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あまりにも多い「反プーチン派」の死。ナワリヌイ氏は“消された”のか?

全世界に衝撃を与えた、ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死。当局は事件性を否定しているものの、残された家族からの遺体返還の求めに対して「数週間かけ死因を再調査する」としています。なぜここまで時間をかける必要があるのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では、ナワリヌイ氏の死因に疑念を抱く人気ブロガーのきっこさんが、これまで報じられてきた反プーチン派の不審死をあらためて取り上げるとともに、ナワリヌイ氏の遺体返還に数週間を要する「プーチン大統領サイドの事情」を紹介しています。

【関連】政敵ナワリヌイ氏が獄死。それでもプーチン独裁が崩壊に向かう理由

遺体返還まで数週間。世界が疑う「ナワリヌイ氏の死因に事件性なし」

2月16日、ロシアのプーチン大統領による国営企業を私物化した巨額横領事件を追及して来た、反体制派指導者で弁護士のアレクセイ・ナワリヌイ氏が、収監されていたシベリアの刑務所で死亡したと報じられました。まだ47歳の若さだったといいます。ロシア当局は検死の結果として「事件性はなく死因は突然死症候群」と発表しました。

しかし、この報道を耳にした人の多くは、反射的に「プーチンの指示で暗殺された」と思ったでしょう。本来は、何の確証もなくこのような決めつけをするのは良くないことですが、死亡の2日前に接見した弁護士は「ナワリヌイ氏の健康状態に問題はなかった」と証言しており、その前日に撮影された動画にも元気な様子が残っているのです。

また、遺族からの遺体返還の要求を、ロシア当局は何故だか頑なに拒否し続けているのです。この2点だけでも、ロシア当局の発表など鵜呑みにできなくなります。他にも、ナワリヌイ氏の側近のレオニード・ヴォルコフ氏が「ロシア当局が、刑務所でアレクセイ・ナワリヌイを殺したと告白文を公表した。これが本当かどうか、確認も証明することもできない」とSNSに投稿しました。

そもそもの話として、ナワリヌイ氏は2020年8月20日、シベリアからモスクワへ移動中の旅客機の中で、突然、苦しみ出して意識不明に陥り、オムスクの空港に緊急着陸して病院に搬送されています。幸いにも一命はとりとめたものの、この日、ナワリヌイ氏は朝から一杯の紅茶しか飲んでおらず、この紅茶に何者かが毒物を混入させた可能性が疑われました。担当医も、当初は毒物の混入を認めたのです。

しかし、この担当医は、数日後に「毒物混入は考えられる可能性の1つに過ぎない」と発言をトーンダウンさせました。命に係わるほどの毒物なのですから、簡単に検出できるはずなのに、それをせず、疑惑を疑惑のままで放置したのです。その上、この病院にいては殺されると感じたナワリヌイ氏が「ドイツの病院への転院」を申し出ると、この担当医は「今の容体ではとても転院などできない」と、何故だか必死に阻止しようとしたのです。

結局、ナワリヌイ氏は強引に転院しましたが、ドイツの病院で血液検査をしたところ、ソビエト時代からロシアが開発していた化学兵器「ノビチョク」の成分が検出されたのです。ノビチョクの致死性は非常に高く、VXガスの5~8倍と言われています。

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プリゴジン氏は「何者かによる撃墜」により死亡

ノビチョクと聞いて思い出すのは、2018年3月4日、英国南部のソールズベリーで発生した毒殺事件です。この日、街のショッピングセンターのベンチで、ロシアの元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏が倒れていました。駆け付けた警察官によって救急搬送されましたが、ユリア氏は一命をとりとめたものの、スクリパリ氏は3カ月後に死亡しました。

この事件では、2人のロシア人が実行犯として逮捕されましたが、この時に使われたのがノビチョクでした。犯人はスクリパリ氏のアパートのドアノブに微量のノビチョクを付着させたのです。このドアノブを握ったことで、スクリパリ氏親子は数分後に意識不明に陥ったのですが、何よりも恐ろしいのが、真っ先に駆け付けてスクリパリ氏を助けようとした警察官までもが、意識不明となってしまったのです。

