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プーチン露が総攻撃へ、敗北確定ウクライナ。西側メディアの「大本営発表」に騙され続けた世界

22年2月のロシアによる軍事侵攻開始以来、事あるごとに「ウクライナ優勢」を伝え、時にはプーチン大統領の重病説まで流布してきた西側諸国のメディア。しかし現状は彼らが報じてきた内容とは正反対の「ウクライナの敗北」が確定的であり、それを証明するかのようにプーチン氏は次期アメリカ大統領に関して、自身のウクライナ侵攻に「有利」な判断を下すことが予想されるトランプ氏よりバイデン氏のほうが好ましいとの発言を行っています。そのような中にあって、早い段階からウクライナ劣勢の見立てを発信してきたのは、元国連紛争調停官の島田久仁彦さん。島田さんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、近いうちにロシアによる総攻撃が開始されるとの新情報を明かすとともに、ウクライナが国家消滅の危機から脱することが可能か否かを考察しています。

反転攻撃は失敗。敗戦どころか国家消滅の危機に瀕するウクライナ

「ロシア・プーチン大統領による蛮行を許してはならない」と欧米諸国とその仲間たちはロシア包囲網を敷き、ロシアを国際社会と経済から締め出そうとしまし、昨年6月までに最新鋭の武器・兵器もウクライナに供与して、対ロ反転攻勢を後押ししようとしました。

反転攻勢は実施当初は一定の結果を収めていたと思われますが、実際にはロシア軍による待ち伏せに遭い、十分に時間をかけて張り巡らされた塹壕と、旧式戦車を地中に埋めて大砲として用いる戦略、そしてびっしりと敷き詰められた地雷原によって、ロシア軍の堅固な防衛線を突破できませんでした。

その後はロシアとの圧倒的な兵力・兵器差(ロシアを100とすれば、ウクライナは20未満)と、ロシアによる最新兵器の投入により、じわりじわりとウクライナ側の被害が拡大していくという事態に陥りました。

それでも無人ドローン群による攻撃や無人海上ドローンによるロシア艦船へのアタックなどにより、一定の目立つ戦果はあげるものの、その無人ドローン生産施設と輸送手段を次々と精密誘導弾で攻撃されるとともに、徹底的なインフラと輸送路へのミサイル攻撃によって大きな被害を受け、反転攻勢は失敗したと言わざるを得ない状況に陥っています。

状況を反転させるためには欧米からの切れ目ない支援が不可欠とされていますが、欧米諸国は皆、一向に成果が上がらないことで支援疲れに陥るとともに、国内で巻き起こる対ウクライナ感情の悪化と関心の著しい低下に直面して、なかなか迅速かつ決定的なレベルでの支援を打ち出せていません。

その元凶は、アメリカ議会において政争の具に対ウクライナ支援を持ち出し、“バイデン政権が何らかの成果を上げることを阻止したい”共和党による徹底的な反対によって、バイデン大統領がゼレンスキー大統領に行った9兆円規模の支援の“口約束”が実現する見込みがない状況でしょう。

そのような時にEUが500億ユーロ(約8兆円)規模の支援を約束するという明るいニュースが飛び込んではきましたが、アメリカの支援の穴を埋めるには能力不足と言わざるを得ない状況で、軍事支援に至っては、本格化できるのは早くとも2025年後半と言われています。

もしウクライナがそれまで持ちこたえていたら、戦況に対する変化は期待できるかもしれませんが、先日触れたように、NATOによる155ミリ砲弾薬の生産と実戦配備が2027年になることと合わせると、あまり期待できないものと感じています。

【関連】世界終了へ。米国「イラン本土攻撃」なら“ガザ長期化”どころでは済まなくなる

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戦争を勝利で終わらすためにプーチンが仕掛ける総攻撃

そしてそのプロセスとタイムラインに大きな悪影響を与えそうなのが、「もしトラ」現象です。

これはご存じのように、もしトランプ氏が再び大統領の座に返り咲いたら…という想定ですが、すでに彼が公約で述べているようにアメリカの対ウクライナ支援はキャンセルされるだけでなく、欧州各国とのパートナーシップも再考するという動きに出ることが予想されるため、ロシアに対する包囲網も恐らく解かれ、NATOの抑止力にも陰りが見えることになる可能性が高まります。

