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5×3か、3×5か。「くだらない」掛け算論争を半世紀続ける教育現場

半世紀近くも決着していない「掛け算論争」というものが教育現場にはあるそうです。今回の無料メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』では著者で現役小学校教諭の松尾英明さんが、「くだらなさ」にあえてフォーカスし、その現状を語っています。

くだらない「かけ算論争」と決断できない教育現場

小2で「かけ算論争」というのがある。昔からある。何と、半世紀近くも続いて決着しないのだという。この「くだらなさ」に敢えてフォーカスしてみる。

例えば、次のような問題の場合である。

問:箱が3つあります。1つの箱にはみかんが5つずつ入っています。みかんはぜんぶで何個ありますか。

解:1箱あたり5個入りのものが3箱だから
 5×3=15 答え 15個

これで正解である。

ここの立式において「3×5」を認めよ、それが多様性の尊重だ、という議論である。「多様性」が都合よく濫用されている昨今。多様性の尊重とは、そういうことではない。

そもそも、この問題設定自体、立式の意味理解を測定することを想定して作られている。そうでなければ「みかんが5つずつ入った箱が3つあります」という問題にしているはずである。ちなみにこれは、演算上の「5×3=3×5」が成立するという話とは全く別の話である。

またある調査によると「8割越えの教員や塾講師」が「どちらでもよい」と回答したという。この「適当」さに違和感しかない(授業で国語の学力がつかないことにも通じる。「正解」がわからない以上、進んでいるのかぐるぐる回っているだけなのかわからない)。

ちなみに、上記の数字に素直に騙された人も多いのではないかと思う。先の「8割越え」の内訳を全く意識していない。この調査は「大手予備校」が「SNS」でたった「100人」を対象にしたアンケートである。塾講師と小学校教員の比率も全くわからない(その塾の講師99人と小学校教員1人かもしれない。もし塾の方針で「両方〇」と共通理解されていれば、当然そうなる)。

この程度の数字のトリックにほいほいとかかってしまうのが、SNSが主流の現代社会の病理である。情報量が多すぎるせいで、よく考えずイメージで「適当」に判断する習慣が蔓延してしまっている感が否めない。

実際に、この問題を授業で扱う時、どうするか。当然「この場合は3×5と5×3、どちらが正解か、どちらも正解といえるか」は必ず議論する。だから、テストでは当然正解が一つに定まる。正解でないものは、不正解である。事前に確認してあることであり、文句の出ようがない。

実際に見たことがないが、首尾よく授業中に見事な「3×5が正解」の説明をする子どもがいた場合はどうするか。それは、当然真剣な比較検討の対象となる。その上で、「どちらの式が、意味として誰に対してもすんなり伝わるか」も検討する必要がある。

なぜならば、式とは即ち「算数(数学)語」という共通言語だからである。読んだだけで、その言語を知っている誰にでも意味がすっと伝わる必要がある。

そもそも、問いたいのが「立式」なのか「演算の答え」のみなのかも曖昧なのである。だから、「答えさえ合っていればいい」という、台形の公式丸暗記みたいな話になっているのである。

こんなものにすら半世紀も決着がつけられないとは、何ということだろう。世間の言葉に右往左往して、代々上から下まで「決断」できない教育現場の哀れな姿が見受けられる。

何が正解で、何が不正解か。全てがこう割り切れるとは言わないが、少なくとも教える内容が定まっているものについては、堂々と教える教員でありたい。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 松尾英明 【発行周期】 2日に1回ずつ発行します。

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