プーチンの一人勝ちに。ウクライナの消滅と欧米の敗北を意味するだけの「早すぎる停戦交渉」

 

現時点では決して行うべきではない仲介・調停による停戦の話し合い

では最近、ウクライナ戦争について発言したローマ教皇(白旗発言)はどうでしょうか?

カトリックのトップで、世界3大宗教のカリスマであることには疑いがなく、紛争解決によく“宗教指導者”が登場することもありますが、今回のロシア・ウクライナ戦争における仲介役として適しているかどうかは不明です。

それは同じキリスト教でも、ロシアはロシア正教でカトリックとは距離を置いていますし(今回、プーチン大統領に与しているチェチェンなどはそもそもイスラム教徒が多数)、ウクライナもオフィシャルにはウクライナ正教会が主流ですので、カトリックの最高指導者とは言え、ローマ教皇が調停役として適任かどうかは分かりません。

ただし、ウクライナを見る際、注意しなくてはならないことがあります。ウクライナにおいては、宗教的にも3つに分かれており、現在、ロシアが一方的に編入し、ロシア系住民が多いと言われるウクライナ東南部(ドンバス地方)については、ロシア系住民エリアについてはロシア正教会徒が多数を占め、首都キーウを含む中部はウクライナ正教会が主流ですが、それがポーランドと国境を接するリビウなどの南部地域については、ポーランドと同じカトリックが主流です(ちなみにゼレンスキー大統領自身はユダヤ教徒です)。

「ローマ教皇の影響力は宗派を超えるのだ」という指摘をされる方も少なからずおられますし、Holy See(教皇座)という名前で国連にも投票権のないオブザーバーとして参加し、実際に180か国以上と国交を持ち、他宗派とは違い、外交的な活動も頻繁に行われることから“特別の存在”とされるものの、その言葉や提言をどう受け取るかは、受け取る側次第というのが事実かと考えます。

長く一緒に調停グループを通じて仕事をしているロシアとウクライナ双方の専門家たちに尋ねたことがありますが、どちらからも「ローマ教皇はDevineな(神聖な)存在であり、心からの敬意は表するが、かといって私たちが彼の指示に従う義務はない」という反応だったため、仲介役としての役回りが適するかどうかは分かりません。

誰が仲介役として、ロシア・ウクライナ双方から受け入れられるかは分かりませんが、少なくとも調停・仲介を通じた話し合いによる解決を謳う“主要国”が第3極的に存在することは心強く思います。

しかし、現時点で戦況はロシア有利と言われており、大統領選挙でプーチン大統領の再選が確実視される状態で、ロシアの国内情勢もある程度安定しており、ロシア経済もさほど参っていない状況がある半面、ウクライナでは武器・兵員の深刻な不足が顕在化し、一応、取り繕われていますが、ゼレンスキー大統領周辺の国内政情もあまり安泰とは言えない状況がうかがえる明らかにアンバランスな状況下で仲介・調停による停戦の話し合いは決してお勧めしません。

停戦協議・交渉はどこかの段階でマストですし、その機会が一刻も早く訪れることを切に願いますが、そのためにはまずロシアとウクライナの戦場・戦況におけるバランス・均衡を実現する必要があります。

そのためにはウクライナを後押ししている欧米諸国とその仲間たちによる軍事支援の拡大と継続が必須となりますが、このメルマガでも何度もお話ししている通り、支援疲れや支援国の国内政情などに影響され、ロシアと戦い続けるに十分な量と質の支援は滞っています。

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