戦争では使用されることのなかったノビチョクですが、無色透明で無味無臭の上、わずかな量が皮膚に触れただけで死に至らしめることのできる猛毒ですから、口封じのための暗殺を日常的に繰り返している独裁者にとっては、「渡りに舟」のような化学兵器なのでしょう。

話は戻りますが、今回のナワリヌイ氏の訃報を聞き、すぐに思い出したのが、半年ほど前の2023年8月23日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの指導者、エフゲニー・プリゴジン氏が搭乗していた小型ジェット機の爆破事件です。この日の夜、モスクワ空港を飛び立ったワグネル所有の小型ジェット機2機のうち、プリゴジン氏と幹部の乗った機体だけが空中で爆破し、墜落し、搭乗者10名が全員死亡したのです。

この2カ月前、プリゴジン氏はプーチン大統領に反旗を翻し、武装反乱を起こしてモスクワへの進軍を決行しました。プリゴジン氏がモスクワの手前で進軍を止めたため、プーチン大統領との水面下のすり合わせができたのだと見る報道もありました。しかし、この時、プーチン大統領はテレビ演説で、国民に対して「我々は今、国家への裏切り行為と直面している」と怒りをあらわにして述べていたのです。

そして、2カ月後の爆破事件です。当初は「機内に爆発物が仕掛けられた可能性」も報じられましたが、後に「何者かによる撃墜」と変更されました。モスクワ上空に他国籍の戦闘機が侵入することなど不可能ですから、「撃墜」であればロシア軍の戦闘機ということになります。そして、こんなことで軍を動かせる人物と言えば…ということです。

熱心なロシア・ウォッチャーでなくとも、ここまで書いて来た事件はどれも記憶に残っていると思います。さらに振り返ってみると、第2次チェチェン紛争におけるロシア政府による人権侵害や、プーチン大統領への批判を続けていたロシア人の女性ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ氏が、2006年10月7日、自宅のエレベーター内で何者かによって射殺されました。48歳の若さでした。

ロシア連邦保安庁の元職員で、ポリトコフスカヤ氏と同じくチェチェンへのロシア政府の蛮行とプーチン大統領を批判し、ロシア政府の悪行の数々を暴露したため、プーチン大統領の「暗殺リスト」に加えられてしまったアレクサンドル・リトビネンコ氏は、亡命先のロンドンで飲食物に放射性物質ポロニウム210を仕込まれ、2006年11月23日、44歳の若さで死亡しました。

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過去2年間で50人以上の暗殺命令を出したプーチン

ロシアの弁護士、セルゲイ・マグニツキー氏は、プーチン政権下で起こった政府ぐるみの数百億円に及ぶ巨額横領事件を告発したことで、無実の罪でモスクワの拘留施設に長期収監され、1年以上も連日暴行され続け、2009年11月16日、37歳の若さで獄中死しました。そして、マグニツキー氏の意志を継いで巨額横領事件の告発を続けていたニコライ・ゴロコフ弁護士は、2017年3月21日、この事件でモスクワの裁判所に出廷する日の前日に、アパートの屋上から何者かによって突き落とされ、一命はとりとめたものの、重傷を負って出廷が不可能になったのです。

現在は日本政府もロシアのウクライナ侵攻を批判していますが、2014年にロシアがクリミアへ侵攻した時は、欧米諸国が現在と同じく強い批判を繰り返す中、日本政府だけはこの問題を完全スルーでした。当時の安倍晋三首相は、毎年のようにプーチン大統領に会いに行き、そのつど莫大な上納金を渡していました。そして「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている」などと寝言を垂れ流し、あたしたちから巻き上げた税金でロシアのクリミア侵攻をバックアップしていたのです。

