たびたび報じられる精神科病院の不祥事。今年2月には東京都八王子市の滝山病院でも患者に対する虐待が発覚しましたが、なぜ我が国ではこのような事態が頻繁に発生するのでしょうか。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では投資コンサルタント&マネーアナリストの神樹さんが、かような事件が頻発する裏事情を解説。日本の精神医療の「不都合な真実」を白日の下に晒すとともに、この状況を放置した先に起こりうる暗黒の未来への懸念を記しています。
世界一ベッド数が多い日本の精神病棟で何が起きているのか?病床スタッフによる患者への暴行・虐待・窃盗・殺人までもがやりたい放題
皆様、次に挙げる精神病院名を覚えておられる方は、どのぐらいいらっしゃるでしょうか。
きっと近隣にお住いだった方なら、記憶も鮮明でしょう。
以下には、比較的大きく報道された暴力や虐待などの問題事例発覚の精神病院のごく一部を、事件発覚後廃院になった病院も含め、1980年代からの事例をここに挙げておきます。
驚くべきことに、実際には毎年十数件以上の精神科病棟が、病院スタッフによる患者への暴行、虐待、拷問、監禁、身体拘束、窃盗、殺人、診療報酬不正請求といった犯罪事件を引き起こし、報道されています。
ここにいくつか挙げた精神病院は、まさしくそれらの氷山の一角といえる、ごく一部の有名事例にすぎません。
どんな事例かざっと見ておきましょう。
- 1980年の大阪府の大和川病院(524床)……看護人が男性患者に暴行し、死亡させた
- 1984年の栃木県の宇都宮病院(533床)……職員の暴行で患者死亡、日常的な患者への虐待、使役労働、無資格診療、違法解剖が行われていた
- 1993年の大阪府の大和川病院(524床)……患者が暴行を受け不審死
- 1997年の大阪府の大和川病院(524床)……患者への暴行、違法入院での拘束、使役労働、水増し請求で24億円の診療報酬不正受給
- 2000年の埼玉県の朝倉病院(288床)……40人以上の患者が不審死、違法身体拘束、違法手術、診療報酬不正請求
- 2001年の大阪府の箕面(みのお)ヶ丘病院(121床)……患者への暴行、拷問、違法拘束、水増し請求で診療報酬不正受給
- 2002年の和歌山県の和歌浦病院(240床)……看護助手が男性患者を殴り死亡させた
- 2007年の東京都の東京クリニック……新宿歌舞伎町の立地を生かし、院長が向精神薬などを大量に不正処方、20代の元女性患者と同居し、DVの挙句に暴行・障害で逮捕された
- 2007年の群馬県の武蔵野病院(185床)……男性看護師が日常的に患者に暴行しており、男性患者の顔を蹴って死亡させた
- 2008年の大阪府の貝塚中央病院(347床)……男性看護師が医師の許可がないのに男性患者を身体拘束して腹部圧迫で死亡させ、理事長が証拠隠滅に協力してカルテを改竄していた
- 2020年の兵庫県の神出(かんで)病院(465床)……患者への虐待で、看護師5人と看護助手1人の計6人が、監禁、準強制猥褻、暴力行為等処罰法違反で逮捕された
- 2021年の大阪府の藍野(あいの)花園病院(606床)……20代の男性看護師が、精神保健福祉法に基づき3カ月間拘束されていた男性患者のロッカーで預かっていたキャッシュカードを使って40万円を引き出し、窃盗容疑で書類送検された
- 2023年の静岡県のふれあい沼津ホスピタル(293床)……複数の看護師が患者に日常的に暴行を加えていただけでなく、他のスタッフも見てみぬふりをしていたことが判明
いかがでしょうか。あちこちの精神病院で、人権侵害というより、凶悪な犯罪行為が堂々とまかり通っていたのです。
繰り返し付言しておきますが、これらは報道された事件のごく一部の事例にすぎません。実際に報道された事件だけでも、ここに名前を挙げた精神病院の10倍以上にのぼるからです。
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人間扱いされない「精神疾患の入院患者」!
