寂れた町にたった1軒残る飲食店。そこを目指して人が集まっている奇妙な光景が兵庫県で見られます。今回の無料メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、廃墟に残る名店を紹介しています。
廃墟にたった1軒残る「加古川かつめし」の名店。その未来は?
兵庫県加古川市神野町。
半世紀前に開発されたニュータウンの一角に、すでに廃墟となっている「神野市場」があります。
最盛期には50店舗ほどが営業し、地域住民の暮らしを支えていました。
しかし、ニュータウンには、避けることが難しい運命があります。
再開発をしない限り、住民は減り、寂れた街へと変貌します。
やがて、市場からは店舗が消え、廃墟となってしまうのです。
ここ神野市場もどこからどう見ても廃墟なのです。
ところが、この廃墟にたくさんの人が集まって来るのです。
廃墟ツアーでもお化け屋敷でもありません。
この中に、たった1軒、営業を続けている飲食店があるのです。
「洋食和食 千成亭」「中華食堂 千成亭」、2つの看板を掲げているお店です。
時代の流れで変わったのか、はたまた冗談なのか。
真相はわかりませんが、和洋中の食堂であることは間違いありません。
1974年創業。
現店主の父母が開業し、父親が亡くなった後、息子が母親を助けるために、跡を継ぎました。
夫を亡くした上に、自身も病気になり、塞ぎ込んでいた母親を見て、元気になってもらうために継いだのです。
それまで息子は、神戸北野のフレンチレストランの副料理長を務めていましたが、その地位を捨てて、食堂の親父となったのです。
大きな決断でしたが、確かな腕で生み出す料理は、瞬く間に評判となり、行列のできるお店になったのです。
名物は、加古川のソウルフードとも言われる「かつめし」です。
皿に盛ったご飯の上に、ビーフカツをのせ、デミグラスソースを掛けたもの。
添えものには、キャベツのサラダとスパゲティがのっています。
他に、小鉢2つと漬物、味噌汁、フルーツサラダがついて、1000円(税込み)。ご飯の大盛りも同じ値段。
かなりボリュームがあります。これで1000円は、安過ぎると言っても良いでしょう。
他には、大ぶりの唐揚げが5~6個載った「唐揚げ定食」や「ラーメン・チャーハンセット」、「千成おでんとラーメン定食」「かつ煮定食」「餃子定食」などがすべて1000円。
「旨い・安い・大盛り」が売りとなっています。
とにかくお客さまに喜んでいただくことが第一。
美味しいものを食べて、幸せな気分になって欲しい。ただ、それだけなのです。
お客さまを想うあまり、定休日にもお店を開けてしまっているのです。
定休日にしか来られないお客さまがいると言うのです。
「歳を取っているので、早く食べられない。混雑している中でゆっくり食べるのは申し訳ない」という高齢者が結構いることを知り、そんな人のために、惣菜やちらし寿司などのご飯物を作って、販売しているのです。
また、買い物ついでに店主のお母さんと話をするために来ている人もいます。
お母さんも常連さんとゆっくり話をする時間を楽しみにしています。
長年地域に溶け込んで営業してきたお店には、人の繋がりがあります。
お客さまとお店という関係ではなく、人と人、友達のような親しみです。
こうした関係づくりができているお店は、永続の可能性が高くなります。
後継者がいれば、将来に渡って、愛され続けるお店となることでしょう。
ここ千成亭は、そんなお店なのです。
……しかし、たったひとつ不安材料が。
「旨い・安い・大盛り」というお店は、店舗に経費があまり掛かっていない場合が多いのです。
所有する自宅であったり、古い物件で賃料が低いなど、安く提供できる環境下で営業しているからです。
もし、建物の老朽化や再開発などで、立ち退きを迫られると、お店の存続は難しくなります。
お客さまのために、儲けを度外視してきたことで、蓄えがあまりなく、新店舗での再出発が困難になります。
お客さまのための自己犠牲が、仇となるのです。
お客さまを想ってやってきたことなのに、お客さまを悲しませてしまう結果になるかもしれません。
将来、移転の可能性があるとわかっているなら、少しでも値上げして、準備をしておく必要があります。
千成亭は、ほぼ廃墟です。
老朽化による危険度が増せば、退去せざるを得ません。
その時、準備ができていなければ、すべてが終わってしまいます。
この場所は、それほど時間が残されているとは思えません。
みんなに愛されているお店は、はたしてどうなってしまうのでしょうか。
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