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グーグル日本元社長が苦言。ChatGPTを触らぬノリの悪い日本の経営者たち

あまりの性能の高さを危険視し、使用を制限する国まで出るに至ったChatGPT。はたして我々は、この新しいツールとどのように接してゆくべきなのでしょうか。先日創刊したばかりのメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作でも知られる辻野さんが、AIの歴史を振り返りつつ各種生成AIの今後について予測。さらにビジネスの世界に身を置く人間に求められる、「生成AIとの関わり方」を提示しています。(この記事は音声でもお聞きいただけます。

最近気になったニュースから。ChatGPTについて

ChatGPTのデビューは昨年11月ですが、日本でも年明け位からぼちぼち話題になり始め、最近はすっかりこの話題で持ち切りですね。先日は開発元であるOpenAIのサム・アルトマン氏が来日して、岸田首相や自民党議員たちと懇談したことも広く報道されました。

ChatGPTについてはすでに大勢の人たちが、さまざまな視点から解説したり論評したりしていますが、私もこの話題について技術史的な観点も含め、簡潔に取り上げておきたいと思います。

ChatGPTのような、文章、画像、音声、プログラムなどさまざまなコンテンツを生成することができるAIを生成AIとか生成系AIなどと呼びますが(Generative AIの訳)、そもそもAIの研究開発には1950年代からの長い歴史があり、ブームと冬の時代を交互に繰り返してきました。

50年代から続くAI研究の長い歴史

私がまだ大学にいた1970年代後半から80年代初めは、「人工知能の父」とされるMITのマービン・ミンスキー博士などが活躍した1960年代の第一次AIブームが過ぎ去った後の冬の時代が終わり、エキスパートシステムと呼ばれる推論マシンの登場で、ちょうど第二次AIブームが幕を開けた頃でした。日本でも1982年に「第五世代コンピュータープロジェクト」と呼ばれる国家プロジェクトが鳴り物入りで立ち上がり、大学での所属研究室でも大いに注目していましたし、研究テーマとしてもAI関連のテーマが人気でした。

しかしながら、一時期もてはやされたエキスパートシステムは、人力でやるしかなかった知識ベースの構築がネックとなって限定的な成功に留まりました。また、期待された第五世代コンピュータープロジェクトも大きな成果を上げられないまま、次第に世間の関心を失っていきました。第二次AIブームは結局10年あまりで下火となり、以降、AI研究は再び冬の時代に戻ってしまいました。

その後、2010年頃から、人間の神経細胞の仕組みを模したニューラルネットワークを基にしたディープラーニング(深層学習)が注目されるようになり、いわゆる第三次AIブームといわれる時代に入りました。ニューラルネットワーク自体は古い研究テーマですが、ディープラーニングにより、精度の高い自己学習が可能となったAIは、インターネットや半導体の飛躍的な発展にも支えられて、ついに二度と冬の時代に逆戻りすることのない継続進化のステージを迎えたといえます。

2016年には、まだまだ人間の方が強いと思われていた囲碁の世界で、グーグルが買収した英国のAIベンチャー ディープマインド社が開発した「アルファ碁」が、韓国人のトップ棋士イ・セドルとの5局勝負を4勝1敗で勝ち越して、世間に大きな衝撃を与えました。個人的には、ここから既にシンギュラリティ(*)の時代に入ったと捉えています。すなわち、シンギュラリティ元年は2045年ではなく2016年だったということです。ちなみにこの年は、前述のミンスキー博士が亡くなった年でもあります。

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進化を続ける技術革新とどう向き合うのが正解か

その頃から、急速な進化が想定されるAIに関して、肯定論、否定論、慎重論とさまざまな議論が噴出するようになりました。イーロン・マスク氏や亡くなったスティーヴン・ホーキング博士などは「人類を滅ぼす可能性のある技術」とまで発言して警鐘を鳴らすほどで、悪用を避けるためのAI倫理規定などが、各所で検討されるようになりました。ちなみに、前述のサム・アルトマン氏も「AIが人類を滅亡させる可能性は否定できない」と述べています。何だか映画の『ターミネーター』を思い出しますね。