そのため、当時のクリミアについて、日本ではほとんど報道されませんでしたが、この時、ロシア内でプーチン政権によるクリミア侵攻を厳しく批判していたのが、エリツィン大統領時代に第1副首相とエネルギー相をつとめた上院議員、ボリス・ネムツォフ氏でした。プーチン政権下では、反対制派のリーダーとして活躍し、2014年のクリミア侵攻でもロシア各地で大規模な反対デモを主導したため、プーチン大統領にとっては「目の上のたんこぶ」でしたが、今回、死亡が報じられたナワリヌイ氏の盟友でもありました。

しかし、そのネムツォフ氏は、2015年2月27日、モスクワのレストランで友人と食事をした帰り、モスクワ川に架かる橋の上で背後から6発の銃弾を浴び、そのうち4発が背中に命中して殺されました。55歳でした。実は、この日の2日後の3月1日に、プーチン政権によるクリミア侵攻を批判するための大規模なデモが予定されており、ネムツォフ氏はその呼び掛け人だったのです。ネムツォフ氏の暗殺を受けて、3月1日のデモは急遽、ネムツォフ氏の追悼デモとなりました。

この時、実行犯として逮捕され、裁判で有罪となったのが、チェチェン共和国に駐在していたロシアの内務省軍副隊長とその部下でした。しかし、この裁判では「誰の命令で銃撃を行なったのか?」という最大の問題点が完全にスルーされ、実行犯が有罪になっただけでチャンチャン、後はウヤムヤにされたのです。もう、この事実だけで「ああ、独裁者に利用されトカゲのしっぽ切りを食らったな」と誰の目にも明らかですが、それが通用してしまうのがロシアという国なのです。

しかし、独裁政権の本当の恐怖は、あたしたちには見えないところにあるのです。ここまでに挙げて来た暗殺事件は、犠牲者が著名人であり、どれも世界で報じられた大きな事件だけです。これらは「氷山の一角」であり、ロシア語に堪能な熱心なロシア・ウォッチャーによると、過去2年間だけでも、プーチン大統領の命令によって暗殺された人物は「少なくとも50人以上」だと言うのです。

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プーチンに疑われる「大統領選までの時間稼ぎ」

前回2018年のロシア大統領選挙では、ナワリヌイ氏に難癖をつけて立候補申請を却下させたプーチン大統領は、77.53%という圧倒的な得票率で再選を果たしました。そして、来月3月15日から17日にかけて行なわれる今年の大統領選挙でも、まあ普通に勝つでしょう。

しかし、プーチン大統領としては、ただ勝つだけではダメなのです。勝つことは決まっていても、前回より得票率が下がってしまうと、大統領としての求心力が低下して来たことを国民に示す結果となってしまうため、絶対に「前回以上の得票率」で再選を果たさなくてはならないのです。

今回、プーチン大統領は「80%以上の得票率」を目標に掲げているそうですが、そのためには、どんな手を使ってでも自分の得票率へのマイナス要因をすべて潰しておきたいのです。そう言えば、最近のナワリヌイ氏は、大統領選挙が近づいて来たことで、シベリアの獄中から「プーチン以外に投票せよ!」というメッセージを定期的に発信していたと報じられています。

今回の事件を受けて、ナワリヌイ氏の妻のユリア氏は「夫を殺したのはプーチンだ!」と断言し、自身がナワリヌイ氏の政治的意志を継ぐと表明しました。そして「事件性はなかった」と言いながら遺体の返還に応じず「これから数週間かけて死因を再調査する」などと言っているロシア当局に対しては「殺人の証拠を隠蔽することが目的だ!」と糾弾しました。

本当に事件性などなく、本当に暗殺でないのなら、遺族の要求通りに遺体を返還し、国外の第三者機関で死因を調査させれば良いのです。そうすれば大統領選挙の前に結果が出ますから、何の毒物も検出されなければプーチン大統領の得票率は安泰でしょう。それなのに、絶対に遺体の返還に応じないどころか「これから数週間かけて死因を再調査する」だなんて、世界中から「大統領選挙の前に結果を出さないための時間稼ぎ」と思われても仕方ありませんね。

【関連】獄死したプーチンの政敵ナワリヌイ氏をロシア人はどう思っているか?

(『きっこのメルマガ』2024年2月21日号より一部抜粋・文中敬称略)

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