約機構)加盟国であるトルコに、武器の提供を依頼していたことや、ハイチ政府に治安支援を依頼していたことなどだ。

当然、ロシアは今後、自国に空けられた情報の穴を埋めてくるはずだ。これはアメリカがこれまで重宝してきた重要なスパイ網を一つ失うことを意味する。これが主にロシア・ウクライナ戦争へと及ぼす負の影響だ。

次に懸念される問題は、アメリカと同盟国・パートナー国との亀裂だ──

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年4月16日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:monticello/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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