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台湾人も標的に。トランプ返り咲きで復活するスパイ狩りの無法

今年11月のアメリカ大統領選挙で、再選の可能性が高いとも言われるトランプ前大統領。返り咲きとなればこれまで以上の中国への強硬姿勢を取るとの見方もありますが、その「悪影響」は中国のみに止まらないようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、トランプ再選で復活するとされる「チャイナ・イニシアチブ」について詳しく解説。その苛烈な「スパイ狩り」の手口を紹介するとともに、世界に与えるダメージを考察しています。

トランプ人気が吹き荒れるなか、習政権が懸念する「中国人スパイ」取り締まり強化の復活

イスラム武装組織・ハマスとの交渉のためイスラエルのモサドやエジプトの情報機関と協力し奔走する米CIAのウィリアム・バーンズ長官。そのバーンズの寄稿が話題となっている。

米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(電子版)に掲載され、今月2日に様々なメディアが取り上げた。その目玉は、「中国対策予算を2年間で2倍以上にした」と明らかにしたことだ。

ここ数年のトレンドを考えれば、とりたてて騒ぐ内容でもないが、「中国」と名が付けば予算の獲得がいとも簡単にできる現実が透けて見えて興味深い。

共同通信は2日付の記事で、バーンズが「中国に関する情報の収集や分析に注力し、中国語を話せる人材の登用や育成を進めている」(1月30日の記事)と報じたが、これも意味深だ。

一つには中国側がアメリカのスパイ網を一掃したとされる問題への対応のためだと考えられるが、一方では純粋に「中国が見えていない」ことへの対処もあるのだろう。どの国も中国批判に躍起だが、その一々があまり的外れで攻撃される中国側を戸惑わせている。

いずれにせよ中国へのスパイ疑惑がより強まるという話だ。思い出されるのは2018年、トランプ政権下で始まった「チャイナ・イニシアチブ」である。

チャイナ・イニシアチブとはトランプ政権の対中強硬策の目玉であり、ジェフ・セッションズ司法長官(当時)が音頭を取りスタートさせた、ある種の「スパイ狩り」だ。

背景には、ドナルド・トランプが反中国・反共産主義を掲げて大統領選挙戦を展開したことがある。「中国が我々の国をレイプするのを許し続けるわけにはいかない」というトランプの発言は有名だ。またマール・ア・ラーゴで開いた非公開の夕食会では、企業幹部の一団に「この国にやってくる(中国人)学生のほとんどがスパイだ」と語ったという逸話も残る。

そのトランプが再び大統領候補となる可能性を高めたことでチャイナ・イニシアチブの復活が危ぶまれている。中国にとっては頭の痛い問題だ。

だが、これも単純な話ではない。というのも中国の懸念は主に、アメリカが中国人スパイの摘発に力を入れることに向けられるのではなく、その手法にあるからだ。

世界の二大経済大国が鎬を削れば、当然のこと相手を探る動きも活発化する。水面下で米中が苛烈な攻防戦を繰り返していることも想像に難くない。

企業の機密を摂取する産業スパイを主眼にしたチャイナ・イニシアチブが、その範囲にとどまらずサイバー攻撃やハッキング、宣伝工作やロビー活動までをターゲットに展開されたのもうなづける。

だが、問題はその攻撃がピンポイントにターゲットを切除するといった優秀な外科医の手際とはならず、広く網をかけて健全な両国間の交流にまでダメージを及ぼしてしまうことにある。

個人レベルでは大量の冤罪を生み出し、大きな枠組みでは通常の経済活動や研究にも大きな影響が避けられなかった。

チャイナ・イニシアチブの失敗については米誌『MIT Technology Review』の「混乱する米国の対中強硬策、チャイナ・イニシアチブのお粗末な実態」(2022年1月18日)に詳しい。

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こうした影響は中国一国にとどまらない。

トランプは昨年7月、FOXニュースとのインタビューで台湾問題に言及しているのだが、このとき中台関係について問われ、「(答えれば)交渉上で非常に不利な立場に追い込まれる」とことわった上で「とはいえ、台湾はわれわれの半導体事業のすべてを奪った」と語っている。

アメリカ第一主義を掲げるトランプの対東アジア政策は、対中国だろうと対日本、または対台湾であろうと、常に「アメリカが被害者」という考え方がベースになっていて、それは価値観の違いより優先されていることを露呈させた。

チャイナ・イニシアチブの入り口で起訴されたのも、アイダホ州の半導体企業マイクロンから企業機密を盗み、中国の国有企業が最終的に利益を得られるようにしたと疑われた3人の台湾人だった。

同盟関係を重視するバイデン政権には、民主主義の価値観での紐帯を強調することで台湾はアメリカにアピールできた。しかし、トランプが大統領に返り咲いた後のアメリカに庇護を求めようとすれば、台湾は虎の子の半導体分野で大幅な譲歩という犠牲を強いられるかもしれない。

蔡英文政権の後を争った台湾総統選挙では与党・民進党の候補、頼清徳副総統が勝利したが、得票率は伸びず、40%にとどまった。かねてから課題の内政への不信、就中経済政策への不満が反映された選挙結果だ。

【関連】台湾「親中派の敗北」は真実か。日本で報じられない台湾総統選の真相

その民進党がずっと頼ってきたのが島内に広がった対中警戒心だ。台湾では総統選挙の前後から、「中国の気球が頻繁に台湾に近づき横断した」との発表が相次いだ。

台湾国防部は、「(中国は)武力攻撃に至らない、いわゆるグレーゾーンの手法で台湾の民心に影響を与えようとたくらんでいる」との説明を加えた。

だが気球といえば思い出されるのは2023年2月、米本土上空に現れた中国の気球を「偵察気球」だとして撃墜した事件だ――(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年2月4日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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