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べ、別に本なんて読まなくていいんだからね。なぜ読書をしてきた人間は「読書そのものを絶対視しない」のか?

教養や思考力を得られるだけでなく、時として人生を変えられることもある読書。そんな意味においてもなるべく身につけるべきとされる読書習慣ですが、文筆家の倉下忠憲さんは、読書をしてきた人間ほど「本なんて別に読まなくていいよ」と口にするはずだとします。その理由はどこにあるのでしょうか。今回倉下さんはメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』で、その訳をユーモアあふれる論理展開で解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:本なんて別に読まなくていい

本なんて別に読まなくていい

たくさん本を読んできた人は、本を通してさまざまな物事の価値や美しさを知っています。自国や他国の歴史。技術やビジネスの発展。科学や日々の生活の営み……。この世界にある書籍は、ほとんど森羅万象をカバーしているのではないかと疑りたくなるくらいに広範囲のカテゴリを持っています。

そのすべてを網羅できてはいなくても、そうした情報に触れてきた人間ならば、この世界には価値があるものがいっぱいあるのだ、ということは把握しているでしょう。それはつまり、読書以外の営みにも価値を見出していることを意味します。

考えてみてください。人文的な人(あるいは教養がある人)をイメージして、その人の口から以下のどちらのセリフが出てきそうですか。

「読書していない人間に価値なんてないよ」

「読書は人間の営みの一つの選択肢であって、それをしていなくてもさまざまな価値がありえます」

どう考えても後者でしょう。

読書をしてきた人間は、読書以外の価値を知ることで、読書という営みそのものを絶対視はしていない。だからきっと、こういうはずです。

「本なんて別に読まなくていいよ」、と。

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■省略された言葉

もちろん、ここには省略されている言葉がたくさんあります。

たとえば、「他に充実した活動持っているならば、」という前提。読書という活動が数ある選択肢の一つでしかないならば、他の活動で満足した生活をしているならば、あえてやるものではないでしょう。しかし、そうでないならば、本を読むという活動の選択肢は十分にありえます。

また、「本を読まなければならないという義務感を持っているなら、」という前提。読書というのは、好奇心を刺激し、その人の心の窓を開けてくれる営みなわけですが、「なければならない義務感」は好奇心とはまったく逆の働きです。

正直、そんな状態で本を読んでも、読書への嫌気が増すだけでしょう。そんなことになるくらいなら、本なんて読まなくていい。そういう気持ちも隠れていそうです。

とは言え、一番大きく隠れているのが、アンビバレントな気持ちでしょう。

たしかに読書以外に行為にも価値を見出している自分もいる。しかし、そうした価値を見出すことができたのは、まさしく読書であった。この状況がもどかしさを生みます。

一方で、「やっぱり読書すごい!みんなもっと本を読むべき!」と言いたくなる気持ちがある。少なくとも、自分の人生経験を基調にして考えるなら、まさに読書こそが至上の価値だと思えてくる。

しかしながら、そのような読書を通して得てきたのは、「読書以外にも価値がある」という一つの事実だった。もちろん、そうした事実は一つの情報として得てきただけであって、自分の人生経験からによるビビッドな発見に比べれば少し奥行きは足りていない。だからといって、それを単純に否定してしまうのは読書という行為そのものの価値を否定してしまうのに等しい。

人が本を書き、書かれた本を人が読むという行為は、人を本の中に閉じ込めるためのものではないはずです。本という文化は、人を解放するためにある。一時的に本の中の世界というクローズド(かつ特殊な)世界に人を誘うことで、結果的に帰ってきた現実世界の色合いを変えてしまう。それが読書という営みでしょう。

だからこそ、読書という行為を絶対視したくない。自分の人生にとっては絶対的なものに感じられるのに、いや感じられるからこそ、そこから距離をとる姿勢を持ちたいと思う。

そういうアンビバレントさを持って出てくるのが、「本なんて別に読まなくていい」という言葉なのです。

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■「なんて」という言い方

考えてもみてください。漫画でツンデレなヒロインはきっとこういうはずです。

「あんたのことなんて、別に好きじゃないんだから」

このセリフと以下のセリフを比べてください。

「あんたのことは好きじゃない」

ツンデレ感の有無は「なんて」という言い方が醸し出しています。否定しきれないアンビバレントな気持ちが現れるとき、この「なんて」が使われるのです。

だから「本なんて別に読まなくていい」という言葉もツンデレです。知的ツンデレ。だから額面通りに受け取らなくて大丈夫です。その奥にある気持ちを汲み取っておきましょう。

(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2024年5月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: Shutterstock.com

倉下忠憲この著者の記事一覧

1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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【著者】 倉下忠憲 【月額】 ¥733/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

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