自民党の総裁選を控え、その一挙手一投足がメディアで大きく報じられる小泉進次郎氏。国民からの人気の高さは折り紙付きではありますが、進次郎氏が政治家としていかなる人物であるかを理解している有権者は決して多くないのが現状です。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、政治学者の中島岳志さんによる「進次郎分析」を紹介。国民が知らない進次郎氏の正体を白日の元に晒しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:小泉進次郎という着ぐるみの中身
誰に操られるのか。小泉進次郎という着ぐるみの中身
7月の東京都知事選は、過去最多の56人もの候補者が林立して注目を集めたことで、投票率は前回の55%から5ポイント上昇して60%に達しました。しかし、それでも有権者の10人に4人は投票へ行かなかったわけで、結果的には日本人の政治への無関心ぶりを再確認することとなってしまいました。しかし現在、日本のメディアは、連日のようにアメリカの大統領選や自民党の総裁選を報じまくっていて、SNSなどでもこの2つの選挙に関する話題が踊っています。
日本人の約半数は、自分に投票権のある選挙には無関心なくせに、どうして自分に投票権のない選挙には興味津々なのでしょうか?あたしには理解できない感覚ですが、テレビのワイドショーは視聴率のために、この2つの選挙を面白おかしく取り上げ続けています。挙句の果てには、自民党の総裁選に出馬を宣言した議員の顔写真を並べたパネルを作り、街頭で人気投票まで始める始末。そして、まだ正式に出馬会見もしていない小泉進次郎が、街頭アンケートで1位になったと報じました。
こんなアンケートに何の意味があるのか?…という疑問よりも、あたしは小泉進次郎に投票したおばさんの「爽やかなイメージだから」という選択理由を聞いて、座っていたイスから崩れ落ちそうになるほど脱力してしまいました。小泉進次郎と言えば、2019年の「COP25」で石炭火力発電からの脱却を示せない能天気な演説をして世界からボロクソに批判され、国際環境NGOから「温暖化対策に後ろ向きな国」として不名誉な「化石賞」を贈られたことを始めとして、何ひとつ国民のための仕事などして来ていません。それなのに世の中の人たちは「見た目」を重視って、もう溜息しか出ません。
そこで今回は、8月27日(火)の文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ』で、隔週レギュラーの政治学者、中島岳志さんが語った「小泉進次郎という政治家を分析する」というタイトルのラジオコラムを文字起こししました。意味不明なポエムをつぶやくだけで、イマイチ何を考えているのか分からない小泉進次郎という世襲バカボンについて、すべて本人の過去の発言からその人物像を可視化した秀逸な内容です。以下、ぜひ最後のオチまでお読みください。
中島岳志さん 「世論調査では総理大臣になってほしい人ということで石破茂さんと1位を争ってる小泉進次郎さんですが、僕は5年くらい前に『自民党 価値とリスクのマトリクス』という本を書きました。自民党の総理になりそうな政治家9人を取り上げて、それぞれの過去の発言などを分析して、この人はこういうビジョンで政治家をやっているんだということ書いた本です。その中で小泉進次郎さんのことも分析したのですが、この人は本などまとまったものを書いていないので、分析が難しかった。
そこで、過去のいろんな発言を繋げて行って、どういう考え方なのかを探って行きました」
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「上の議員の言いなりになる」という行動原理
中島さん 「彼を分析する上でかなり重要なのが、彼の生い立ちというか、学校生活なんですね。彼は小学校から大学まで関東学院というところに行っていたんですが、中学と高校が野球部なんですね。で、ここで徹底した上下関係というものを学んだんだと言うんです。先輩が言ったことは間違っていても絶対に『はい』だったと。先輩から頼まれたことは絶対に断わらないと。こういう社会だったと言うんですね」
