7月8日、ウクライナの首都キーウの小児病院に攻撃を加えたロシア。しかしながら国際社会は、かような人道にもとる蛮行を止める術を失った状態にあると言っても過言ではありません。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、もはや完全に機能不全に陥った国連安保理の現状を解説。その上で、「力あるものが世界を制する新しい国際秩序」が生まれつつあるとの悲観的な分析を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:エゴが破壊する国際協調体制と悲劇の拡大
国際協調体制の終焉。機能不全に陥った国連に見捨てられる悲劇下の市民
「NATOは戦争を防止し、平和を守るために設立され75年が経った。いろいろな同盟がこれまでに作られたが、恐らく唯一、成功した例ではないだろうか。その背後には同盟国および自由の防衛という理念があり、そして強い防衛体制を可能にするための防衛産業の発展と役割がある」
今週、ワシントンDCで開催され、途中から岸田総理も連帯を示すべく参加しているNATO首脳会合において、退任するストルテンベルグ事務総長が開会のあいさつで発言した内容の一部です。
全体をご紹介していないのでフェアではないと批判されるかもしれませんが、この発言を聞いて・見て、何か違和感を抱かないでしょうか?
私は最後の“防衛産業への讃辞”に違和感を持ちました。
まあ「よく素直に認めた」と評価したくなりますが、やはり【戦争は防衛産業・武器軍需産業を潤わせ、迅速な停戦を阻むネガティブ・インセンティブになること】を感じ取った表現だったように思います。
「ウクライナが負けることはなく、ロシアが勝つことはない。そのためにNATOは一丸となってウクライナを支援し続けないといけない」
これは主催国アメリカのバイデン大統領の言葉の一部ですが、有言実行を証明するためには、アメリカはもちろん、欧州各国も淀みない支援をウクライナに提供し続けることが必要になりますが、実情はどうでしょうか?
アメリカは議会での共和党・民主党間での激しい対立の後、これまでの最大額の支援とさまざまな武器の供与が決められ、最近、F16戦闘機もウクライナに到着したとのことですが、この決定の背後には、さまざまな思惑があったと言われています。
ウクライナに対する連帯と懸念をピュアに表明する議員はほとんどおらず、党派対立でなかなか実現しないイスラエルへのバックアップを行うために、パッケージにして通過させたものですが、その背後には武器供与のスピードと量が落ちていることに懸念を示す軍需産業からの強いロビイングがあったという情報も多数あります。
特に今年は大統領選挙の年であり、議会も半数が入れ替わるビッグエレクションイヤーですから、大口の政治献金元であり、政治力も持つ産業を敵に回すのは良くないとの議員からの判断もあったのかと思います。
しかし、同じことは次の大統領が決まり、年明けに新政権が発足するまでは決まり切らず、今後、ウクライナの対ロ抗戦を支えきるほどの支援はできない見込みです。
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