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信じているのは平和ボケした日本の評論家だけ。「プーチンの狙いはルガンスクとドネツクだけ」という大ウソ

かねてから「自身が大統領になれば24時間でウクライナ戦争を終わらせることが可能」と豪語してきたトランプ前大統領。先日、国際社会が注目していたその案が明らかになりました。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、海外有力メディアが伝えたトランプ氏の「和平案」を詳しく紹介。その上で、仮にトランプ氏主導で終戦が実現したとしても、ウクライナの平和が長く続かないであろう理由を解説しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

トランプの「ウクライナ和平案」は何が問題なのか?

全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。

トランプさんが大統領になったら、ウクライナ戦争はどうなるのでしょうか?わかりませんが、こんな報道がでています。『毎日新聞』4月9日付。

アメリカのトランプ前大統領が一部の領土をロシアに譲るようウクライナに圧力をかけることで戦争を終わらせられると内輪の場で語ったと、アメリカのワシントン・ポストが報じました。

 

これは、ワシントン・ポストが事情に詳しい関係者の話として報じたもので、トランプ氏の案はロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島や東部ドンバス地方の「国境地帯」をロシアに譲るようウクライナに促すものだということです。

この報道が正しければ、トランプさんの和平案は、「ウクライナが、クリミア、ルガンスク、ドネツクをロシアに譲ること」だそうです(@ロシアが一方的に併合したザポリージャ、へルソンには言及なし)。

また、この件で直接議論した人物の話として、トランプ氏が「ロシアもウクライナも面目を保ちたい。解決策を探していると思う」とし、地域の人たちもロシア領に組み込まれることは問題ないだろうとの考えを示したと伝えています。

トランプさん「ロシアもウクライナも面目を保ちたい。解決策を探していると思う」だそうです。しかし、トランプさんの和平案で、ウクライナは自国領のクリミア、ルガンスク、ドネツクを失うことになる。これで、「なぜウクライナが面目を保てるのか?」さっぱりわかりません。

ちなみに、この報道、「情報筋からの話」なので、「ホントかどうかわからない」という意見もあるでしょう。その通りです。しかし、もう一つ情報加えることで、トランプさんの傾向は見えてきます。

トランプさんは3月8日、ハンガリーのオルバン首相と会談しました。この会談についてオルバンさんは、こんなことを語っています。『毎日新聞』3月12日。

ハンガリーのオルバン首相は10日放送の地元メディアのインタビューで、トランプ前米大統領が11月の大統領選で返り咲きを果たした場合、ロシアの侵攻を受けるウクライナに「(トランプ氏は)一銭も払わない。だから、戦争は終わる」と述べた。ロイター通信が報じた。

 

オルバン氏は8日に米国でトランプ氏と会談したばかりだった。トランプ氏は、仮に自身が就任すれば「24時間以内に戦争を終わらせる」と主張しているが、具体策は明かしておらず、オルバン氏の発言は波紋を広げそうだ。

オルバンやトランプが、ウクライナには【1銭】も払わないとは言わないでしょう?英語の記事で確認してみると、【1ペニー】も払わないとなっていました。

たとえばBBC(「Trump will not give a penny to Ukraine – Hungary PM Orban」)は「トランプ氏は、ウクライナに1ペニーも払わない。だから戦争は終わる」そうです。これ、オルバンが、「想像で」語っているわけではないでしょう。オルバンとトランプの会談で、そういう発言があったに違いありません。もしオルバン発言が、トランプの主張と矛盾しているなら、トランプは「オルバンの言っていることはフェイクだ」と否定しているはずです。

実際、アメリカは今、共和党が多数を占める下院が原因で、ウクライナ支援をほとんどできない状態がつづいています。そして、下院の共和党議員は、トランプの影響下にあるので、反対しているのです。

トランプは、「24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる」と公言しています。問題は、「どうやって?」ですね。トランプと会談したオルバンは、「トランプ氏は、ウクライナに1ペニーも払わない。だから戦争は終わる」と言いました。この話は、上の

アメリカのトランプ前大統領が一部の領土をロシアに譲るようウクライナに圧力をかけることで戦争を終わらせられると内輪の場で語ったと、アメリカのワシントン・ポストが報じました。

と整合性が取れています。

トランプさんの和平案は、

というものであるらしいことがわかります。

「トランプ和平案」の問題点

トランプさんの「和平案」が上のようなものと仮定すると、どうなのでしょうか?

