MAG2 NEWS MENU

© Les Cunliffe - Fotolia.com

【日朝関係】中国の脅威を抑える有効な手段となりうる北朝鮮との国交正常化

変わらない日本政府の北朝鮮政策

『辺真一のマル秘レポート』 Vol.34より一部抜粋

日本国内における北朝鮮のイメージは最低、最悪である。罪のない人を拉致し、ミサイルを日本に向けてぶっ放し、核実験を強行し、さらに不審船を送り込み、偽札や覚せい剤を持ち込む、北朝鮮はブッシュ前大統領が言うように日本人にとってはまさに「ならず者国家」「無法国家」に映っているからだ。従って、世論調査をしても、国民の間に北朝鮮との早期国交正常化への待望論がない。

それでも、日本政府の対北朝鮮政策は、自民党政権から民主党政権になって、また自民党政権に戻っても、首相がハト派であっても、タカ派であっても、誰であっても「核とミサイルと拉致を包括的に解決し、過去を清算し、国交を正常化する」のが基本原則、基本方針となっている。

なぜか?この回答は、2002年9月17日、米国に先駆けて電撃訪朝した小泉純一郎総理(当時)の平壌での次の一言に凝縮される。「私は、北朝鮮のような近い国との間で懸念を払拭し、互いに脅威を与えない、協調的な関係を構築することが、日本の国益に資するものであり、政府の責務として考えている」

小泉元総理はまた「日朝関係正常化に向けて大きく踏み出すということ、政治家として平和づくり安定の基盤づくりに努力するということは政治家にとって大変やりがいのある仕事である」とも語っていた。小泉・金正日が調印した「日朝平壌宣言」はまさに、この小泉発言がベースとなっている。

両首脳が交わした日朝平壌宣言には「双方は、北東アジア地域の安定と平和を維持、強化するため、互いに協力していく」ことが確認されていた。しかし、不幸にも、今日までこの「平壌宣言は」は生かされておらず、今や死文化しつつある。

それでも、小泉政権以降の歴代政権も、また金正日政権を継承した金正恩政権も「平壌宣言」を日朝正常化に向けての指針にしている。現に昨年5月30日にストックホルムで交わされた日朝合意文によると、双方は「日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために、真摯に協議を行った」(日朝合意文)とされている。日本政府はこの合意文で北朝鮮側と共に、日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する意思を改めて明らかにしている。

中国に隷属していない北朝鮮

振り返れば、拉致問題で不誠実な対応を取りつづけていた北朝鮮に、日本が制裁を科して以来、北朝鮮の中国依存が年を追うごとに深まっている。今や中国は北朝鮮にとって経済的スポンサー、パトロンであると言っても過言ではない。しかし、経済的に支配されても、外交、軍事面では中国に隷属されてない。現に北朝鮮に中国の軍事基地もなければ、中国人民解放軍も駐屯していない。中国の核の傘の下にも入ってない。

北朝鮮は1953年の朝鮮戦争休戦後は半世紀以上にわたって安全保障を中国に依存してこなかった。日本や韓国のように安保を米国に任せて経済一本でやっていれば、最貧国に転落しなかったはずだ。

北朝鮮が中国やロシアに自らの安全保障を委ねなかったのは、国境を接している大国に軍事面で急所を握られれば、政治的にも従属、隷属されるとの危惧からだ。これは歴史から学んだ教訓である。

北朝鮮が2009年4月に人工衛星と称してテポドンを発射した際に中国は北朝鮮非難決議に同調した。北朝鮮はこの時「6か国協議は我々の平和的科学技術(人工衛星)開発まで妨害し、正常な経済発展までも抑制しようとする場に転落した」と非難し、「結局、我々を武装解除させ、なにもできないようにさせたうえで自分らが投げ与えるパンくずで延命させようとするのが他の参加国らの下心である」と「他の参加国」との表現を用い、6か国協議の議長国である中国に不満をぶつけた。

