Jリーグで優勝を争うFC町田ゼルビアが、選手や監督、スタッフがSNSで誹謗中傷されたとして、悪質な投稿者を名誉毀損で刑事告訴した。常日頃からラフプレーやマナー違反が問題視されている同チームだが、民事をすっ飛ばし、いきなり刑事告訴という“ラフプレー”にも疑問の声が相次いでいる。
一般人を名誉毀損で刑事告訴。FC町田ゼルビアが嫌われる理由
「都合のいいときだけ被害者面か」「示談金ビジネスでも始めるつもり?」「町田市民として本当に恥ずかしい」――サッカーJリーグのFC町田ゼルビアに対する“悪評”が日増しに高まっている。
東京都町田市をホームとするゼルビアは2023年にJ1初昇格。今年はリーグ戦中盤まで首位を独走し現在は3位。J1初挑戦にして優勝をうかがう好調ぶりを見せてきた。
その一方、ゼルビアにはサッカーファンからの批判も集中した。ラフプレーや反スポーツ的行為を繰り返したのが主な原因だ。昇格からわずか1年たらずで“Jの嫌われ者”という評価が世間に定着した。
その悪評にトドメを刺すのが、一般人に対する「刑事告訴」だ。ゼルビアは15日、選手や監督、スタッフ、チーム自体がSNSで誹謗中傷を受けたとして、悪質な投稿者を名誉毀損などの疑いで刑事告訴したと発表。民事をすっ飛ばし、いきなり刑事告訴という“ラフプレー”にネットでは疑問の声が相次いでいる。
「町田ゼルビアといえば、今や多くの人々が眉をひそめる悪役チームです。それでもJ1昇格前は、『ヒール役がいたほうが盛り上がる』『“汚いサッカー”に温室育ちの国内選手が慣れる機会になる』といった見方も一応あったんですよ。それがここまで完ぺきに嫌われてしまったのは、自分たちの悪質なプレーや行為を棚に上げて、相手チームから仕返しされた際に文句を言う卑怯なスタイルが広く一般層に知られたのが原因です。当然、ゼルビアに対しては批判やヤジが飛ぶわけですが、今度はそれを『刑事告訴』で黙らせようというのですから、人々が唖然とするのも無理はありません」(スポーツライター)
FC町田ゼルビア「勝利にこだわるサッカー」の呆れた中身
では、「勝利にこだわるサッカー」を掲げるゼルビアはこれまで、具体的にどんな悪質なプレーや行為をしてきたのだろうか?ここ最近の騒動をまとめると、以下のようになる。
2023年4月16日、J2大分トリニータを3-1で下した試合。ゼルビアのFWエリキ選手が、相手DFとヘディングで競り合う際、ボールに向かってジャンプせず、相手選手の空中でのバランスを崩す危険行為を繰り返してSNSで炎上。一歩間違えば、相手選手は頭を地面に打ち付けて大ケガをする恐れがあった。
2023年7月9日、J2東京ベルディとの因縁対決。73分まで2-0でリードしていたゼルビアは次々に選手がピッチに倒れ込み、痛がるふりをする悪質な時間稼ぎに出た。試合は結局2-2の引き分け。黒田監督はのちのインタビューで「時間稼ぎは、実際にはどこのチームもやっていること」とうそぶいた。
2023年9月9日、J2栃木SCとの一戦。0-1でリードされ迎えた後半44分、ゼルビアのFW荒木駿太選手が、足をつらせて倒れ込んでいる相手選手の脇を抱えてサイドラインの外に出そうと放り投げ、非紳士的行為でイエローカード。演技ではなく本当に足がつっていた可能性が高い。それでも敵チームの時間稼ぎを許せないゼルビア側は主審に抗議したが、SNSでは「負傷者を突き飛ばすなんてレッドカードもの」「お前がそれを言うのか」など大炎上した。
