数年前に話題になったベーシックインカム。すべての国民に毎月一律でお金が支給される制度ということもあり、導入を望む声は多いです。しかし、これは本当に現実的な政策なのでしょうか?人気メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんは、この財源の調達にフォーカスをあて考えています。
少子化と年金とその重要な背景
1.国民みんなに生活できるだけの所得を無条件に支給するという幻想
何年か前にベーシックインカムという言葉が流行りました。なんとなく経済の専門家のような方々もそれを支持していたような感じでした。
生活保護とは違う、国民みんなに生活資金を支給するという、そんなオイシイ話があるんだろうかと思いました。
まずすぐに頭に浮かんだのは財源ですね。どんな政策もそうなんですが、財源が調達できないと全く意味がありません。
どんなに凄く理想的な政策を叫んでも、じゃあどこからその財源を持ってくるの?という事になります。国がやるんなら絶対に税収を上げないといけない。
さっきのベーシックインカムは今の日本人1億2,000万人に無条件に生活資金を支給するという事は、1人につき10万円くらいを毎月支給する感じかなと。
という事は月に12兆円かかる。年間にして144兆円。そんな財源あるわけないし全く、考える価値の無い政策だなって思っていました。
まず今の国の一般歳入は110兆円ほどです。あまりにも巨額なお金だからイメージしづらいと思いますが、1万円札を重ねた距離にして1,100キロほどになります。では1,000億円だとどのくらいの距離なのかというと、1キロメートルくらい。1,000億円の1,100倍が110兆円ですね。
そんなにあるんだーと思われたかもしれませんが、この110兆円は全部税金で賄われていません。その中のせいぜい60~70兆円が税収で、残りの40兆円ほどは借金(つまり国債)で予算を組んでます。
予算を組むためには税金が足りないから、借金してどうにかこうにか予算を組んでいます。
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2.財源が足りない分は国債を買ってもらって調達するが、積もり積もったツケ
どっから借金してるのかというと、主に銀行や保険会社とかです。国民のお金(預金)が集まってる所なので、国が国債を発行して銀行に買ってもらってお金借りてるという事です。
そういえば国は国民からお金を借りている!というような話がありますが、僕らは別に国に借金した覚えなんてないですよね。
でも、人々は銀行に預金したりします。その預金を使って、国の国債を間接的に買っているわけです。だから国民が国に借金してるという事が言われるのです。
お金を借りなければ予算が組めないという状況はもう今から50年ほど前から毎年のように続いています。銀行はお金を借りてくれる企業がなかなか見つからないと、国債でも買っとくか…となります。国の国債を銀行が買って、お金を調達するのですね。
しかしながら、借りたお金は返さないといけないですよね。例えば令和5年予算では35兆円ほどの国債で予算を組んでますが、その予算の中から25兆円の国債費を返しています。
これを見ると借りたお金より、返すお金が少ないですよね。
じゃあどうなるかというと借金が溜まっていく事になり、昔からよく話題になってる国の借金とやらが1,200兆円ほどになっています。もちろん借金だからいずれは返さないといけません。
どうやって返すかといったら、それはもう大前提として税を引き上げる事が前提となります。でも僕ら国民は税金を上げるなんてけしからん!許さん!ってなりますよね。
国会議員も自分の票に響くから、じゃあ税を上げるなんて話は先送りするかあ…となって、将来の人の課題となります。選挙で増税しますというと大抵、物凄く反発されて支持を失います。
そして将来の人(今の子供や若い人)は、今まで溜まり溜まった借金を返済するために増税を受け入れる事になり、今までの人よりも税の支払いが大変になります。これが将来にツケを回してるという事です。
民主主義はもちろん今の政治では最善なのでしょうけど、ここに欠点があります。
景気が悪い時は国は借金を増やしても、お金をバラまいたり、必要でもない事業にお金を使って景気を良くしようとします。
でもその後景気が良くなればその時に税収を増やしたりして、それでチャラにすればいいかという流れになればいいのですが、先ほどのような国民の支持は得られにくいので実際にはそうはなりません。