もしそうなったら…バルト三国や北欧諸国、中東欧諸国に対するロシアのちょっかいが強まることが予想され、広域欧州地域の安定は損なわれることになりかねません。

ウクライナの外ですでにウクライナにとってアンハッピーな状況が発展してきているのですが、戦闘の長期化と犠牲の拡大は確実にウクライナ軍の士気を低下させ、国民の抗戦意欲も削いでいます。

そこに止めを刺したのが、国民的な英雄でもあるザルジーニ前統合参謀本部議長の解任(辞任・交替)でしょう。

退任時にはゼレンスキー大統領と笑顔で肩を組む写真を掲載し、いかにも円満な退任であるかのように繕っていますが、戦闘が継続している最中での交代は異例と言わざるを得ず、ウクライナ軍の士気にも関わります。

特にザルジーニ氏は2014年のロシアによるクリミア併合以降、欧米式の兵法と戦略を積極的に学び、ゼレンスキー政権で統合参謀本部議長に就任してからはウクライナ軍を戦える軍隊に作り替えるために新しい戦い方を浸透させてきたことと、それが対ロ抗戦当初は大きな戦果を上げたことで国民的な人気を獲得しました。

そのザルジーニ氏の後任は、旧ソ連軍で訓練を受けた旧来型の戦術を得意とするシルスキー氏になりましたが、戦術と戦略に大きな変化が生じることは確実ですし、シルスキー氏自身、東部戦線で指揮を執っていて、ロシアに押し返された張本人でもあるため、軍の士気高揚に対する期待は皆無と言わざるを得ません。

そこに著しい兵員と兵器不足の深刻化と弾薬の枯渇という致命的な条件が重なり、ウクライナの戦略専門家の表現を借りると「このような状況でどうやってロシアと戦うのだ」と嘆くほどの惨状と言えます。

そのような窮状をつぶさに把握しているのか、ロシア軍は春から夏にかけてウクライナに総攻撃をかけるという情報が上がってきており、確実に戦争を勝利で終えるためのfinal blowをかけにきているようです。

その対象は「すでに支配を拡大している東南部4州の完全支配の確立」から、「ウクライナ全土をロシアのコントロール下に置くための総攻撃」という見方もあり、これはふたを開けてみないと分かりませんが、そのための最新鋭の兵器が続々と集められているという情報が多数あることから、それが現実味を帯びてきているように感じます。

軍事的な攻撃を着々と用意しつつ、プーチン大統領は停戦交渉という外交戦略も活発化させています。今年に入り何度も「アメリカ政府と水面下で折衝している」と明かしたり、「ウクライナが停戦交渉に応じるように、アメリカ政府が説得すべきだ」と要求してみたりと、かなり強気の戦略を打ち出しています。

プーチン大統領とロシアがテーブルに乗せている“停戦のための条件”は【実効支配している東南4州とクリミアを正式にロシアに譲る協定をロシア・ウクライナ間で締結すれば、ロシアは軍を“ウクライナ”から撤退させて、即時に停戦に応じる用意がある】という内容と伝えられています。

その真意は、ロシア政府関係者によると「プーチン大統領の頭と心の中では、ウクライナはロシアと一体の存在であり、誰もその魂も精神も切り離すことはできないし、決して許されないと信じており、この信念に揺るぎがないため、ウクライナがロシアと決別するシナリオも、ウクライナがロシアから独立した存在であることも許さない」ということのようです。

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「交渉」でロシアを封じ込め可能という大きな勘違い

ただ、真偽のほどは分かりませんが、プーチン大統領は周辺国には関心がないそうで、「ウクライナの問題が解決した後は、バルト三国にも、ポーランドにも触手を伸ばすことはない」と明言していますが、過去に何度もロシア・ソ連に蹂躙された記憶が残る周辺国としては、最近、ロシア優勢の分析が増えてくる中、警戒心を高める結果に繋がっており、これはまた地域の緊張の高まりをさらに加速させることにもなってきています。

フィンランドの新しい大統領(ロシア強硬派)曰く、「プーチン大統領を信用することは絶対にできず、態勢が整ったら、彼は周辺国に戦いを挑むだろう。恐らく私の任期中にロシアはまた大きな戦争を起こす。もしかしたらフィンランドが直接攻撃を受けるかもしれないし、それはポーランドかもしれない。その日に備えて欧州は結束し、自前でロシアと対抗できる力を用意しておく必要がある。核兵器のシェアも選択肢の一つとして検討しなくてはならない」とのことで、確実にテンションが高まっていることを感じます。