また、外務省声明では中国を「米国にへつらう追随勢力」との烙印まで押した。 当時の労働新聞(7月9日付)には「大国はやっても小国はやってはならないとの大国的見解も、小国は大国に無条件服従しなければならないとの支配的論理も認めないし、受け入れないのが我が人民だ」と述べ、必死に宥めようとする中国に反抗した。

故金正日総書記の対中感は複雑なものがあった。厳密に言えば、彼は親中派ではなかった。その証拠に金正日氏は父・金日成主席が1994年7月に死去し、権力を継承しても2000年5月まで6年間も訪中しなかった。

ウィキリークスが暴露した米外交文書によれば、2009年8月に訪朝した現代グループの女性オーナである玄貞恩氏に金総書記は「中国は信用が置けない」と洩らしていた。この女性オーナーからこのことを聞いた米国のスチーブンソン大使(当時)が本国に打電していたことで明らかになった。

唯一、北朝鮮を評価できるのは中国に基地を貸していないこと

金正日氏が対中不信を口外したのは一度や二度ではない。その前にも訪朝した米国系同胞に対して「中国は肝心な時に裏切る」と不満を吐露していた。

日本が北朝鮮を唯一評価できるものがあるとすれば、それは中国に基地を貸さないこと、日本海に面した港を軍港として使用させてないことだろう。

中国の東方は、地理的にロシアと北朝鮮に完全にブロックされている。従って、中国は日本海から日本を軍事的に牽制できない。

金正日総書記が急死する4か月前の2011年8月4日、中国海軍訓練艦隊所属の練習艦「鄭和」とミサイル護衛艦「洛陽」から構成される中国海軍の訓練艦隊が東海岸の元山に入港したことがあった。

中国の訓練艦隊の北朝鮮訪問は「中朝友好相互援助条約」締結50周年記念行事の一環であったが、北朝鮮への中国艦隊の寄港は実に15年ぶりのことであった。金英春人民武力部部長を表敬訪問し、また北朝鮮側からは鄭明道北朝鮮海軍司令官や朴載京人民武力部副部長らが中国訓練艦隊を訪れ、交流を深めた。

大連軍港を出港する前に艦隊の指揮官である田中(でんちゅん)北海艦隊司令官は「中朝の軍事関係を一層強化するための重要な外交行動である」とし、元山港に寄港したその日の歓迎宴では「あらゆる試練と風波を乗り越えた中朝親善はなにをもってしても壊すことのできない共同の価値である」としたうえで「両海軍の親善関係を発展させ、東北アジアの平和と安定に寄与する」と語っていた。

日本海に出口のない中国が日本海に面した羅先、清津、元山の港湾を軍港、潜水艦基地として使うような事態になれば、中国との間で尖閣諸島の問題を抱える日本の安全保障にとって由々しきことだ。方角的に日本のどてっぱらに位置するからだ。日本海を共有している北朝鮮を中国に追いやることは、日本にとって安全保障上の見地から決して好ましいことではない。

北朝鮮の核とミサイル問題も含め軍事面で意思疎通のできる場が日朝間には必要だ。その意味では、小泉訪朝時に「北東アジア地域の安定と平和を維持、強化するため」に合意した日朝安全保障協議が拉致問題の煽りを受けてまともに開催されなかったのは惜しまれる。

 

『辺真一のマル秘レポート』 Vol.34より一部抜粋

著者/辺真一
1947年東京生まれ、明治学院大学英文科卒業後、新聞記者(10年)を経て、フリージャーナリストへ。朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊、現編集長。
≪無料サンプルはこちら≫

「まぐまぐニュース!」デリバリー版
まぐまぐ!の2万誌のメルマガ記事から厳選した情報を毎日お届け!!マスメディアには載らない裏情報から、とってもニッチな専門情報まで、まぐまぐ!でしか読めない最新情報が無料で手に入ります!規約に同意してご登録ください!

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け