精神病棟の入院患者の多くは、家族から遠く離れた閉鎖空間の劣悪な環境に置かれ、あるいは、家族から厄介払いで「姥捨て山」扱いされて、見捨てられた患者も少なくない状況です。
そのため、こうした精神病棟では、日常的にこうした暴行などが繰り返されている実態が浮かび上がってくるのです。
また、患者は精神疾患だけでなく、同時に認知症、腎臓を患い人工透析を受ける人も多く、ほとんど病院に身柄拘束されている状態のため、自ら外部に被害通報するのは難しい状況にあるのです。
頼るべき身内や家族もいない──などのケースでは、精神疾患の患者の声は「幻覚や幻聴、妄想による妄言扱い」とされてしまうため、救いを求められないケースも多々見受けられるのです。
「治療・保護・隔離収容」という名目で「長期入院」させれば儲かる!
厚労省のデータでは、精神疾患で入院する患者の平均在院日数は、日本では9カ月ですが、先進国では1カ月以内というのが常態となっています。
それどころか、日本の大手の精神病院では、1年以上の入院患者が6割(17万人)を占め、5年以上の入院患者も3割(9万人)を占めています。
中には、20年以上とか、40年以上というケースもあるので、驚かされます。これではまるで終身刑です。
日本の精神疾患の治療形態は、戦前から行われてきた「隔離収容生活」という方法論が、ずっと今でも主流を占めているといって過言ではないのです。
欧米先進国では、地域生活重視の治療が、現在の主流です。
幻覚や幻聴、妄想が起こる統合失調症の患者の場合であっても、デポ剤(薬効に持続性がある筋肉注射で、薬剤によっては1週間から1か月の薬効がある)を打つことで、入院しなくても地域の障害者グループホームで生活し、企業の障害者雇用枠などによる軽作業に就き、収入を得ながら生活することが多く行われているのです。
しかし、日本では、伝統的に、幻覚・妄想などのある統合失調症患者などは、とにかく隔離収容してしまえ―─という考え方が一般人の本音としても多いのです。
精神病の患者に近づくのはとにかく危険で怖い──といった社会全体でいたずらに警戒する風潮がとても強い──ともいえる状況なのです。
精神病院で「カネ儲け」するには、病床数を大量に増やす!日本の精神病院のベッド数がダントツ世界一になる理由!
日本の精神病院の経営は「薄利多売」のビジネスモデルといわれています。
入院の保険点数が、一般病床の場合の45%程度しかないため、出来るだけ病床数を多くとり、長年月にわたって患者数を満床状態で留めておけば儲かるからです。
200床以上あれば、精神病院の営業利益率は、5%台に載るともいわれているのです。
病床数を増やせば、そのぶん利益率がどんどん上がります。
そのうえ入院患者数のおよそ半分は、「強制入院」が占めるとされているため、金儲け主義の精神病院は、長期にわたる「薬漬け」での患者の「囲い込み隔離」に執着するのでしょう。
これでは、患者は退院したくても、自らの意思だけでは、到底退院させてもらえないのです。
一般病床における医師数や看護師数の規定も、精神病床ではかなり少ない基準で許されます(医師数は一般病床の3分の1、看護師、准看護師は一般病床の3分の2でよいという「精神科特例」がある)。
それでも、実際はスタッフ数が基準未満なのに、水増し医療スタッフを偽装しての診療報酬の不正請求もあとを絶たないのです。
モラルなき医療関係者の跋扈がまかり通っているのが精神医療の実態なのです。
また、向精神薬の効能効果の向上もあって、患者を暴れさせることなく、薬漬けにして病床に留まらせやすくなっているため、人里離れた土地の安い地域に大きな病床数の病院をつくってしまえば、手間もかからず病院経営も楽になる──ということにもなるわけです。
そして、日本の精神病院の8~9割が、公立ではなく民間経営なのも、営利に走らせる原因とも指摘されています。先進諸国の多くは、精神病院は公立が主流だからです。
こうして、日本の精神病棟のベッド数は、ダントツの世界最多となったのです。
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医療が「カネ儲け」の道具になっていた!「精神保健指定医」に「万能の力」を与えているも同然!
