アポロ計画成功の立役者フォン・ブラウンの「波乱」に満ちた人生

 

ヒトラーが期待を寄せたV兵器でしたが、戦局を好転させることはできず、ナチス・ドイツは敗戦を迎えます。ナチスを打ち負かした連合国でしたが、ドイツの高度な科学技術に瞠目し、特にV2号には強い関心を寄せます。米英だけではなくソ連も同様、ドイツ敗戦と同時に米ソによるV2ロケット開発チーム争奪が始まりました。

一方、ブラウンもドイツ敗戦を見越して身の処し方を考えます。ドイツに迫り来る連合国、アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、どの国に亡命すべきか。ブラウンの判断基準はロケット開発ができる国でした。ソ連は自由を縛られる、イギリスは国力が落ちている、フランスはドイツに占領された恨みがある、となると、やはりアメリカだろう。そう判断したブラウンは開発チームの仲間を連れてアメリカ軍に投降しました。

ひたすらにロケット開発の情熱につき動かされてのことです。アメリカ軍はドイツ国内に残されていたV2号ロケットとそのパーツを没収、アメリカに送りました。アメリカの国務長官コーデル・ハルがブラウンのアメリカへの移住を許可しました。ちなみに生産チームの者たちはソ連軍に捕縛されソ連に連れ去られました。

ブラウンはテキサス州に移され、1947年従妹のマリアと結婚しました。翌年には長女が誕生し、私生活が安定すると1950年アラバマ州ハンツビルに新設されたミサイル開発センターに移りました。このミサイル開発センターが八年後にアメリカ航空宇宙局NASAになります。

宇宙ロケットに魅せられた男、ヴェルナー・フォン・ブラウン逆第二の人生のスタートです。

アメリカでの暮らしが一段落したものの、ブラウンは猛烈なバッシングに晒されました。彼がV2号ロケット開発を担っていたことは周知の事実であったからで、しかもブラウンはナチ党員でした。親衛隊(SS)の少佐だったのです。ヒトラーの恐怖政治の尖兵となったSS少佐であったことはたとえブラウンが残虐行為に加担していなくても、批難を向けられるキャリアでした。また、ドイツの方からも敵国であったアメリカに渡ってロケット開発に従事するとは裏切り行為だという批難の声が上がりました。(次回につづく)

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