ChatGPTを始めとした各種生成AIは、このような一連のAI開発の歴史の延長線上に登場したものです。そして確実に言えることは、ここまで進化したAIは今後も後戻りすることなく進化を続けていくということです。イタリアなど一部の国や、行政機関、学校などで利用を禁止したり制限したりする動きもありますが、禁止や制限をしたところで進化が止まることはありません。とくにインターネットが普及して、世界中の人たちとの情報やデータの共有が瞬時に可能となってからは、技術革新のスピードが格段に速くなりました。今後、短期間にさまざまな局面を乗り越えながらAIは急速に発展して、瞬く間に我々の日常で当たり前の存在となっていくのは自明の理です。

このように、どんどん進化する技術革新に対して、我々はどう向き合うのが正解なのでしょうか?いろいろな意見があるでしょうが、私としては、自由にアクセスできるものであれば、何はともあれまずは自分で触ってみる、使ってみる、ということを強くお勧めします。ChatGPTについても同様です。技術革新に対して無関心でいたり、いたずらに恐れたりするのではなく、とりあえず使ってみる、という好奇心やノリの良さはとても大切です。良いところも悪いところも、実際に使ってみないことにはわかりません。

グーグル翻訳やDeepLをほとんど使わなくなった理由

ちなみに私自身は「息をするようにウソをつく」と悪口を言われるほど誤回答が多く含まれることも理解した上で、調べ物をするときやプレゼン資料の構成を考えるとき、ECで海外に販売する商材を検討するときなどに、いろいろと注意しながらChatGPTを試しています。今のところ一番重宝しているのは、英語の文章を作るときです。これまでは補助的にグーグル翻訳やDeepLを使っていましたが、今ではproofreadingや翻訳をChatGPTにお願いするようにしています。文法的には間違っていない英文でも、よりネイティブな表現に修正してもらうなど、非常に重宝しており、グーグル翻訳やDeepLはほとんど使わなくなってしまいました。

一方で、経営者の集まりなどに呼ばれて講演するような機会に、聴衆の皆さんに手を挙げてもらうと、この4月末のタイミングでもまだChatGPTを実際に使ったことがない、とする人がほとんどです。私は、ここにもデジタル後進国などと言われるようになってしまった日本の埋没の原因があるように感じます。仮に同じ質問をアメリカの経営者たちにすれば、おそらくほぼ全員がとっくに使ってみている、と反応するでしょう。

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「好奇心が弱くノリが悪い」日本の経営者たち

ChatGPTには、簡単な手続きでサインインすれば誰でも無料で使えるFree planが用意されています。本来、経営者であれば、その存在を知った瞬間にどんなものなのか興味津々、使ってみずにはおれない、そしてそれがどんな新たな事業創出につながるのか、現業を改善するのにどう役立つのか、さかんに妄想を膨らませたり、周囲と意見交換してみたり、というのがあるべき姿なのではないでしょうか。もちろん、日本にもそのような経営者はたくさんいると思いますが、しかし、上記の通り、一般的には日本の経営者の皆さんはかなり奥手といえるようです。先ほどの言葉を繰り返せば「好奇心が弱くノリが悪い」ということです。

どんな技術革新にも、必ず正負両面があります。AIにも人類の幸福に大いに寄与する正の側面もあれば、戦争や犯罪に悪用されたり、既存の雇用を消滅させていったりという負の側面もあります。サイバー犯罪の専門家によれば、既に闇サイトなどでは、ChatGPTの悪用ノウハウがさまざま出回っているとも聞きます。能天気に諸手を挙げて歓迎できるわけではありません。しかし、正の側面を思いきり引き出して活用し、負の側面は極力抑え込む、というのがまさに人類の英知です。それを踏まえ、少なくともビジネスの世界に身を置く人たちは、負の側面に関する議論や必要な対策については、法律家や政治家、学者などに任せて、このChatGPTをはじめとした生成AIの可能性がもたらす明るい未来を想定した、ノリの良い発想や行動を心掛けて欲しいものです。

* シンギュラリティ(Singularity)は特異点という意味で、AIが人類の知能を超える技術的特異点のこと。または、それにより人類の生活が激変するという概念のこと。米国の学者であるレイ・カーツワイル氏が提唱した未来予測で、同氏は2045年にシンギュラリティに到達すると予測している。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年4月28日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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