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プーチン圧勝で2030年まで続く独裁政治。ウクライナを滅ぼす「暴君」は国際社会に何を仕掛けるのか?

先日行われたロシアの大統領選で得票率87.28%という圧勝を果たしたプーチン氏。2030年まで大統領の座に君臨することとなりますが、その間プーチン氏は国際社会にどのよな揺さぶりをかけてくることが予想されるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、継続中のウクライナ戦争の「明るくない」行く末を考察するとともに、ロシアが次に狙う国を予測。さらに「ウクライナの敗北」が欧州以外の地域に与える影響を解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/“プーチン・ロシア帝国”と国際情勢‐ブロック化の加速と分裂

大統領選で圧倒的勝利のプーチンがウクライナの次に狙う国

「プーチン大統領再選」

「プーチン大統領のロシアが2030年まで続く」

3月15日から17日にかけて行われたロシア大統領選挙で、予想通りの大勝を収め、自らの統治・権力基盤を再度確固たるものにしたプーチン大統領。

欧米諸国とその仲間たちから「この選挙は民主的に行われたものではない」という批判を浴びせられても全く気にすることはなく、すでにプーチン大統領とその周辺の目はウクライナ戦争のend gameの方法と実施時期、そしてBeyond Ukraineに向いています。

それを“適切に”言い当てたのがアメリカのオースティン国防長官で「プーチン大統領の再選により、ウクライナの存亡の危機が高まった。私たちは即座に対応しなくてはならない。それができなければ、ウクライナのみならず、欧州に広がる同盟国と自由を守れなくなるだろう」と米国内外に向けて警告しました。

フランスのマクロン大統領も同様のことを言っており、「ウクライナの敗北は欧州の敗北であり、ロシアによる影響力が一気に欧州全域に及ぶことを意味する。そしてそれはまたウクライナを通じて民主主義体制を守ろうとした欧米諸国の試みが失敗に終わったことを意味するだろう。無関心と行動の欠如は許されない」と迅速なウクライナ支援を訴えかけています。

示された内容は非常に物騒な予想になっていますが、それは私たちが警戒する方向性の“一つのシナリオ”とも一致します。

プーチン大統領がロシア大統領に再選され、任期中に何もなければ2030年までその座に君臨することになりますが、これからの6年間でプーチン大統領とロシアは、国際社会において何をしようとしているのでしょうか?

それは、現在進行形のイスラエルとハマスの戦い、ガザにおける悲劇がどれほど続くかによって“も”左右されます。

プーチン大統領とロシアの狙いは、いろいろと難癖をつけてNATO諸国へのちょっかいを出し、それらの国内情勢をかき回すことで、願わくは親ロシアかロシア包囲網から一定の距離意を置く政府の誕生を後押しし、NATOとロシアの影響圏との間にクッションをできるだけ厚く確保したいという内容が考えられます。

時折報道で目にするロシアによるNATO諸国への軍事侵攻は、さすがにNATO憲章第5条の集団的自衛権の行使にかかるため、ロシア政府もその危険性に正面から挑むことはないように思いますが、東端のNATO諸国において内発的なNATO離れを画策することは十分に考えられます。

実際にNATO加盟国であるバルト三国には継続的に圧力を加えていますし、ウクライナとの戦争を継続しつつ、モルドバ(NATO非加盟。現在EU加盟申請中だが、こちらは国論を二分し、まだ国民の支持を得ていない)に対しても1991年から続く沿ドニエストル共和国のロシア系住民がモルドバ政府に抑圧されているという“理由”を掲げて、積極的に介入しています。

そこには2014年にクリミア半島に侵攻し、2022年にドンバス地方に侵攻した際のロジックと類似している状況が垣間見られ、ウクライナへの侵攻の状況が落ち着けば、ロシアの魔の手がモルドバに広がることが予想されます。

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国家としての存亡が絶望的になるウクライナ

ロシアの企みを阻止するには、ロシア・ウクライナ戦争が【ウクライナ領内に留まっていること】が大事なのですが、その成否は、比較的短期間にNATO諸国とその仲間たちが、ウクライナに対して、ロシアからの攻撃激化を跳ね返すことができるだけの軍事的な支援を行うことが出来るかどうかにかかっています。

すでに3年目に入ったロシア・ウクライナ戦争ですが、アメリカもNATO軍も直接的な介入はせず、あくまでも軍事支援を行い、戦うのはウクライナ軍という構図が確立していますので、NATOが今後、ロシアとの直接的な対峙という非常に大きなリスクを冒してでも勝ちに行こうとしない限りは、ウクライナにとって非常に厳しい状況が続く可能性が高いと思われます。

この戦争において、ロシア優位が固まり、NATO諸国とその仲間たちがToo late; too littleと批判されている慎重なサポートに留まるのであれば、いろいろなパターンが考えられるにしても、ウクライナはロシアに席巻され、下手すると国家としての存亡が絶望的になります。

ロシア軍からの攻撃に耐え切れずに、物理的・軍事的に敗北し、ずるずるとロシアがポーランド国境リビウのあたりまで進むというパターンもあれば、ロシアの侵攻は、今回はドンバス地方の確保に留まっても、何者かによってゼレンスキー政権が打倒され、キーウに親ロシア政権が樹立され、実質的にロシアの傀儡になってしまうパターンも考えられます。

