イスラエルからの激しい攻撃にさらされているパレスチナのガザ地区。現地では10分に1人の子供が命を落としていると伝わりますが、イスラエルにその手を緩めるつもりは毛頭ないようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、同国ネタニヤフ政権の最終目的と、アラブ諸国の今後の動きを解説。さらに国際機関の無力化が進む中にあって、いかにして集団的安全保障体制を構築してゆくべきかを考察しています。
アラブでパレスチナ人をジェノサイドする、欧州でジェノサイドに遭ったユダヤ人
イス軍はガザを南北に分断した。中部から侵攻したイス軍は海岸線まで到達した。このため、ガザ市内を包囲したことになる。しかし、イス軍も350名以上が戦死している。
ハマスもトンネルを利用して反撃をしているが、ガラント国防相はトンネルを解体する有効な方法があるとして、ハマス殲滅を徹底的に行うという。
ハマス軍事部門報道官は、このイス軍のトンネル攻撃により人質60人以上が死亡。瓦礫の下に23人の死体が埋まっていると発表した。真偽のほどはわからない。
それ以上に世界が反発するのが、イス軍が、ジャバリア難民キャンプへの爆撃を3日も実行し、400人以上の死者を出していることだ。
そして、ガザ包囲後、イス軍はガザを攻撃して、ガザ市民の死者が増え続け、食料や水は枯渇し、医療も崩壊している。
ネタニヤフ政権は、「ガザ全住民をシナイ半島に排除」という政策文書を作成して、そのシナリオを実行するようである。ガザ住民を難民化することになる。
このため、米政府内および議会からイス軍による民間人に対する攻撃に厳しい声が上がっている。レイヒー法により、米政府は重大な人権侵害をした外国軍への軍事支援を禁じられているので、支援はできないことになる。
これを受けて、ブリンケン国務長官がイスラエルに飛んで「人道的停戦」をネタニヤフ首相に要求しているが、「人質解放が含まれないハマスとの人道的停戦を拒否するとブリンケン国務長官に伝えた」と述べた。
日本の上川外相も「人道目的の一時的な戦闘の休止」をイスラエルに求めたが、ブリンケン国務長官と同じように無視されている。
このため、イスラエルの国際社会での孤立化が鮮明となっている。
イスラエルは、ロシアの敵対的な発言で、シリア空爆の際のロシアへの事前警告をやめると発表した。ロシアも敵に回した。このため、ロシアのワグナー軍がミサイルなどを持ち、ヒズボラを支援するようである。とうとう、ロシアも入ってきた。ウクライナと停戦して、イスラエルとの戦いに向ける可能性も出ている。
シリアに展開するイラン系民兵組織もレバノンに入って、ヒズボラを支援するようである。
イエメンのフーシ派は、10月31日に宣戦布告し、ボリビアは断交し、チリとコロンビア、ホンジュラス、ヨルダン、トルコは大使を召喚した。エジプトは、ガザ地域との国境線に戦車と装甲車を配備した。
このフーシ派をけん制するために、米空母アイゼンハワーはスエズ運河を渡り、東地中海から紅海に入った。
この状況で、トルコのエルドアン大統領も、イスラエルを支援する米国を非難している。イスラエルとは険悪な関係になっている。
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石油ビジネスに影響が出ることを恐れるアラブ諸国
そして、人道的停戦を要求する国が増えている。国連も難民キャンプの爆撃を戦争犯罪であると言っている。ガザ市内への攻撃はなおさらである。
イスラエルのエルサレムで安息日明けの土曜夜に行われた人質解放求めるデモが、先週から比べると集まったのが10倍以上と盛況である。停戦してでも命を守らなければならないといけないと言う。
この中、ラファ検問所から多数の外国籍の人たちがエジプトに逃れた。その中には日本人10名もいた。イスラエルからは40名以上の日本人が帰国した。やっと、ヨハネの黙示録の状態になることを、日本人たちも知ったようである。
しかし、イラン革命防衛隊の司令官とヒズボラのナスララが会談したが、その後のナスララ演説は、ハマスの抵抗は応援するが、それ以上にイランが米軍との直接衝突を恐れている可能性があり、このため、ガザでの停戦を提案した。中東全域への戦争に歯止めをかける必要で述べている。
このため、現時点では、イラン派武装勢力の本格的な参戦はないようである。このナスララの演説で、この戦争は中東全域に拡大しないことになり、石油価格が大きく下げた。
この背景は、ハマスはスンニ派なのでシーア派のヒズボラとは本当はあまり関係ないが、対イスラエルで共闘している。しかし、そのハマスをイランが支援しているので、ヒズボラは、イランにお伺いを立てたが、イラン自体も戦う意思がないので、これ以上の攻撃をしないということのようである。
サウジから資金を貰っているスンニ派の武装勢力は、ハマスを助けないようである。ハマスとパレスチナ人は見殺しにされることになる。賢明なるスンニ派アラブ諸国は、パレスチナ紛争に巻き込まれて自国の石油ビジネスに影響が出ることを恐れるのであろう。
本当に、これでよいのであろうか?
そして、この状況で、中国の立場が微妙である。イスラエルを積極的に非難しないで、中立的な立場を維持している。イスラエル軍事技術の中核的な部品を多数、イスラエルから輸入している。このため、イスラエルを非難できないようである。
その中国は、東アジアでの覇権を取りに来ている。その正面が日本、台湾、フィリピン、ベトナムなどであり、インドネシアは中国からの支援が多く、親中に傾いている。
日本は準同盟国として、フィリピンを遇し、沿岸監視レーダーなどの無償供与で海洋監視能力を向上させ、自衛隊との共同訓練も拡充するという。南シナ海での中国への危機感が東南アジア諸国で共有されつつあることで、この枠組みを拡大していくことになる。
中東での戦争と、東アジアも同時に戦争になると、米国は三正面作戦になるので、それを恐れている。11月に米中の首脳会談を行い、現在、極東に空母カール・ヴィンソンが来ていて、空母レーガンと合わせて一時的に2隻体制にして、中国の暴発を防いでいる。
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非人道主義国と戦うしかない日英独仏伊蘭印
この2つの戦争で、国連、OSCE、IAEAといったあらゆる国際機関が、何もできない無力な存在であることが判明した。国際機関は、懸念を表明する以外に何もできないでいる。
1945年以降、国際的に人道主義や戦争時のルールを決めてきたが、いざ、戦争になると、当事者は、それを無視して民間人を殺戮している。イスラエルの登場で、多民族国家で独裁国のロシアや中国だけではないことになっている。単民族国家で民主国のイスラエルでも同じである。欧州でジェノサイドにあったユダヤ人は、今後は、アラブでパレスナ人をジェノサイドしている。
このため、無意味な国連は、お役御免になるような気がする。この代わりにNATOの世界化をして、人道主義を守る国などを中心に集団的安全保障体制の枠組みを作るしかないように感じる。
そのNATOについては、米国も関与を弱めるということで、費用などの問題で日本などの参加が必要になっている。
トランプの米国の孤立主義により、世界は大きく変革することになる。安全保障で米国が頼りにできないことで、安全保障の枠組みも大幅な変更をしないと持たないことになる。日英独仏伊蘭印などが協力して、非人道主義国と戦うしかない。NATOからハンガリーやトルコなどの非人道主義国を支援する国は排除しないといけない。
ということは、新NATOを作り、今のNATOは潰すことである。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2023年11月6日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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