プーチンの一人勝ちに。ウクライナの消滅と欧米の敗北を意味するだけの「早すぎる停戦交渉」

Moscow,Russia,-,May,12,,2022:,Russian,President,Vladimir,Putin
 

開戦からすでに750日を超え、ロシア有利の戦況が伝えられるウクライナ戦争。そんな状況の中、中国やトルコが「話し合いによる停戦」の必要性を再び訴え始めたニュースが各国メディアにより伝えられましたが、識者はどう見ているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現時点での仲介・調停による停戦の話し合いは行うべきではないと主張。拙速な停戦交渉はウクライナ消滅の危機を招くとしてその理由を解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:End Gameが見えない2つの紛争‐危機と不確実性の拡大

話し合いによる停戦交渉を口にしだした中国とトルコは信用できるか

「すべての争いは、戦争によってではなく、話し合いによって解決されないといけない」

これは今週、ロシアとウクライナを訪れた中国政府の李輝ユーラシア特使が、ロシア(プーチン大統領とラブロフ外相)とウクライナ(ゼレンスキー大統領)に、習近平国家主席の意志として伝えた内容です。

「終わりの見えないロシアとウクライナの戦いに対して大きな懸念を抱いている。あまりにも多くの罪なき命が奪われ、日常が奪われた。アジアにも欧州にも、ユーラシアにも深く関係がある存在として、トルコが仲介に乗り出さなくてはならないとの覚悟を新たにした。私は今期で退任するが、最後の国際的な仕事として、ロシアとウクライナの戦争の解決に尽力したい」

これはトルコのエルドアン大統領の発言を要約したものです。

どちらも“話し合い”、つまり交渉による解決を謳っています。紛争調停官の立場としては喜ぶべきなのでしょうが、“現状”を見る限り、調停や仲介による解決のタイミングではなく、以前、交渉・コミュニケーション術のコーナーで用いた表現を使うと、「交渉・調停に最適なゾーンにまだ入っていない」と考えています。

ただ中国政府やトルコ政府というのは、ロシアとウクライナに対して対話のチャンネルを維持できているという面白い立ち位置・立場を有するため、調停役として不向きでは決してありません。

習近平国家主席もエルドアン大統領も、プーチン大統領がまじめに話を聞く相手ですし、ゼレンスキー大統領も両者の話を真剣に聞くことは、以前の(そして今回の)やり取りを見ても分かります。

「しかし中国はロシア寄りではないか」「エルドアン大統領は八方美人だから信用できない」という批判の声も聞こえてきますが、どちらもウクライナに対して「ロシアの提示する条件で停戦を」とは一言も言っておらず、代わりに「まずは話し合いのテーブルに就く姿勢を示すことが大事だ。その上で条件についての交渉をすることが必要である」という提案をウクライナにしています。

ロシアに対しては「一方的に条件を押し付けるのはいただけない。いろいろな背景や理由があることは理解しているが、やはりタブーを破ってウクライナに攻め入ったのは事実なのだから、無理難題を押し付けるような真似は止めた方がいい」と中立な立場からの働きかけを行っています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • プーチンの一人勝ちに。ウクライナの消滅と欧米の敗北を意味するだけの「早すぎる停戦交渉」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け