16日に収監中の刑務所で急死した、ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏。プーチン大統領の政敵の突然の死に世界からロシア政府に疑いの目が向けられていますが、ロシア国内では「信じ難い説」が流布しているといいます。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ロシアのネット上で繰り広げられているナワリヌイ氏の死を巡る激しい情報戦の内容と、彼がロシア国民にどのように思われていたかについて紹介しています。
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ナワリヌイをロシア人はどう考えているのか?
全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。
オランダ在住、Assuntaさまからメールをいただきました。
北野先生
金曜日、ナワリヌイの死を知ってから北野先生のメルマガをクビを長くして待っていました。
ショックでした。「こんなに無謀なことばかりしていたらいずれプーチンに殺されるのに」と思っていてもショッキングな突然死でした。希望を失ったという感じです。
本日のオランダやイタリアのオンライン新聞でもユリア夫人のビデオがトップです。
嘘つきばかりの中で命を賭して真実を伝えようとするのもロシア人なんでしょうか?
毒殺未遂から回復した後ドイツから帰国した時も理解できませんでしたが、プーチンの死や失脚を待つということはできなかったのでしょうか?
志がよくて、かつ「私はプーチンになりたい」なんていう嘘をしゃーしゃーと言ってのけるロシア人はいないのでしょうか?
もっと理解できなかったのは、日経新聞の記事、
「ただ、保守的な国民が多いロシアでは、ナワリヌイ氏の評価は都市部を除けば、必ずしも高くない。独立系調査機関レバダ・センターが23年1月に実施した世論調査では同氏の活動を「評価しない」が57%を占め、「評価する」の9%を上回っていた」
これは事実なのでしょうか?とすれば、彼を過大評価していたのはプーチンだけということですか?
質問ばかりですみません。
今後はよくなるという北野先生のお言葉を信じたくても信じられない日々です。
Assuntaさん、ありがとうございます!順番にお答えしていきましょう。
嘘つきばかりの中で命を賭して真実を伝えようとするのもロシア人なんでしょうか?
これは、日本人と同じで、「いろいろな人がいる」ということでしょう。
ロシアにも時々、命がけで真実を伝えようとする人がでます。たとえば、水爆開発に関わり、後に人権活動家、反体制活動家に転じたアンドレイ・サハロフ博士。たとえば『収容所群島』を記し、ノーベル文学賞を受賞したアレクサンドル・ソルジェニーツィン。
しかし、どこの国でもそうだと思いますが、「命がけで真実を伝えようとする人」は、超少数派です。普通の人は、命がおしい。それで、ロシアで反戦の人は、普通黙っています。
毒殺未遂から回復した後ドイツから帰国した時も理解できませんでしたが、プーチンの死や失脚を待つということはできなかったのでしょうか?
ナワリヌイ以外のほとんどの「反プーチン派」はそうしています。
ウクライナ戦争がはじまった時、ナワリヌイや反プーチン派は「戦争反対」でした。それで、ナワリヌイの同志は、逮捕されたか、国外に脱出したかどちらかです。逮捕を逃れたナワリヌイの同志は、外国で活動を続けています。
志がよくて、かつ「私はプーチンになりたい」なんていう嘘をしゃーしゃーと言ってのけるロシア人はいないのでしょうか?
プーチン政権は、「KGB政権」ですから、表面だけプーチンに従順でも、いずれバレるでしょう。
私がモスクワに行った90年、バルト三国の人から、「人のいる場所で政治の話をしていはいけない。電話で重要な話をしてはいけない。この国では、『常に聞かれていること』を決して忘れてはいけない」とアドバイスされました。
だから今なら、「メールは、読まれている。スマホは聞かれている。SNSは見られている。自宅は盗聴されている」と考えて生きていく必要があります。
そういう状況下で、ウソをつきつづけることはほぼ不可能でしょう。