景気が悪い時はせっせと借金してでもお金を使い、国民はそれに対して喜びます。しかし、じゃあ景気も良くなったし税を引き上げさせてもらうね!となると、絶対に国民は反対します。
国会議員も国民の支持を得られないという事は、票が取れない事態になるので「しょうがない…税を引き上げるのは今回はやめとこう…。後の人で頼むわ」という事になります。
そんな事が積もり積もった結果が、今の段階の1,200兆円の国の借金と呼ばれるやつです。
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3.税を引き上げる前に先に無駄を無くせ!はもう50年前からの話
税を引き上げろよって話がある時に、往々にして言われるのが国の無駄を省くのが先だろ!って言われます。
もちろん探せばある程度の無駄は出てくるでしょうけど、その無駄を省くっていう目的はもう昭和50年から始まってずーっと続いてるんですよ。今こそ無駄を省け!というものではなく、当の昔から始まっていた事なんですよ。
そういえば今から15年ほど前に民主党が政権交代した時に、無駄をなくして16兆円の埋蔵金だったかな、それを捻出するって言ってましたが結局7,000億円程度捻出しただけでした。
結局、無駄を省くのは無理、埋蔵金なんて無いという事を知り、当時の首相だった菅直人さんが突然消費税を5%から10%に引き上げる事を明言しました。民主党政権の間は消費税を引き上げない事を言っていたのに、突然の引き上げ宣言でした。民主党政権中は消費税を上げないと公約していたので、消費税増税反対派だった小沢一郎さんとの確執が勃発しました。
まあ、無駄を省くという考えはもちろん必要でしょうけど、日本はその考えに呪縛されてる感はありますね。
さて、このような国の予算の中で冒頭で話したベーシックインカムは現実的でしょうか。
考えるだけ無駄な議論と言えます。たとえベーシックインカムで一人10万円無条件に支給したとしても、医療や介護、保育やらそういう社会保障は別だからですね。
そして、年間144兆円のベーシックインカムのために、税の大幅な引き上げは避けられず、毎月に10万円はみんな無条件に支給されても税の負担が重くなりすぎて、結局手取りは減るわで生活が安定するとはとても思えないですけどね。
なぜ、そんな単純な弊害が想像できる中で、ベーシックインカムを真面目に支持する人が当時は人気だったのか全く分かりませんでした。
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4.少子化の始まり
さて、記事の最初からいきなり年金とは関係ない話で始まったのですが、あながち別問題というわけではありません。
少子化問題ですが、これも必要な財源を調達できなくなった事で問題を拡大させる要因となりました。
ところで、少子化の問題はいつから始まったのでしょうか。本格化したのは昭和50年からですね。
1人の女性が産む子供の数を表す合計特殊出生率が2.0を下回ったのが昭和50年入ったあたりからでした。2.0を下回ると、人口が減っていきます。
戦後の昭和20年初期は1人の女性が4~5人という、多産の時代がありました。その中でも特に子供の数が多かったのが昭和22年~昭和24年に生まれた団塊の世代と呼ばれる人たちです。各世代の中で最も人口が多い世代なので、その団塊の世代の人達が全て75歳以上の後期高齢者となる2025年を2025年問題と呼ばれたりします。
後期高齢者くらいの年齢になると、やはり医療費がとてもかかる年齢に突入するので、医療費の今後の増加が懸念されています。よって、負担してもらう医療費を年齢で区切るのではなく、所得水準で変化させる改正などもちょくちょく目にしますよね。
やはり、年齢ではなく所得で負担割合が違うというのが正しいのではないでしょうか。
団塊の世代の次に出生率が高かったのが昭和46年~昭和49年までに生まれた団塊ジュニア世代の方です。
このように日本人の世代の中で、人口が特に多い2つのコブがあるという事が想像できます―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年6月7日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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