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Preschool classroom with yellow chairs and table

これが現実。どんなに「ずさん」な保育でも子を預けるしかない都市部の親

保育園や学童保育で虐待などが行われているというニュースが絶えず報道される昨今、この原因の一つに慢性的な保育士不足があります。今回の無料メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』では著者で現役小学校教諭の松尾英明さんが、 保育士不足とそれに伴う現在の保育園の悲惨な現状について詳しく語っています。

保育士不足と働き方改革と多忙

何かと話題になる保育園や学童保育の問題。
NHKなどは継続的にこの問題をニュースにして特集している。

参考:NHK首都圏ナビ 保育現場のリアル

そこに関連して、以前からの関心事の一つ、保育士不足問題について。
これは、子どもの虐待問題にも関係する重要事である。

近年、慢性的な保育士不足である。
保育士には、資格が必要である。
誰でもはできない専門職だから、資格が必要であり、不足する。
当たり前である。

では、実際の社会はどうなっているか。
保育士の数が足りず、保育園の数も足りないという事態になっている。
認可、無認可関係なく、不足である。
需要と供給の不均衡である。

そうなると、経営側的には資格が「邪魔」になってくる。
「認可外」であれば、概ね3分の1以上の有資格者がいればいい。
そうなると、大部分の保育者の資格が不要となり、とりあえず数の確保ができる。

ここ数年で、認可保育園でも、「パート」が認められはじめた。
「保育補助」といって、無資格でなれる。
これで現場には、保育の無資格の人が更に増えてきた。

そうなると、実は正規職員の負担は増える。
パートタイマーの場合は、基本的に必ず定時で帰す義務がある。
その分、残った数少ない正規職員に、消化しきれない残務は全て回ってくる。
「派遣、パートの待遇の悪さ」が取り沙汰されがちでそれは一面真実だが、その分の正規職員へのしわ寄せもかなり大きい。
(全ての業界において共通である。)

当然、「割に合わない」という理由で、正規職員のなり手が減っていくことが予想される。
たとえ資格があっても、それがきつい仕事となれば、パートタイマーなど非正規雇用を選ぶ人も増える。
悪循環である。

 

また「子どもを育てた経験があるから、保育もできるだろう」という考えは、かなり乱暴である。
それは「小学生相手の家庭教師をやっていたから、小学校で授業をしても大丈夫」というのと同程度の認識である。
やってみてどんな悲惨な結果になるかは、やった人なら知っている。
一人を一人で相手にするのと、一人で集団を相手にするのでは、必要な技能と知識が全く異なる。

仕事が忙しい親にとってはとにかく時間いっぱい預かってもらえることが重要なので、保育内容は後回しになる。
内容がどうであっても、預かってくれるなら助かる。
すると、残念ながらずさんな「保育」が行われるところも出てくる。

これが、保育という重要な分野で行われている。
ぐにゃぐにゃの柔らかい状態の子どもたちへの、保育の影響の大きさは測り知れない。
(年齢による喫煙の被害の大きさの違いのようなものである。)
「入れればいい」というのは、仕事をする親の論理としてはその通りだが、その代償は大きい。

どんなに愛情をもって我が子を育てているつもりでも、ついいらいらしてしまうというのが、人間の心情である。
それが、他人の子どもを複数いっぺんに預って、簡単に育てられるはずがない。
だからこそ「保育士」という資格にも意味があるのである。
(この資格を簡単に出してしまう場合の被害の大きさも言わずもがなである。)

ただ、保育士一人で複数の0歳児の保育をしている悲惨な現場を考えてみる。
そうすれば、いかなプロといえど、問題が全く起きないと考える方が難しい。
一人一人への対応も、大雑把にならざるを得ない。
物理的に見て対応する時間がないのである。

更に言うと、人員不足になるほど、本来「合格ライン」に届かないはずの状態であっても、採用になってしまう。
全国の教員採用の抱える問題と同じである。

首都圏のある保育園に勤める知人に聞いた話では、0歳時が自分で哺乳瓶を持って飲めるようになるという。
あまりの数の多さに、抱っこして飲ませることができず、寝っ転がって「自分で飲むしかない」状況になるからである。
驚愕である。

そして、みんなにテレビなどを観させて、一日を過ごさせる。
スマホやタブレットを与えている時と同じで、これで「大人しく」なる。
ある「一斉保育」の現場の現状とのことである。

 

ここで、「何てひどい保育園だ」というのは簡単である。
問題は、抱っこしようにも、何をしようにも、人出が足りないという根本的リソース不足の方である。
そして、そんな保育園であっても、親はとにかく預けたい、預けるしかないので、預ける。

そうして育った子どもたちの次の行く先は、小学校である。
問題が起きないはずがない。

当たり前だが、全ての保育園がこうという訳ではない。
むしろ、懸命に子どものために、健全な保育をしようとしているところが大多数だろう。
しかし、「多忙」と「無理」はすべてを壊す。
健全にやりたいのにおかしくなる保育園や、最初から金儲け主義で始める保育園が出てきても不思議ではない。

考えてみれば、「働き方改革」が進み、幼い子どもを預けて働くことが推奨されている。
そうなると、保育士の「働き方改革」はどうなるか。
これが進むほど、保育士の働き方改革は、悪化の一途を辿るという矛盾が起きる。
正規の保育士が「泥を被る」形になる。
当然、なり手は減る。

そして、その後の煽りを食うのは何よりも子ども自身であり、更には小学校現場であり、ひいては社会全体である。

結論として言いたいのは、社会に「過剰な依存」が蔓延しているということである。
自助努力で如何ともし難い現状に対し、「公」はそこまで助けてくれないというのが現実である。

人に迷惑をかけてもいいし、頼ってもいい。
しかし、誰かに頼ったとしても選択の最終責任は常に自分自身がとらねばならないということは念頭に置いておきたい。
苦しい者同士がお互いに消極的にもたれかかる「共依存」の関係では、落ちていくばかりである。
自立した者同士が積極的に支え合う「相互依存」の関係が理想である。

いずれにしろ、政府先導の働き方改革も何も、これらの問題が厳然とある以上、どこか絵空事である。
子どもを預けて働く親がより増えることへの負の面への解決策が見えない。
そしてこれら全ての根本は、日本の経済の問題であり、見えない貧困の問題なのかもしれない。

子どもを預かる全ての施設は、そういう複雑な問題の受け皿となっている。
保育園や幼稚園、学校に勤める以上、あらゆる複雑な問題は避けがたいという自覚をもって働いていく必要がある。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 松尾英明 【発行周期】 2日に1回ずつ発行します。

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