中島さん 「じゃあ、そういう社会が嫌で政治家になったのかと言うと、違うんですよ。この経験とか行動原理が政治家になっても生かされていると言うんですね。『え?』と思いながら私はそのインタビュー記事を読んだんですが、彼はこういうふうに言っているんですね。
『たとえそれが理不尽な要求であろうと、あの上下関係の中で耐え抜いて来たというか、あの上下関係を学んで来たということは、私は政治の世界にまだ半年ちょっとですけど、体育会系で生きていなかったら、いろんな悩み、また理不尽な感じに対して、もっとストレスを感じていたことが多かっただろうと思います』と。体育会系の上下関係が自分を鍛えてくれて良かったと言ってるんですね」
小島慶子さん 「いわゆるそうしたシゴキだとか、先輩が絶対だという風土は、軍隊からの流れがあるものだと言われてますよね」
中島さん 「そうですね。ですから彼は上の議員から言われたこと、お世話になっている人から言われたことは、ちょっと違うなと思っても『はい』、これが自分の行動原理だと言っているんですね。もしもこういう人が総理大臣になって人の上に立った場合、一体どうなるのかな?と考えてしまいます」
小島さん 「下に対してそれを求めたりね」
中島さん 「そうですね。そしてさらに、自分を支えてくれる人の言いなりにもなる、ということですよね。それからもう1つは、彼は大学を出たあとにアメリカに行って、コロンビア大学の大学院に行って、ここでジェラルド・カーティスさんという日本政治の専門家の方につくんですけど…」
小島さん 「日本のメディアにも良く出られてた方ですよね」
中島さん 「はい、日本でもお馴染みの方です。進次郎さんは3年間留学したんですけど、3年目にCSISという組織、戦略国際問題研究所というんですけど、ワシントンにあって、アメリカの陸海軍の直系のシンクタンクなんですね。ここにジャパンハンドラーと呼ばれる日米関係を動かしている人たち、たとえばアーミテージやマイケル・グリーンなど、日本との外交を牛耳っている、その大元になってる人たちがいるところなんですね。進次郎さんはここに1年間入るんですよ。
そして徹底的にジャパンハンドラー、アメリカで日本を動かしている人たちのもとで、いろいろと修行するんです。ですから、その後の彼の政治的スタンスというのは、完全に親米なんです。アメリカの言いなり。ここは石破茂さんとかなり違う点ですよね」
小島さん 「コロンビア大学のジェラルド・カーティスさんという人も、自民党の重鎮と呼ばれる人たちと、かなり深い親交があった人ですよね」
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小泉純一郎や菅義偉と非常によく似た主張
中島さん 「そうですね、まあ、そういう人脈もあって進次郎さんはコロンビア大学へ行ったのかもしれませんが、それが彼の土台でした。で、彼が最初に当選したのは2009年、民主党政権になり、自民党にものすごい逆風が吹いていた、そういう選挙で、確か自民党の初当選は4人しかいなかったんですが、彼はそのうちの1人なんです。最初の彼の政治家としてのスタートは野党だったんです。
そのため、民主党に対して『俺は違うぞ』ということを強調する姿勢が土台にあって、だから民主党政権がセイフティーネットを分厚くしましょうと、再配分を分厚くして社会的にみんなを大切にして行くという政策を進めた時に、『それは違う!自助こそが大切だ!』と明言したんです。自己努力、自己責任というものがとにかく重要なんだと、まずは自助なんだと、それでダメだったら民間と一緒に共助をやると、それでも無理な最終的な手段が公助であると、だから民主党は甘いと、こういうふうに彼は言っているんです」
中島さん 「この考え方はお父さんと非常に良く似ているし、彼のバックにいると見られている菅義偉さんとも非常に良く似てますね。菅さんもはっきりと公助よりも自助や共助なんだと言っていた人ですからね」
小島さん 「確か菅さんて総理大臣になった時に、家族のことを聞かれて『自分には息子が2人いるが運動部で鍛えてもらって良かった』と発言したのを覚えてます。その辺りの価値観が良く似てますね」
