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防衛費“大増税”で日本国民を殺す、岸田文雄「バイデン発言に抗議するフリ」の姑息

国会での十分な議論も経ずに、閣議決定で防衛費の大幅増額を押し通した岸田政権。アメリカからの要求があったことは明明白白ですが、岸田首相は「日本の防衛費増大は自分が説得した」というバイデン大統領の発言にすぐさま抗議の意を示しました。なぜ官邸は米国に対しここまで迅速な動きを見せたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、日本政府がそうせざるを得なかった理由を解説。さらに防衛費を確保するための増税を巡る、政権の姑息なやり口を厳しく批判しています。

どう見ても米の言いなり。それでも「日本の防衛費増大は自分の手柄」発言のバイデンに抗議の“フリ”の岸田

政治家が居心地のいい集会でスピーチするときは、よほど気をつけねばならない。ウケ狙いやリップサービスで、つい口が滑って本音をもらし、あとで訂正する羽目になることがしばしばあるからだ。

米国のバイデン大統領もそれをやってしまった。6月20日、カリフォルニア州で開いた支持者集会でのことだ。

「日本は長い間、軍事予算を増額してこなかった。しかし、どうだろう。私は日本の指導者と、広島を含めておそらく3回、異なる機会に会い、私は彼を説得し、彼自身も何か違うことをしなければならないと確信した」

「日本は、軍事予算を飛躍的に増大させた。日本が欧州での戦争に関心を持ち、ウクライナへの支援に貢献しているのはいつ以来か」

岸田首相が防衛予算を大幅に増額したことや、ウクライナ支援を強化していることについて、それは自分の説得によるものだと自画自賛したのである。

読売新聞が6月21日に報じた記事でわかったものだが、バイデン氏もまさか日本の最大手新聞に掲載されるとは想像していなかったに違いない。米国内の支持者たちに向け、自己宣伝の一つとして話したに過ぎなかったからだ。

記事になったことをバイデン大統領が知っているとすれば、日本政府からホワイトハウスへ連絡があったからだろう。松野博一官房長官は23日の定例記者会見で、この件についてこう話した。

「バイデン大統領の発言の真意は明らかではありませんが、ご指摘の発言を受けて、わが国の防衛費の増額はわが国自身の判断によるものであるとの事実について、そしてご指摘の発言は誤解を招き得るものであったとの日本の立場を説明しました。米側からは、米国としても日本の防衛費の増額は日本自身の判断だったとの認識が示されたところであります」

どういうルートで米政府に申し入れたのかについてはノーコメントだった。このような公式伝達の場合、通常は駐日米大使館を通じて連絡するものであり、今回もそうだったはずだ。

こうした迅速な対応には「防衛費の増額はわが国自身の判断によるもの」ということへの、岸田首相の強いこだわりが見て取れる。属国のごとく米国の外交・防衛方針に追随してきた日本であればこそ、その首相たる自分が米国大統領の言いなりになっていると日本国民に思われたくない。なにより、防衛費増額は国民の税負担に頼らざるを得ないのだ。

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岸田が参院予算委員会で堂々とついたウソ

昨年5月にバイデン大統領が来日したさい、共同記者会見で岸田首相は「私から、日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏づけとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明した」と明らかにした。それについて5月31日の参議院予算委員会で、共産党の小池晃議員との間で、こんなやりとりがあった。

小池議員 「総理は日米首脳会談で防衛費の相当な増額を表明されました。総理、これは対米公約ということですね」

 

岸田首相 「そもそも我が国の防衛費でありますので、これは我が国が主体的に決めるものであります。決して対米公約などというものではないと考えております」

 

小池議員 「だって、バイデンさんの前で、独り言じゃないでしょう、バイデンさんの前で表明して、それで日米両国で確認したって報道されているんだから、これ対米約束じゃないですか。じゃ、約束しなかったんですね」

 

岸田首相 「約束したという言葉の響きに、何か嫌々ながら、米国に何か求められたというような意味合いを感じるので、あえて否定させていただきました」

つまり、米国大統領に防衛費の増額を求められ、そうしますと約束したことはないと明言したのだ。そんなことはないだろう、もともと米側の要求だったではないかと、それまでの経緯を知る多くの日本人が思ったはずである。

「GDPの2%」はトランプ米大統領が2020年、NATO諸国など同盟国に要求した数字だ。各国の軍事費を増やせば、その分、米軍の負担を減らせる。日本に対しても同じような働きかけがあったに違いない。

米国は中国を封じ込めるため、日本に大きな役割を求めている。台湾に中国が武力行使するようなことがあれば、自衛隊に働いてもらい米軍兵士の命や兵器の損害を最小限に抑えたいというのが米国の本音だ。全面戦争に発展することさえなければ、米軍の損失は最小限にとどまり、米中の経済関係も、一時的にはどうであれ、持続できると踏んでいる。オフショア・バランシングといわれる戦略だ。これを安倍・菅政権は積極的に受け入れてきた。岸田首相もまた、安倍氏の防衛政策を踏襲した。