ロシアによるウクライナ侵攻から来週でまる2年が経ちますが、国際社会は確実にウクライナ疲れを見せており、Stand by Ukraineの声も聞かれなくなってきていますが、このままではウクライナの存在がなくなってしまう恐れが出てきてしまいます。

支援疲れと国内における関心の低下、そして同時進行的に起こる紛争とエネルギー資源や食資源の危機、インフラ…様々な問題に苦しめられる中、欧米諸国とその仲間たちはウクライナに対して“早期の停戦”を呼びかけるようになってきました。

停戦に関しては、この戦争においては、ロシアがもし武器を置くのであれば、戦争は即時に集結し、停戦が成立し、恐らく、例えは悪いですが、プーチン大統領やその周辺は、舌をペロッと出して「思うようにはいかなかったけど、勝ったね」とbusiness as usualに戻るでしょう。

しかしウクライナにとっての現時点での停戦は、武器を捨てることは即時にウクライナという国家がなくなることを意味しかねません。ウクライナという国名は残るかもしれませんが、それは実質的にはロシアと一体の存在に立ち戻ることになりますし、これまでロシアが何度も繰り返し停戦という約束を破ってきた歴史に鑑みると、頃合いを見てまたウクライナに襲い掛かり、今度は徹底的に蹂躙することになる可能性が高まるからです。

それを防ぐにはロシアを永続的に封じ込め、影響力を拡大する道を閉ざし、囲い込むことで勢いを削ぐ必要があります。

ただし、それを、交渉を通じて行おうというのは大きな勘違いだと、私は経験上、痛く感じています。

以前、ロシアとの交渉に臨んだ時に思い知ったことは「ロシアにとって交渉とは結果を得るために妥協するプロセスでは決してなく、全面的に自分の要求を押し通し、相手にのませるために行うもの」というメンタリティーが強くかつ堅く出来上がっており、手法としては【無理難題を交渉の最初にぶつけ、あとは黙り込んで、相手が我慢できなくなって妥協し始めるのをひたすら待つ】という独特のスタイルを貫きます。

ロシアと対峙し、警戒する欧米諸国とその仲間たちはその戦略に耐えられるでしょうか?

そして、今回のウクライナ侵攻に際して行った厳しいロシア包囲も結果的に穴が開き、結束に解れが出た経験に照らし合わせた時、本当に永続的に囲い込むような覚悟と結束を維持することが出来るでしょうか?

そのカギを握るのは、ロシアがあてにする中国がどう動くかということかもしれません。

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早ければ今年中に極めて深刻な状況に直面しかねない国際社会

もし中国政府がロシアとある程度の距離を置き、べったりとロシアの企てに乗らず、ロシアの企ての封じ込めの陣営の一角を担うことがあれば、安定的な国際情勢がうまれるかもしれません。

しかし、中国が欧米諸国とその仲間たちのチームに加わることは考えづらく、中国政府の“独自の非干渉型の外交戦略”が維持されることを予想すると、そう簡単にどちらかに与することはないと思われます。

そうなると、またアメリカがどう動くかが、イスラエル・ハマスの戦争と同じく、ロシア・ウクライナ戦争の行方も左右する状況になりますが、もしバイデン大統領が自身の“成果”としてウクライナに停戦を飲ませる(恐らくロシアの提示した条件をほぼ丸のみで)ような決定を下したら、11月の大統領選の結果が出るまでは、恐らくロシアもウクライナをキープすることに同意するかもしれませんが、ウクライナ政府と国民に引導を渡すことになってしまうかもしれません。

中東地域の緊張の高まり
ユーラシア大陸における緊張の高まりと安全保障環境の悪化
そして北東アジアで燻る紛争の火種

もし、まだ世界のリーダーを自認するアメリカやその仲間たちがハンドリングを間違えたら、早ければ今年中、恐らく来年にはとんでもない国際情勢に、私たちは直面し、苦しめられることになるかもしれません。

私たち調停官ができることは限られておりますが、精いっぱい、世界が変な方向に進まないように全力を尽くします――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年2月16 日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: kibri_ho / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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