MAG2 NEWS MENU

1人1年金にも例外が。65歳以降の遺族厚生年金はいくら貰えるのか?

65歳までは1人1年金しか貰えませんが、65歳以上になると遺族厚生年金と障害基礎年金という例外があります。自分がどれだけの年金を貰えるのか?今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』で、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが詳しく解説します 。

働いた事で受給中の遺族年金の計算式が変化する時と、障害基礎年金を受給できる時

1.遺族厚生年金の2つの計算

結構多くの人が受給する事がある遺族厚生年金ですが、65歳未満の時と65歳以上になってからの受給の仕方は全く違うものになります。

何が違いを生むのかというと、年金の原則は何だったでしょうか?

そうですね、1人1年金です。

つまり、年金を貰う場合は1つの種類の年金受給を選ぶ必要があるという事です。

例えば障害年金と老齢の年金の両方を受給しようとしても、どっちか有利なほうを選択して受給してくれという事ですね。

遺族年金と障害年金の両方が貰える場合も、どちらか有利なほうを受給してくれという事になります。

年金は今まで支払ってきた保険料の対価という性質もあるのに、どうして両方貰えないのかというと過剰な社会保障となってしまうからです。老齢年金、障害年金遺族年金それぞれ何を目的としているのかというと、受給者の生活保障です。

それなのに重複して支給されたら二重の生活保障となってしまうので、過剰給付となってしまいます。

なので昭和61年4月の年金大改正時に、年金は大原則として1人で1種類の年金を貰ってくださいねという事が固い約束事項となりました。

その前の法律だといくつか重複して受給できる場合もありましたがそれも昭和61年4月以降の法律では不可に持っていく事になりました。

よって、65歳まではどんなに願っても1つの種類の年金を受給せざるを得ないです。

ところが65歳になると原則の例外にあるのが、遺族厚生年金ですね(あと障害基礎年金)。

ただし、65歳以上で自分自身の老齢厚生年金があると、遺族厚生年金は減らされてしまいます。

完全な重複支給ではないわけですね。

例えば老齢厚生年金が40万あって、遺族厚生年金が90万円あったら老齢厚生年金分の40万円が遺族厚生年金90万円から引かれて50万円が支給されます。つまり老齢厚生年金を超える差額を遺族厚生年金として支払う形という事ですね。

逆に自分の老齢厚生年金が90万円で、遺族厚生年金が40万であれば差額支給できる遺族厚生年金が無いので、遺族年金は無しとなります。

このような支給のやり方を65歳からの年金ではやってるので、この仕組みは必ず頭に入れておく必要があります。

 

 

この記事の著者・hirokiさんのメルマガ

登録はこちら

なお、65歳からは国民年金から老齢基礎年金の支給が始まるので、それとの併給は何も引かれる事無く受給が可能です。よって遺族厚生年金+老齢厚生年金老齢基礎年金という受給の仕方が可能という事ですね。

さて、この老齢厚生年金との差額を遺族厚生年金として支払うという仕組みは平成19年4月改正から導入されました。

それまでは老齢厚生年金を選ぶか、遺族厚生年金を選ぶかの完全な選択でした。

老齢厚生年金を貰えるというのは、それまで自分自身が厚生年金に加入して働いた対価として受給できるものですが、今まで働いて築いた厚生年金期間を諦めて、配偶者の死亡から発生した遺族厚生年金を選ぶという事になりますよね。

「どちらかを選択せよ」というものでしたから、遺族年金を選択したらせっかく今まで働いてきた厚生年金期間が何だか無意味な状況でした。

そのため、じゃあまずは自分が働いてきた分の老齢厚生年金は必ず貰うものとしつつ、それよりももし遺族厚生年金が金額多いなら差額を支給しようという形に平成19年4月1日以降の死亡から変化したわけです。