昨年5月にバイデン大統領が来日したあと、岸田政権は「GDPの2%」への防衛費増額を実現するため新たな安全保障政策の策定を急いだ。具体的には、同年12月に国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定したということだ。国会での議論も経ずに、防衛政策の大転換が閣議決定された。

どこが変わったかを端的に言うと、相手のミサイル発射拠点などを直接攻撃できる「敵基地攻撃能力」(反撃能力)を保有することにし、23年度から27年度までの5年間の防衛費を、それまでの1.5倍の約43兆円へと増額した。これで、27年度にはGDPの2%に防衛予算が膨らむことになる。

「敵基地攻撃能力」を担う兵器は、敵の対空ミサイルの射程外で安全を確保して発射できるという触れ込みの「スタンド・オフ・ミサイル」だ。導入のための予算として5兆円が組まれている。

その中には、三菱重工の12式地対艦誘導弾(SSM)、極超音速誘導弾、川崎重工の島嶼防衛用高速滑空弾など国産ミサイルの開発、量産が含まれるほか、ノルウェーのコングスベルグ社が開発し米軍向けにレイセオン社が製造するJSM(F-35A搭載)、ロッキードマーチン社製のJASSM(F-15能力向上機搭載)の取得が計画されている。

米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を2023年度に約500発一括で購入することも新たに決まった。トマホークを搭載できる潜水艦の保有もめざしている。

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岸田政権が存続する限り税の重さを耐え忍んでいくしかない国

自衛隊の主力兵器は、「国産」とされていても、多くの場合、アメリカ製の兵器を日本の軍需産業が生産し、組み立てる「ライセンス国産」である。ライセンス国産兵器の価格は、アメリカ国内の価格の2倍ほどになる例も珍しくないという。「ライセンス・フィー」(手数料)や「ロイヤルティ」(特許料)を米企業に支払わなければならないからだ。

アメリカにとって、優秀な科学者、技術者の多くがかかわっている軍需産業こそが経済の屋台骨である。国防総省やCIAは、軍需産業と「軍産複合体」と呼ばれる利権ネットワークを形成し、米国や同盟国の外交防衛政策を動かしている。

米国の利益に寄与する48兆円の防衛予算拡大策。この途方もない手土産をたずさえて岸田首相は2023年1月、ワシントンを訪れ、バイデン大統領の歓待を受けた。

バイデン政権には、政治的にリベラルでも外交・防衛面ではタカ派で、軍需産業とも深い繋がりを持つ、いわゆる“リベラルホーク”が多い。ブリンケン国務長官、ビクトリア・ヌーランド国務次官、サマンサ・パワー国際開発庁長官らがそうだ。巨大軍需企業レイセオン・テクノロジーズの取締役だったオースティン国防長官もいる。岸田首相がワシントンで、どれだけ気分の良い時間を過ごしたかは想像に難くない。

岸田首相が米側に抗議するフリをみせてまで、「防衛費増額はわが国自身の判断」と強調する背景には、これから新防衛政策のための増税を国民に強いなければならないという思いがあるからだろう。

安保関連3文書の改定を閣議決定したあとの記者会見で、岸田首相は「防衛力を5年かけて抜本的に増強するために、毎年4兆円の安定財源が必要で、そのうち3兆円は歳出改革で賄うが、あと1兆円は税負担をお願いしたい」という趣旨の発言をした。そして、歳出改革で防衛費を捻出するための財源確保法を6月16日の参議院本会議で成立させた。

しかし、どのような歳出改革をして財源を確保するのかは、全く見通しがついていない。増税にしても、法人、所得、たばこの3税を引き上げる方針を決めているが、実施時期については「2024年以降の適切な時期」として判断を先送りした。

さらに、解散総選挙が近いという観測から、早期増税の否定を求める声が与党内で強まったため、6月16日に閣議決定された経済財政運営の「骨太の方針」には、「2025年以降」の増税を印象づけるような文言が盛り込まれた。

だが、このような姑息なことをしても、財源確保法が増税を前提とするのは明白である。それが成立した以上、やがて増税を持ち出されることを、われわれ国民は覚悟しておかねばならないだろう。

所得に占める税金や社会保険料などの負担割合を示す「国民負担率」は47.5%にもおよんでいる。どれだけ国民生活を圧迫し景気を冷やせば気が済むのか。軍拡路線をいとわず、財務省の言いなりになる政権を国民が存続させる限り、税の重さを耐え忍んでいくしかないのかもしれない。

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image by: 首相官邸

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