精神疾患という病名を無理やり診断してくっつけて、入院患者数を出来るだけ多く保てば、とにかく儲かる──というのが現状の精神病院の病棟経営の実態になっています。
「ここから出してくれ!」「退院させてくれ!」などと、ちょっとでもスタッフに抵抗する患者には、懲罰として身体拘束したり、鉄格子のついた檻のような隔離部屋にぶち込んでしまえ―─ということが常態化していることが容易に窺い知れるのです。
これでは、自分の意思で退院したくても不可能になるのです。
ちなみに、手足を縛るような身体拘束の他に、「医療保護入院」、「措置入院」といった強制的な対応を指示できるのは、最終的権限を有する、精神保健福祉法に基づく、「精神保健指定医」だけです。
自傷行為・自殺願望や他害行為の患者は、「措置入院」が採られ、そこまでいかないケースは、家族の同意や自治体の首長の同意で「医療保護入院」という措置がとられます。
精神保健指定医は、厚労省の医道審議会が認定する国家資格となっています。
申請するには、医師として5年以上の臨床経験があり、そのうち3年以上の精神科従事経験があることの証明が必要となっています。
全国には、約2万3,000名の精神科・心療内科の専門医がいますが、このおよそ半分が精神保健指定医の資格を保持しています。
しかし、厚労省データによれば、1998年に隔離室に収容した精神患者数7,300人台が、2017年には1万2,000人台に増えています。
2003年に5,000人台だった身体拘束数が、2017年には1万2,000人台に増えています。
「隔離室収容」や「身体拘束」が、いずれも2倍近い伸びを示しているのですから、これはもう、どう考えても尋常な精神医療が行われているとはいえないでしょう。
先進国では、精神疾患での入院数そのものが激減し、地域での生活ケアが中心になってきているのに、日本では精神病院のベッド数が微減でも、ほぼ横ばいなのです。
医療関係者を食わせるために、精神疾患の患者が犠牲にされているのです。
その内実においては、隔離や身体拘束が激増しているのですから、人命軽視、人権侵害は明白といわねばなりません。
厚労省は、いったい何をやっているのか──ということなのです。
厚労省はテキトーに各自治体の保健衛生担当部署に精神病院の指導・監督においての「通達」を出すぐらいで、事実上機能していない状況です。
政府・自民党も、医師会からの政治献金が利いて、2年毎の診療報酬アップに寄与するぐらいで、医療の内容については口を出すことが憚られています。
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家族が口裏を合わせて指定医に訴え出れば、排除したい身内を拘束させ、合法的に病棟隔離して「終身刑」扱いにも出来てしまうのが現行制度!
遠い昔には、田舎などで家族の一人が精神を病むと、「座敷牢」に入れて隔離してしまう──といった人権侵害が平気で行われていました。
しかし、現在はそんなことをしなくとも、家族で口裏を合わせ、精神保健指定医を丸め込めば、ロクな診断もないままに、精神科病棟に強制入院させられます。
それが現行制度だからです。
家族の中の誰か一人を排除したい時に、他の家族が口裏を合わせて精神保健指定医に訴え出ればよいわけで、安易に家族の中の邪魔者を簡単に排除出来てしまうのが現行制度なのです。
このようなことが出来てしまう日本の精神医療での強制入院の根拠法がそもそもおかしい──と国連障害者権利委員会は問題視しているわけです。
かつてのハンセン病患者に対する人権無視の隔離政策の反省もないままに、日本での精神医療行政は野放しになっているのが実態なのです。
恐るべき権限が、精神保健指定医に与えられていることを、一般国民も知るべきでしょう。
「患者の権利を守る保障体制の確立!」
「外部への精神医療病棟のオープンな開示姿勢!」
「外部の指導監督機関による定期的で実効性のある精神病院への監査の実施!」
「入院患者の早期退院を図れる、地域の受入体制の環境整備!」
こうした施策が喫緊に求められているのです。
こうした現状を放置するなら、旧ソ連体制の国々のように、政府にとって邪魔者の国民がいたら、片っ端から「精神病者のレッテル張り」で、終身刑のような隔離措置・監禁入院も出来るような──恐ろしい暗黒の未来が訪れるやもしれないからです。
「世界の恥」ともいうべき、日本の精神医療の実態に、少しでも心ある国会議員ならば、その改善と対策に早急に乗り出すべきでしょう。
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