MAG2 NEWS MENU

健康社会学者は大反対。教育現場から「人」を意識する思考を奪いかねない“実験”とは

技術の発達により、運動状況や健康状態など、多くのことをデータで把握できるようになり、ついには感情までも「見える化」して活用しようとする動きがあるようです。研究としてはあり得ても、教育現場に持ち込むのは「大反対」と声をあげるのは、健康社会学者の河合薫さんです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で河合さんは、“フェイスtoフェイス”で相手の心情を感じ取ることの大切さを強調。教師たちの事務作業の効率化は大いに進めても、子供と向き合う時間だけはアナログで、ときには「無駄」をも大切にしてほしいと訴えています。

「見える化」に依存する社会

突然ですが、人はフェイスtoフェイスでコミュニケーションを取ることで生き残ってきました。五感をフル稼働して相手の心情を汲み取り、理解し、自分が協力したら悪い状況がよくなると見込めたら、援助をいとわない。それは人だけが獲得した「力」です。

極論をいえば、フェイスtoフェイスのコミュニケーションは「人の起源」なのです。ところが、その「人の力」を、自ら手放そうとする動きが教育現場で始まってることがわかりました。大手新聞社の報道によれば、次のような実証研究が進められているそうです。

埼玉県東部にある小学校では、生徒が手首につけたリストバンド型端末で脈拍を計測し「集中度」を測定する。

滋賀県のある小学校では、生徒が一人ずつ持つ端末のカメラを使って額の血液の勢いや体の動きを測定し、「わくわく」「たいくつ」「そわそわ」「ゆっくり」の4種類の感情に分類する実証実験を行っている。

「見える化」の目的は、授業の改善です。教師がデータを活用することで「より効果的な教育」につなげるそうです。また、集中度は生徒自身の「振り返り」に使うことも目的とし、感情は「困難を抱える生徒の早期発見」につなげる目的もあるとか。

あくまでもデータを活用するか否かは、教師の判断で決めるとのことですが、私はこの記事を読んでいて、とてもとても残念な気持ちになりました。これまでもさまざまなものが「見える化」され、「人」という存在が思考の中心から消えていくことに違和感を覚えていましたが、今回の取り組みはあまりに残念すぎます。

「いい授業をしたい!子供のために先生も努力したい!」という気持ちはわかります。しかし、フェイスtoフェイスのコミュニケーションの場が失われつつある今だからこそ、教育現場は「フェイスtoフェイスのコミュニケーション」を最優先で大切にしてほしいし、そこで培われる感性を教師にも子供にも信じてほしい。面と向かって「相手」の目を見て話すことの大切さを、それが人間の思考力と想像力の源であることを忘れないでほしいのです。

この記事の著者・河合薫さんのメルマガ

初月無料で読む

そもそも授業って集中しなきゃいけないのでしょうか?
そもそも授業ってわくわくしなきゃいけないのでしょうか?

ぼーっと聞いてる時にハッとなる瞬間があったり、だる~っと聞いてる時に「マジ!」と沸き立つ瞬間があったり。それは先生がたわいもない話をしたときかもしれないし、クラスメートが奇妙な質問をしたときかもしれない。フェイスtoフェイスだからこそ、決して理論どおりにはいかない人間だからこその、まさかが授業の醍醐味ではないでしょうか。

そんな「無駄な経験」が、長い人生を生き抜くビタミンになる。「ああ、あの時の…」と突然思い出し、心が温まる。「そんな瞬間が実際にある」ことを現場の先生には忘れないでほしいです。「その時何を教えてもらったか?」を忘れても「あの時、いつも教えようとしてくれた先生」を思い出せる方が、教育として価値があるのではないでしょうか。

それに、人の心は実に複雑で、自分でも自分の心を「言葉」にできないことの方が多いことを「私」たちは経験しているはずです。「わくわく」「たいくつ」「そわそわ」「ゆっくり」に分類するとは…言葉がありません。

少々厳しい言い方になりますが、データ越しに子供と向き合おうとする取り組みは、たとえどんな形であれ反対です。長年、中学校理科の教科書づくりに関わってきた経験からも大反対です。

教科書づくりは想像以上にハードな仕事です。教科書の一言一句まで神経を張り巡らせ、天気図一枚を選ぶにもとことんこだわります。その教科書を開いたときの子供たちの顔を、いつも想像しながら編集作業を何ヶ月もかけて行いました。教科書は研究者たちの汗と涙の結晶です。

現場の先生たちの書類や提出物などの仕事はデジタルを最大限駆使して効率化すべきですが子供と向き合う時間は、とことんアナログでやってほしい、効率より無駄を大切にしてほしいです。みなさまのご意見、お聞かせください。

この記事の著者・河合薫さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

河合 薫この著者の記事一覧

米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』 』

【著者】 河合 薫 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け