大きな問題があります。まず、国際秩序に深刻な影響を与えるということです。

プーチンは、「ルガンスク、ドネツクで迫害されているロシア系住民を救う!」などと言ってウクライナ侵略を開始。ルガンスク、ドネツクだけでなく、ちゃっかりへルソン、ザポリージャも奪ってしまいました。それを、トランプ・アメリカが容認することになる。

このことが国際社会に与えるメッセージは、「大きな国、力の強い国は、小さな国、力の弱い国からなんの根拠もなく領土を奪っても許される」というものです。当然、他の相対的な大国は、他の相対的な小国から、「欲しい!」という理由だけで、領土を奪うようになっていくでしょう。中国は、大いに喜ぶでしょう。ロシア・プーチンとアメリカ・トランプは、「悪しき先例」を作ることになります。

もう一つの問題は、「プーチンはクリミア+2州で満足しないだろう」ということです。つまり停戦に同意しても、それは、「軍を休ませ、経済を復活させ、武器弾薬を生産し、動員を進め」、要するに「次の侵略に備える準備期間」になってしまうことでしょう。なぜ?

「プーチンの狙いはルガンスク、ドネツクだけ」というのを信じているのは、「平和憲法さえあれば日本の安全は安泰だ」などと信じている、「平和ボケ」日本の評論家ぐらいです。上の話が本当なら、なぜプーチンは2022年2月24日に侵略を開始した際、ウクライナの首都キーウへの進軍を命じたのでしょうか?これはあきらかに、「首都を陥落させ、ゼレンスキー政権を転覆させ、ウクライナ全土を支配する」という試みでした。失敗しましたが。

もう一つ、既述ですが、「ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を救うのが目的」と言いつつ、なぜまったく無関係のザポリージャ、へルソンを併合したのでしょうか?

そして、プーチンの狙いが、「ウクライナ全土の制圧」であること、彼の子犬メドベージェフ前大統領が公言しています。『ロイター』3月5日付。

ウクライナ「ロシアの一部」、メドベージェフ前大統領 和平交渉否定

ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長は4日、ウクライナは「明らかにロシアの一部」との認識を示した。

この日はロシア南部ソチで開かれた若者を対象としたフォーラムに参加し、ロシア帝国とソビエト連邦を賞賛した上で、ウクライナの指導者が屈服するまでロシアは「特別軍事作戦」を遂行すると表明。

 

「ウクライナはロシアではないと語ったウクライナの元指導者がいたが、こうした概念は永遠に抹消されなければならない。ウクライナは間違いなくロシアの一部だ」とし、歴史的にロシアの一部であるウクライナはロシアに「帰還」しなければならないと語った。

「ウクライナ間違いなくロシアの一部だ」

「歴史的にロシアの一部であるウクライナはロシアに「帰還」しなければならない」

そうです。

つまり、プーチン政権は「全ウクライナ制圧」を狙っているのです。

独裁国家ロシアでは、プーチンの意向に反して好き勝手に語ることはできません。だから、プーチンの子犬メドベージェフも、プーチンの意志に沿った話をしているのです。

というわけで、トランプさんが大統領になって、仮に彼の和平案が実現しても、「平和は長くなかったね」となる可能性が高いのです。

【関連】本気で狙うノーベル平和賞。ウクライナ戦争を「ロシアへ割譲」案で早期に終わらせたいトランプの本音

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2024年4月9日号より一部抜粋)

image by: lev radin / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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