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アメリカの“対中外交戦略”に次々と浮上する「不都合な問題」とは?

米サンフランシスコで日本時間12日に始まったアジア太平洋経済協力会議(APEC)の期間中に米中首脳会談が予定されていて、懸案山積の国際情勢のなかで、大きな注目を集めています。米国と中国それぞれの思惑について解説するのは、メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。大統領選挙を控え、中国に甘い姿勢を見せられないバイデン大統領が中国からロシア批判やハマス批判を引き出すのは容易ではないと分析。国際情勢はいま、中国にとって強い追い風となっていると伝えています。

米中首脳会談を前に、降ってわいた不都合な問題に翻弄されるバイデン政権

イスラム武装組織ハマスの越境テロ攻撃から1カ月が過ぎた。パレスチナの人々が暮らすガザ地区へのイスラエル軍の報復攻撃は凄まじく、崩壊した建物の瓦礫をかき分けるパレスチナの人々の映像が連日のように伝えられている。その惨劇は、ロシアによるウクライナ侵攻で見慣れた光景とは、また次元の異なる破壊として人々の目に焼き付けられている。

多くの懸案が世界に山積するなか、今月12日からアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議がサンフランシスコで開催される。注目は、会議に合わせて行われるジョー・バイデン大統領と習近平国家主席の対面による二度目の首脳会談だ。国際政治の一つのハイライトだ。

西側メディアの関心は、例によってイスラエル・パレスチナ問題とロシア・ウクライナ問題をめぐる二大国の駆け引きに向けられている。即ち、中国をいかにロシア批判やハマス批判に引き込めるかというバイデン政権の思惑だ。

だが、中国の優先順位はそうではない。米中首脳会談はあくまでアメリカと中国の「二国間関係を整える場」と考えているからだ。中国が獲得したいのはトランプ政権下で激増した対中制裁関税の解除や安全保障を理由とした輸出・投資の制限の撤廃である。安全保障面では、台湾問題を利用して中国をけん制する動きを止めさせることだ。

いずれも歩み寄りは簡単ではない問題だ。大統領選挙を控えたアメリカでは、民主党と共和党との対立が激しさを増し、与野党が協力できる材料は乏しい。だが、そんななかにあっても対中国では両党議員が「強硬」でまとまっているのがアメリカ政治の特徴だ。

先月は下院議長の選出で混迷し、共和党の内部で亀裂が浮き彫りになった。そしてここでも党の団結を呼びかけるために引き合いに出されるのが中国だ。そもそもアメリカ人の対中感情の悪化や議会の雰囲気を考慮すれば、バイデン政権が中国に柔軟なメッセージを発することは期待できない。

また一方の中国にもアメリカに歩み寄る気配は感じられない。デカップリングやAUKUSなど、バイデン政権の繰り出す仕掛けにはうんざりしながらも、慌てて妥協する要因とはなっていないからだ。

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そもそもアメリカは、中ロという核兵器を保有する二つの大国と同時に対峙することで大きなプレッシャーに晒されている。ロシアのウクライナ侵攻後、プーチン政権を孤立させ経済制裁で弱体化させようとしたアメリカの試みは奏功したとは言い難い。その大きな要素として挙げられるのが、中国やインドがロシアとの通常の貿易を止めなかったことだ。

加えて対ロ制裁の抜け穴となったのがグローバル・サウスの存在だ。西側先進国の団結とは異なり、発展途上国のほとんどは対ロ制裁には消極的だった。

そしてここにきてロシアの戦争継続に大きく貢献し始めたとアメリカが疑っているのが金正恩率いる北朝鮮だ。北朝鮮とロシアの相互軍事支援の強化にバイデン政権が神経を尖らせていることは、今月9日、韓国を訪問してパク・チン(朴振)外相と会談したブリンケンの発言からも読み取れる。

ブリンケンは韓国で、「北朝鮮に対し、中国が建設的な役割を果たすことに期待する」(アントニー・ブリンケン米国務長官)と唐突に中国に注文を付けた。おそらく首脳会談でも話題に上るはずだ。だが、いまの習近平政権が簡単にこの呼びかけに応じるとは考えにくい。

かつてトランプ政権の初期には、ウイグル問題や香港問題で中国を揺さぶろうとするアメリカに不満を覚えながらも北朝鮮にプレッシャーをかけてアメリカに協力した。しかし現在の中国には対米不信が根深い。首脳会談でアメリカが約束したことさえ「信用できない」と考えているほどだ。しかも当時と比べて中国にとっての北朝鮮の価値は大幅に増しているのだ。

さらに重要なのは、現在の国際情勢が中国に強い追い風だという点だ。冒頭で触れたイスラエルとハマスの戦争は一つの大きな画期であり、その影響力は凄まじい。

例えば中東で進みつつあったイスラエルとサウジアラビアの国交正常化の動きが、ハマスによってほぼ完璧に消し去られてしまったことだ。言うまでもなくこの動きの裏には──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年11月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Consolidated News Photos/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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