そしてロシアの侵攻の進捗状態とは関係なく、ウクライナで政変が起き、ゼレンスキー大統領が追放されるパターンや、東南部はロシアに編入された状態が固定され、キーウがある中部(ウクライナ国教会)とポーランド国境沿いの西部(ポーランド系住民が多数を占めるカトリック教徒)にウクライナが分裂するというシナリオも考えられます。

この“ウクライナの敗北”は、欧米諸国、NATOとその仲間たちの信頼を著しく崩壊させることになり、欧州独自の安全保障体制の確立のニーズが高まったり、アメリカ中心の同盟関係の軋みと同盟の求心力が低下したりすることに繋がります。

日韓とともに台湾有事で中国と戦う決意を固めた豪州

そしてそれは、中国“問題”を抱える広域アジアとアジア太平洋地域にも拡大され、「中国がよりアグレッシブな姿勢を取り、自国に安全保障上の危機が訪れる際に、アメリカとその仲間たちは守りに来てくれないのではないか」という疑心を掻き立て、地域における集団安全保障体制が崩壊することにも繋がりかねません。

今回、キャンベラ訪問中に非公式に面会しているオーストラリア政府および専門機関の外交・安全保障関係者と話した内容を少し紹介すると「仮に台湾有事が勃発しても、ウクライナに対するアメリカの姿勢を見れば想像できるように、アメリカ軍が主導権を取って中国人民解放軍と交戦するとは思われず、恐らくオーストラリアと日本、そして韓国が一時的な対応を迫られるだろう。これまでのオーストラリアの安全保障体制および政策では領域外で起きた紛争に対しては積極的な関与は避ける方針だったが、中国の脅威と圧力の高まりに直面して、より積極的かつ直接的なコミットメントを行う姿勢に変換した。中国が必ずしも全面悪であることはなく、重要な経済的なパートナーであることもまた事実だが、地域における軍事大国であり、領土的野心を持つことから、警戒し、備えておかなくてはならない」という認識が共有されています。

互いの情報量に差があるため、そのまま追従することはしませんが、オーストラリア政府が中国による脅威をより現実のものと見据え、安全保障政策を一歩踏み込む形で変換しているのは、日本にとっても重要な情報であると感じます。

中国に領土的野心があるかどうか(対台湾ではなく、周辺国)、そして本当に武力による台湾侵攻を真剣に検討しているのかはなかなか見極められていませんが、「有事の際にどう動くのか」については可能な限り詳細に戦略を立てておかなくてはならないと考えます。

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NATOが直接介入なら「全面核戦争」をも想定しているプーチン

しかし、ここまでの脅威への対処については、“アメリカはやってこない”というBig Ifに基づくシナリオであり、アメリカの次期政権が積極的に介入してくる可能性も否めません。

その決め手は【ロシア・ウクライナ戦争のend gameにどれほどアメリカが関わる必要があるか】【イスラエルとハマスの戦いがどれだけ継続し、その対応にどれほどアメリカのリソースが割かれることになるか】【経済的なスランプが囁かれる中国が、どの程度、台湾対応とアジア太平洋地域にリソースを割くことができるか】といった要素によると考えています。

これら3つの要素に対して影響力を行使し得る存在の一つがロシアです。

一つ目の【ロシア・ウクライナ戦争】については、その当事者ですので、もちろん直接的な影響を与えることが出来ますが、これまでいろいろな話をし、分析結果を見ていて明らかになるのは【ロシア・プーチン大統領はこの戦争を長引かせ、欧米諸国をできるだけ足止めしておきたい】という思惑です。

NATOが直接介入してくれば、全面戦争を覚悟し、それこそ世界の終焉をまねく全面核戦争も想定しているようですが、ロシアもNATOもその可能性はかなり低いと見積もっているようです。

それはつまりNATOによるウクライナへの直接介入(派兵)はなく、あくまでもウクライナ軍のキャパシティーを拡大する形式を継続することと、“自衛”という名目の下、ロシア領内の軍事的なターゲットへの攻撃は黙認するという“消極的な介入”に留まることを意味します。

これが私も再三言っている“ウクライナを結局は見捨てる”ことに繋がるかどうかのご判断はお任せしますが、欧米諸国からのウクライナ支援が滞ったままで、どうしてもToo little; too lateの状況が解消されない限りは、戦争をどこまで・いつまで継続させるかは、ロシア側のさじ加減とも解釈できます。

先週号などでも触れたように、戦い続けるパターンに加えて、現在の軍事的に優位な状況を活かして、On Russian Terms(ロシアの条件による)停戦協議に前向きな姿勢をアピールし、停戦協議に応じることもできれば、このまま戦争を続けることもできるとすることで、じりじりと時間稼ぎをして、アメリカと欧州をウクライナに繋ぎとめておくことに注力しているように見えます。

【関連】プーチンの一人勝ちに。ウクライナの消滅と欧米の敗北を意味するだけの「早すぎる停戦交渉」

ロシア政府・軍関係者曰く、「私たちはいつでも望むときにウクライナに止めを刺すことが出来る」らしく、軍事的なend gameも視野に入れて、同時進行的に対応しているようです。

しかし“ロシアの勝利”をより確実にするために、欧米諸国とその仲間たちの目と注意を地域から逸らすための工作も同時に講じています。――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年3月22日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Below the Sky / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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