年金総額は平成19年3月31日までのやり方と別に変らないんですけどね。

ただし、老齢は課税対象になりますが、遺族年金は非課税なので税金や社会保険料の負担が増えるような形にはなった印象ですね。

そのように、自分が働いた分の厚生年金はちゃんと貰えるようにしようという要望が平成19年4月改正に繋がったわけです。

しかし、自分が働いた分も反映させれるようにしたのはその前からあって、それが平成6年改正からでした。

遺族厚生年金と老齢厚生年金の貰い方は前述した方法が一般的なのですが、65歳以降の人はもう一つの計算式でも計算します。

それは死亡した配偶者の老齢厚生年金の半分と、自分自身の老齢厚生年金の半分を遺族厚生年金として受給しようという形です。

例えば死亡した夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)は120万円で、妻の老齢厚生年金は80万円だったとします。

そうすると普通に計算すると、夫の老齢厚生年金の4分の3である90万円が遺族厚生年金になりまして、妻の老齢厚生年金80万円との差額である10万円を遺族厚生年金として支給するという事になりますよね。

ですが、その夫の遺族厚生年金を更に3分の2にすると90万円×2÷3=60万円となり、妻の老齢厚生年金80万円を半分(2分の1)の40万円を足したら100万円になります。

この100万円を遺族厚生年金として支払うという計算もやります

そうすると、先に計算した遺族厚生年金90万円よりも100万円のほうが多いから、この100万円を遺族厚生年金として支給し、妻の老齢厚生年金80万円との差額である20万円を遺族厚生年金として支給する事になります。

なんか…4分の3とか3分の2とか出てきて複雑だなあと感じられたかもしれませんが、最初の夫の老齢厚生年金120万円×4分の3×3分の2=60万円になってますよね。

つまり、死亡した配偶者の老齢厚生年金額の半分と、自分の老齢厚生年金の半分ずつを受給しようというやり方が平成6年改正から加わったわけです。

このように遺族厚生年金を支給する場合は必ず、その2つの計算式を比較して多いほうを支給する事になっています

ただし、さっきの半分ずつの支給の計算は「夫婦」の場合のみです。

この2つの計算式で有利なほうを支給するわけですが、3分の2+2分の1の計算のほうが有利になるケースは、配偶者の老齢厚生年金(報酬比例部分)の額の2分の1を超えるようになるような場合ですね。

もし夫の生前の老齢厚生年金が120万円だったら、妻の老齢厚生年金が夫の半分である60万円を超えるなら、3分の2+2分の1の計算が有利になってきます。

なお、受給する人が配偶者以外の人(子、父母、孫、祖父母)であれば、3分の2と2分の1とかいう計算はしません。

原則通りの差額支給をするだけです。

というわけで、今回は65歳以降の遺族厚生年金の支払い方について考えてみたいと思います。計算式の変化のタイミングや仕組みの違いに気を付けましょう。

 

この記事の著者・hirokiさんのメルマガ

登録はこちら

2.働いてる最中に年金額が変わり、計算式が変わる

〇昭和28年8月生まれのA夫さん(令和5年中に70歳)

● 1度マスターしてしまうと便利!(令和5年版リニューアル)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。
https://ameblo.jp/mattsu47/entry-12780334941.html
● 絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和5年版リニューアル)
https://ameblo.jp/mattsu47/entry-12782489170.html

65歳から老齢厚生年金(報酬比例部分80万円+差額加算1万円)+老齢基礎年金約40万円の合計121万円を受給していました。

なお、A夫さんは国民年金期間などは無く、厚生年金のみ22年加入していました(その他は未納などで、カラ期間は無しとします)。

A夫さんには生計維持している妻B子さん(昭和30年4月2日生まれの68歳)が居ました。

B子さんの年金は老齢厚生年金(報酬比例部分38万円+差額加算1,000円)+老齢基礎年金50万円+振替加算39,565円(令和5年度価額)=920,565円を受給中でした。

