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米兵3名が「ムダ死に」の不幸。それでも米軍が中東に居座り続ける理由

1月28日、親イラン武装勢力によるヨルダンの米軍拠点への攻撃で、米兵3人が死亡。ガザでの虐殺を止めようとしないイスラエルを支持する米国への、親イラン武装勢力からの報復と警告と見られますが、ジャーナリストの高野孟さんは米兵の死を「不幸な無駄死に」とします。なぜそう判断するのでしょうか。高野さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、このように見る理由を解説するとともに、今後は中東地域のみならず日本を含む東アジアでも、過剰な米軍プレゼンスの見直しが起こるとの予測を記しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年2月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

なぜ米兵3名はヨルダンで戦死しなければならなかったのか

ヨルダンのシリア・イラクとの国境近くの米軍前哨基地で1月28日、イラン系武装組織によると見られるドローン攻撃で3人の米兵が死亡した件で、日本のマスコミは、さあ米バイデン大統領はイランに報復攻撃をするか否かといった煽情的な憶測に走っていて、そもそもどうしてそんなところに米軍基地が置かれていてどんな仕事をしているのかという背景を説明しようとしていない。

それに、米国とイランは共通の敵であるISIS撲滅のために情報交換を含めて密かな協力関係にあるので、このことで両国が戦争になるかなどと思うこと自体、浅薄極まりない。ただ米国内ではバイデンへの「弱腰批判」が出て選挙にマイナスなので、イラン系武装組織に対する象徴的な報復作戦は実施した。

3名が戦死した「タワー22」という基地の任務

米リベラル系シンクタンク=クインシー研究所の「責任ある国政」サイト29日付などが伝えるところでは、「タワー22」という名称のこの基地には350人の米空軍および陸軍の兵員が勤務し、主にイラク国内に残存するISIS勢力を根絶する任務にあたっている。日曜日の攻撃によって3人の死者のほか少なくとも34人の負傷者が出た。

今のところ何者の何のための仕業かははっきり分かっていないが、10月7日のガザ戦争勃発以来、米軍の在イラク基地に駐在する計900人の米軍部隊と在シリアの同じく計2,500人に対しては、それぞれ約60回と90回のロケット、ドローン、ミサイルなどによる攻撃が行われており、それらはイスラエル軍によるガザでの大虐殺を(屁っ放り腰ながら)米国が支持していることに対する報復と警告のためであることは疑いない。今回の在ヨルダン基地への攻撃もそれと同列のものと考えられている。

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単なる惰性でそのまま残置されていた「タワー22」

そもそもこの在ヨルダン・イラク・シリアなどの米軍基地のほとんどは過去の作戦がすでに終わったか、ほとんど終わりつつあるのに、単なる惰性でそのまま残置されているものが多い。

タワー22の場合は、ISISがイラクとシリアの国境近くにミニ・イスラム国家を樹立宣言したことに対応する対テロ作戦の一環として設けられた。しかしトランプ政権時代に米軍特殊作戦を強化して初代から第3代に至る指導者を殺害し、さらに第4代も昨年4月にトルコの情報機関によってシリア国内で殺害されたため、すでにミニ国家は壊滅し、少数の残党がイエメン、インド、パキスタン、アフガニスタンに拡散・潜伏しているだけと見られている。

従って、ヨルダンとシリア・イラクとの国境近くに米軍が基地を構えている必要はほとんどなくなり、中東におけるISISの残党狩りの必要があるならシリア、イラク、イラン、トルコなどの現地の軍・情報機関に任せ、米国自らは離散したイスラム戦士のごく少数の集団が米本土などでのテロを実行する可能性を警戒しなければならないハズである。

しかし、中東地域を分担する中央軍司令部は「ISISの復活の兆しが強まっている」といった情勢分析を上げ、同地域でのプレゼンスを弱めることに抵抗してきた。そこには、一度戦争をやって血で贖って地歩を占めた所は「俺のものだと捉える感覚(the sence of ownership)」が働いていると、上掲「責任ある国政」サイトで安全保障専門家のポール・ピラーが指摘している。そういえば、米軍が沖縄占領から75年も経つのに未だに基地を手放さないどころか新基地の建設まで求めるというのも、その「俺のものだと捉える感覚」の故なのだろう。

バイデンが招いた米兵3名の「不幸な無駄死に」

バイデン大統領は実は、そのような軍部の根深い抵抗心理を押し切って、過去の惰性で中東各地に置いていた基地がガザ戦争以来、イスラム勢力からの格好の攻撃対象となりつつある現状に困惑し、出来れば米兵の犠牲が出ないうちに基地の縮減を始めるべく、シリアおよびイラクとの協議をはじめていた。

その矢先に起きた3人の兵士の死は、バイデンが中途半端にイスラエルの虐殺を支持しながら中東への軍事的関与の抜本的な見直しをずるずるモタモタと引き延ばしてきた中で起きてしまった不幸な無駄死にで、これによって米軍の脱中東が加速されることになるだろうし、また次期大統領に「全米軍基地の撤収」を主張するロバート・ケネディJrが当選すればもちろん、トランプが再選した場合も少なくとも中東地域からの米軍撤退は確実に起きるだろう。

他方、米バイデン政権はすでに「台湾有事切迫論」を口にしなくなり、むしろ経済界主流の要求に従って中国との通商関係の修復に力を入れ出している。いずれ東アジアにおいても過剰な米軍プレゼンスを見直す流れが生じよう。

そのようなグローバルな流れの中で、旧態依然の対米盲従に陥っている自民党政権はその頃誰が率いているにせよ、相変わらず米軍が沖縄はじめ日本から撤退しないよう哀願し続けるのだろうか。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年2月5日号より一部抜粋・文中敬称略)

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 image by: Omar Al-Hyari / Shutterstock.com
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