東京-大阪間を約1時間で結ぶ夢の超特急「リニア中央新幹線」。JR東海は当初、2027年の全線開通を目指したものの、“静岡県の妨害”によって工事が大幅に遅延したと報道されています。いきおい川勝平太県知事に批判の矛先が向かう昨今ですが、そんな中で「JR批判は御法度」なメディアの忖度体質を批判するのはメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』著者の伊東さんです。「JRタブー」と安倍晋三元首相、そして日本最後のフィクサーのただならぬ関係とは?
「日本最大のタブー」と化したリニア中央新幹線
リニア中央新幹線をめぐり、静岡県知事に対する“ヘイト”が後を絶たない。
ジャーナリストの小林一哉氏は、東洋経済オンラインで、「静岡リニア『川勝知事』JR東海にまたも無理難題」というタイトルの記事を掲載した(*1)。
あるいは、イトモス研究所所長の小倉健一氏は、ダイヤモンド・オンラインで、「『リニア妨害』川勝知事が議会で激ヅメ…過去に否定した“解決策”を今さら主張する自己矛盾」というタイトルで川藤知事を厳しく批判した(*2)。
しかしながら、このような静岡県知事への批判は的外れだ。
リニア中央新幹線計画では、まずはその経済的な見通しに疑問符が付く。さらに環境に対する影響も強く懸念されている。
そのリニア中央新幹線を強く推進してきのが、「日本最後のフィクサー」(*3)といわれる葛西敬之氏(元JR東海名誉会長・2022年死去)だ。
葛西は、安倍・菅政権時の「フィクサー」として政界に君臨、リニア実現のために財政投融資3兆円が注ぎ込まれることになった。
JRは、日本における“最恐最悪のタブー”と言える存在だ。あの天下の週刊文春でさえ手が出せない。前出の小林・小倉両氏のごとき“JRの手先”どもに、リニアは絶対に批判できないのはお分かりだろう。
隠蔽されつつあるリニア新幹線の大問題
もちろん、日本のマスゴミもリニア中央新幹線の批判などできない。そのリニアにはどのような問題が隠されているのか。
第一に、リニア新幹線は既存の東海道新幹線と競合する。東海道新幹線はJR東海にとって唯一といってもよいドル箱路線であるが、仮に新幹線からリニアへの乗り換えがあったとしても、その分、新幹線の利用客が減りかねない。
しかし、現在の見通しとしては輸送需要が将来的にも大きく拡大するとの激アマ試算を前提に、リニアも東海道新幹線も両方で採算が取れると見越している(*4)。
環境に対する懸念もある。リニア新幹線は高速を出すためにできるだけ直線で結ぶことを前提に、東京・名古屋間の87%が地下になり、南アルプスを貫通することになる。
しかし、すでに山梨県で完成している42キロのリニアの実験線では、山肌を貫くトンネル工事で地下水脈が分断されたことにより、予期しない場所での大量の出水や、生活用水や河川、沢の水涸れなど多くの問題が各地から報告されている(*5)。
「日本最後のフィクサー」葛西氏と安倍元首相の不健全な関係
そもそも、静岡県知事がリニア新幹線に反対する理由は、今後、南アルプスの山間をぶち抜く工事が進められていくなかで、予測不可能な水問題に直面する可能性があるからである。リニア新幹線を推進する“JRの手先”どもに騙されてはならない。
そのリニア中央新幹線を推進してきたのが、「日本最後のフィクサー」とも「国商」ともいわれる葛西敬之氏(2022年死去)だ。
葛西は、小泉純一郎氏が第一次安倍政権に譲る前に国家公安委員会委員に選ばれ、まずは「教育再生会議」のメンバーとしての内閣との結びつきを深めていく。
そして自民党が下野したあとの民主党政権時代にも、東日本大震災の悲劇に見舞われた際にも政府の政策に関与。
とくに、葛西は福島第一原発事故により経営危機に陥った東京電力の経営・財務調査委員会ならびに原子力損害賠償支援機構運営委員会の委員に就任。当時、脱原発や電力自由化の機運が強まる中で、葛西は積極的に“原発推進”の立場を明確化した。
そうしたなかで、安倍氏の政権カムバックを後押しするとともに、実際にそれを実現した。
第二次安倍政権の発足にあたり、葛西は安倍氏の側近として旧知の官邸官僚を送り込む。それが警察庁出身の杉田和博氏であり、経産省出身の今井尚哉氏であった(*6)。
黒幕に徹しながら政府を利用した「憂国の士」
その葛西の悲願が、リニア中央新幹線の実現だった。
実際、リニア新幹線は安倍政権下の経済政策である「アベノミクス」における成長戦略の目玉に位置付けられ、そこからリニア新幹線の工事は日本政治と“一体化”していく。
葛西は、安倍晋三元首相が「憂国の士」と呼ぶほどまでに敬愛してきた人物だ。
彼は日本という国家を自身のビジネスの場として露骨に利用し、政府や政策を操ろうとした。まさに「国商」である。
他方、葛西自身は、表舞台に立たない黒幕に徹した。それが「最後のフィクサー」と呼ばれる所以だ。
週刊文春すら潰す“日本のタブー”が静岡県知事を狙い撃つ
JRという存在は、「文春砲」で名を馳せる週刊文春でさえも敵わない“日本のタブー”だ。駅売店(キオスク)に並ぶ雑誌を、かつては公益財団法人の鉄道弘済会が一括して仕入れしていた経緯がある。
キオスクは、一昔前までは書店に次ぐ雑誌販売の大きな柱であり、その意味でJR批判は出版社にとってタブーだったわけだ。
たとえば1994年には、JR東日本管内のキヨスクの売り場から『週刊文春』が完全排除されるという事件があった。同誌が掲載した、小林峻一氏の「JR東日本に巣くう妖怪」と題する連載記事にJR東日本の労使が激しく反発し、キオスクでの販売拒否という許しがたい言論弾圧行為が起こったのである。
今起きている、JR東海と静岡県知事とのリニアをめぐる戦いは、決して静岡県知事の“ゴネ得”ではないのだ。
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■引用・参考文献
(*1)小林一哉「静岡リニア『川勝知事』JR東海にまたも無理難題 権限及ばない山梨県のトンネル工事中止を要請」東洋経済オンライン 2022年11月13日
(*2)小倉健一「『リニア妨害』川勝知事が議会で激ヅメ…過去に否定した“解決策”を今さら主張する自己矛盾」ダイヤモンド・オンライン 2023年12月27日
(*3)(*6)森功『国商 最後のフィクサー葛西敬之』講談社 2022年
(*4)(*5)「天下の愚策リニア新幹線に待った!(橋山禮治郎千葉商科大学大学院客員教授)」ビデオニュース・ドットコム 2014年8月9日
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