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5月の広島サミットで「首相暗殺テロ」発生の可能性も。日本外交の“隙”を狙う隣国に注意せよ

4月15日に発生し、世界のメディアも大々的に伝えた岸田首相襲撃事件。昨夏の安倍元首相の殺害事件を想起させる手口に、ネット上では同事件と比較して賛否が巻き起こっています。そして今回、幸いにして負傷者もなく岸田首相も無事でしたが、SPの爆発物への対応や警備の甘さなど、大きな課題が浮き彫りになったのもまた事実です。この事件を取り上げ詳しく解説しているのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、広島サミットが首脳暗殺テロの標的になる可能性と、中国がそのテロによって日本外交に生じる「隙」を突いてくる危険性を指摘しています。

G7広島サミットは「原爆投下 第2幕」となってしまうのか?

再び世界を震撼させる首相襲撃テロ事件が起こった。昨年7月の安倍元首相暗殺テロ事件の余震が今も走るなか、今度は和歌山で岸田首相を狙った暗殺未遂テロ事件が発生した。

応援演説で和歌山市内の漁港を訪れた岸田首相が演説を始めようとした直前、民衆に隠れていた男が突然パイプ爆弾を岸田首相に向けて投げ込んだ。岸田首相はSPに守られ現場からすぐに避難して無事だった。男はすぐに周辺にいた男たちに抑えられ、警察は兵庫県川西市に住む24歳の無職の男を威力業務妨害の疑いでその場で現行犯逮捕した。

この事件はすぐに海外メディアでの速報で伝えられ、ニューヨーク・タイムズや、ロイター通信や英国BBCなどは一斉にこのニュースを取り上げ、事件現場となった和歌山は安倍元首相が殺害された奈良の隣だ、悲劇の再来だなど昨年7月の事件と比較する形で報じるメディアが目立った。

浮き彫りになった2つの大きな難題

今回の事件からは(安倍事件もそうだが)、2つの難題が浮き彫りとなった。1つは、選挙と警備の関係だ。通常、首相や大統領が会談する場所は厳戒態勢が敷かれ、一般人が立ち入ることは不可能に近い一方、選挙は民主主義の根幹であり、候補者たちが自分の考えや政策を市民に訴える最も重要な機会となるので、そこに厳重な警備は馴染まない。厳重な警備体制のもとで候補者たちが市民に訴えても、支持に繋がらず落選を招くリスクもあろう。よって、選挙において候補者たちは自然に市民に接近しようとするものだ。しかし、首相や閣僚となれば却って暗殺されるリスクが高まるのも事実だ。民主主義の根幹である選挙が暴力によって脅かされてはならない一方、それによって人の命が奪われることも絶対にあってはならない。ここに選挙における警備の難しさがある。

そして、もう1つの方が差し迫った難題だ。執筆中の4月17日現在、軽井沢ではG7外相サミットが開催されているが、5月には広島でG7首脳サミットが開催される。このサミットにはバイデン大統領などG7諸国のリーダーのほか、韓国のユン大統領、インドのモディ首相、オンライン参加だがウクライナのゼレンスキー大統領などが参加し、台湾問題で緊張を高める中国やウクライナに侵攻したロシアに向けて強いメッセージが発信される予定だ。岸田首相にとっては自らの政治生命をかけて大きな分岐点になろう。

日本外交を窮地に追い込む首脳暗殺テロ

だが、今回の事件を受け、今後は広島サミットがテロの標的になる恐れが出てきた。当然ながら、現在日本警察に向けて厳しい目が向けられてはいるものの、世界的にも日本警察の能力は高く、G7サミットでテロ組織が大規模なテロを実行できる可能性は極めて低い。サミット会場周辺や各国大統領、首相が宿泊するホテル、広島駅や八丁堀や流川など人が集まる場所では厳重な警備体制が敷かれるだろう。

しかし、今回の事件からも分かるように、怪しいバックグランドもない個人による一匹狼的なテロを防止することは簡単ではない。本音を言えば、いくら警察の警備能力を向上させ、実現可能な最高レベルの警備体制を敷いても、日本が独裁国家でない限り、一匹狼的なテロは防止できない。ゼロコロナ的なテロ対策を敷かない限り不可能だろう。

そして、G7サミットのタイミングに合わせ、日頃から社会的な不満を抱く者による“目立ってやろう”との思いで無差別殺傷事件などが起これば、各国メディアも受け止め方はそれぞれとしても現地で報道はすることだろう。しかし、今回の事件のように、各国指導者を狙った一匹狼的な事件が起これば、それは原爆投下第2幕に等しい。当然ながら、それが既遂になるか、未遂で終わるかにもよってもその後の状況は違うだろうが、そういった事件が起こった時点で岸田首相がほしい“自由民主主義諸国による中国やロシアへの強い牽制的メッセージ”は出せなくなる。それどころか、各国首脳を狙った暗殺事件などが起これば、世界の日本警察への不信感が一気に強まるだけでなく、日本外交も窮地に追いやられることになろう。

確実に日本の隙をついてくる中国

今、米中対立の狭間で一番厳しい立場にあるのは欧州でもオーストラリアでもない、我々日本なのだ。それを多くの日本人が分かっていないのが最大の問題だが、今回のサミットで議長国として日本は、欧州やオーストラリア、インドなどが対中国で結束してくれるよう最大限努力しなければならないのだ。その際、暗殺テロなどが起これば、日本が抱える対中国での難題(尖閣や東シナ海での油田開発、そして台湾など)を各国は理解したくなくなるだろう。

そして、そういった隙を中国は間違いなく突いてくる。最近、中国は日本が対中で米国と結束することに強く怒っているが、G7サミットで暗殺事件などが発生し、日本と米国、欧州との間で亀裂が広がれば、それを利用して日本へ経済的圧力を強化し、台湾情勢でもよりいっそう強硬的な姿勢に転じてくる可能性がある。G7サミットで和歌山のような事件が起これば、上述のようなことが考えられる。

image by: 首相官邸

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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