中島さん 「似てますね。同じ神奈川県選出ということで、この2人は非常に強い繋がりを持ってますが、進次郎さんは『とにかく日本は死に物狂いで頑張らなければいけない』と、『ほどほどの努力ではほどほどの幸せも掴めない』と、当時言ってるんです。『とにかくがむしゃらに頑張らなくてはいけないんだ』と。何かこれは、ここまで自分が努力して来て掴んだ地位みたいなものに対する自負心みたいなものが現われた言葉だと思います」
小島さん 「でも進次郎さんて『That’s 二世』じゃないですか?二世どころか三世ですよね?」
中島さん 「なのでそれを他の人にも投影するというところが、政治家としてのスタンスにあるんですね。彼が政治の中心的なところに入って来たのが2015年ぐらいからなんですけど、初めは自民党の農林部会の会長になったんです。当時、安倍内閣はTPPの問題を抱えていて、このTPPと農業はバッティングするわけですが、そこで安倍さんは進次郎さんを日本の農家向けの顔として立てたんです。
進次郎さんは一貫してTPP賛成でしたが、これはやはりアメリカのジャパンハンドラーとの繋がりもありますし、新自由主義的な自由貿易の方向へググッと傾斜したんです。進次郎さんは『日本の農家は甘えている』と、『競争原理こそがとにかく重要なんだ』と、『強い農業を目指せ』と、農業の構造改革を唱えたんですね。『とにかく儲かる農業をやらなくてはいけない』と、『アグリカルチャーではなくアグリビジネスだ』と」
中島さん 「企業がどんどん農業に参入して、日本の農業を大きく変えて行かないといけない。進次郎さんは『攻めの農業』を提案したんですけど、これはほとんど成果をあげられなかった。さらにその後、社会保障の問題に手をつけて行って、彼は『子ども保険』を導入するべきだと。彼は若い世代の代表のように見られていたので『子育て世代は支援しなきゃいけない』と言ったんですけど『そのためには増税が必要だ』と。さらに『年配の人たちに負担を求めましょう』と言ったんですね。
『負担は現役世代』というそれまでの考え方を変えて、もっと年上でも働ける人はどんどん負担してくださいと、財政再建が必要なのでそれは増税で補う、これが彼の考えなので、財務省にとってはすごく嬉しい話ですね。税金を上げましょうと言ってくれるのですから」
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アンケートで石破茂を選んだ人が知らない過去の物騒な発言
中島さん 「一方、価値観の問題については、ちょっと良く分からないんですね。歴史認識の問題とか、選択的夫婦別姓をどう考えるのかとか、こうした問題に関してはあまり積極的ではなくて、ここもお父さんと良く似てるところです。ですから、お父さんの純一郎さんと政治家のタイプとしては良く似てますし、彼がすごくお世話になっている菅義偉さんとも、非常に良く似ている。
だから、彼がもしも総理大臣になったりした場合には、そのバックに菅さんがいるわけですけど、進次郎さんは上下関係が大切だと言ってますから、菅さんから注入されると言うか、菅さんに小泉進次郎という着ぐるみを着せたような内閣になってしまうんじゃないかなと思ってます」
…というわけで、今回、中島岳志さんが伝えてくださった小泉進次郎の過去の発言の数々は、多くの国民が知らなかったことじゃないでしょうか。少なくとも街角アンケートで「爽やかなイメージだから」などと言っていたおばさんを始め、小泉進次郎を選んだ人たちはまったく知らなかったと思います。そして、街角アンケートで石破茂を選んだ人たちは、以下の石破茂の過去の発言など、まったく知らないのでしょう。
石破茂 「アメリカの若者は世界の戦地で血を流しているのに、日本の若者は血を流さなくて良いのか?」
石破茂 「日本は絶対に脱原発してはいけない。原発があれば『いつでも核兵器を開発できる』という意味で敵対国への抑止力になるからだ」
石破茂 「秘密保護法に反対するデモはテロと同じだ」
はぁ~、街角アンケートの1位と2位がこのアリサマですから、日本は引き続きお先真っ暗ですね…。
(『きっこのメルマガ』2024年9月4日号より一部抜粋・文中敬称略)
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