さて、A夫さんは令和5年5月20日に病気で亡くなりました。妻B子さんには遺族年金は発生するでしょうか。

はい、まず遺族年金の計算をする前にそもそも遺族年金は発生するのかを見ていく必要がありますね。

死亡したのは年金受給中の69歳(無職)の時であり、死亡時の生計維持している遺族はB子さんのみでした。子はすべて成人して独立。

生計維持というのはB子さんが年収850万円未満で、A夫さんと住民票が一緒(生計同一)というような場合をいいます。扶養されてたーというような意味とはやや異なります。

B子さんはそれを満たしていたとして、生計維持の条件はクリア。

次にA夫さんの年金受給中の死亡なので、このA夫さんの年金記録が全体で25年以上あれば加入した厚生年金期間分の遺族厚生年金を支給します(老齢厚生年金貰うのに平成29年8月からは25年から10年に短縮されてますが、遺族年金の場合は最低25年要件は変わらず)。

ところがA夫さんは全体で25年以上無いので(厚年の22年のみ)、B子さんには遺族厚生年金は出ないのでしょうか?

実は「昭和31年4月1日」までの生まれの人は全体の年金期間が25年以上無くても、厚生年金期間が20年から24年あれば年金受給資格を得る事が出来る特例がありました(厚生年金短縮特例)。

 

この記事の著者・hirokiさんのメルマガ

登録はこちら

 

* この辺の歴史はかなり込み入った話になるのでこの記事では割愛します。とりあえず下記のような感じです

昭和27年4月2日~昭和28年4月1日生まれ→21年
昭和28年4月2日~昭和29年4月1日生まれ→22年
昭和29年4月2日~昭和30年4月1日生まれ→23年
昭和30年4月2日~昭和31年4月1日生まれ→24年

…あとは、25年以上必要。

※ 厚生年金の必要年数を15年から25年まで引き上げる過程を示した参考記事(2022年8月第254号)
https://www.mag2.com/archives/0001680886/2022/8

A夫さんの生年月日であれば22年の厚生年金期間があれば、それで年金受給資格期間を満たし、さらに全体の年金期間25年以上を満たした人と同等の扱いとなります。

よって、B子さんには遺族厚生年金が請求により令和5年5月20日受給権発生の翌月6月分からの支給となります。

・遺族厚生年金→単純計算ですがg万円÷4×3=60万円

あと、配偶者である妻が昭和31年4月1日以前生まれだと、経過的寡婦加算という妻の生年月日に応じた加算もあります(死亡した夫の厚生年金期間が原則として20年以上の場合に限る)

・遺族厚生年金(経過的寡婦加算)→年額19,865円(B子さんの生年月日による。令和5年度価額)

※ 経過的寡婦加算はなぜ昭和31年4月1日までの妻にしか付かず、その金額になるのかを示した参考記事(2022年1月第226号)
https://www.mag2.com/archives/0001680886/2022/1

・遺族厚生年金合計→60万円+経過的寡婦加算19,865円=619,865円

なお、B子さんは老齢厚生年金(報酬比例部分38万円+差額加算1,000円)があるので、遺族厚生年金619,865円-B子さん老齢厚生年金381,000円=238,865円が遺族厚生年金額(遺族厚生年金は夫婦の老齢厚生年金の半分ずつの計算よりも多かったとします)。

よって、B子さんの令和5年5月からの年金総額は遺族厚生年金238,865円+老齢厚生年金(報酬比例部分38万円+差額加算1,000円)+老齢基礎年金50万円+振替加算39,565円(令和5年度価額)=1,159,430円となります。

※ 補足

年金総額(非課税年金除く)+前年所得の合計が781,200円以下(令和5年10月からは778,900円の予定)の場合は年金生活者支援給付金が支給される場合がありますが、だいぶその基準額を超えてるので給付金は無しとします―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年5月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・hirokiさんのメルマガ

登録はこちら

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』

【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け