2024年2月24日、1-1で引き分けたガンバ大阪とのJ1開幕戦。早速のラフプレーで退場者を出し数的不利に陥ったゼルビアは、GKの谷晃生選手が「ボールをキャッチするたびにピッチに倒れ込む」「ゴールポストにハグをする」など遅延行為を連発してイエローカード。同選手はその後、この遅延行為について「ガンバの選手には謝りました」「僕もやるしかなくて」と、まるで闇バイトに応募した若者のような釈明をして「いったい誰の指示を受けたのか」と物議を醸した。
2024年6月12日、天皇杯2回戦で筑波大学と対戦。当時J1首位だったゼルビアが、筑波大に1-1(PK 2-4)で敗北し「ジャイアントキリング」と話題に。ゼルビアはこの試合で4人のケガ人を出した。黒田監督は筑波大側に、ボールではなく足を直接狙う悪質なタックルがあったとラフプレーを猛批判。「筑波はマナーが悪い」「ため口で大人への配慮がない」「われわれが正義」など不満をぶちまけたが、SNSでは「町田が普段からやっていること」「町田もけっこう激しく行ってたし返り討ちに遭っただけ」など嘲笑が相次いだ。
2024年6月19日のJ1第15節、東京ヴェルディを5-0で下した一戦。2-0でリードして迎えた後半15分、PKを得たゼルビアのキッカー藤尾翔太選手が、突然ボールに水をかける奇行を披露。キーパーにセーブされにくくする効果を期待したと思われるが、サッカーファンからは「反スポーツ行為」「子どもの教育にも悪い」など批判が続出。これ以降、ゼルビアの“水ぶっかけ”を警戒し、試合中に阻止に出る相手チームが続出する事態となった。
2024年9月28日のJ1第32節、サンフレッチェ広島との首位攻防戦。ゼルビアはロングスローからの得点が多く、スローイングの前にボールをタオルで拭き拭きする――と見せかけてやっぱりボールを投げ込む、の2択攻撃を得意としている。ところが、この戦術の肝であるタオルを水で濡らされたことから、黒田監督が「反スポーツ的行為に値する」と激怒。もちろんSNSでは「自チームの行為を棚に上げて、いったい何を言っているんだこの人は…」という反応が支配的。ゼルビアに同情する人はかなりの少数派となっている。
自チームの「イジメ被害」を主張しはじめたFC町田ゼルビア
FC町田ゼルビアは2018年に国内IT大手のサイバーエージェントが経営権を取得し、現在は同社代表の藤田晋氏が代表取締役社長兼CEOを務める。藤田氏は今回の刑事告訴について、次のコメントを発表した(太字は編集部)。
だが、このコメントにも多くの人が首をかしげている。
この度、加藤博太郎弁護士のご協力の元、弊クラブに所属する選手、監督、スタッフおよび弊クラブに向けて誹謗中傷した者を対象に、刑事告訴をすることとなりました。
昨年来、クラブの好調な成績と比例するように、無数の誹謗中傷を浴びており、それはもう酷いものでしたが、これまでは新参者への洗礼かと目を瞑ってきました。
しかしながら、もう限界です。既に多大な実害、実損が出ており、これ以上はもう看過しないことを決意しました。
「FC町田ゼルビアなら叩いてもいい」、あるいは「FC町田ゼルビア側に叩かれる問題がある」と思い込んでいる人たちの行動は、完全に度が過ぎており、これはイジメの構図と同じです。
この状況を変えるには、対象者がインパクトのある処罰を受けることで、コトの重大さを理解してもらうしかないと思っています。今後、継続的に、かつ徹底的に、我々は断固たる姿勢で誹謗中傷に対処して参ります。
本件をきっかけに、弊クラブの選手・監督・スタッフが、1日でも早く、サッカーに集中できる状態に回復することを願います。
「ABEMAのW杯全試合無料放送では“神”とまで崇められた藤田社長が、今回はどうしてしまったんでしょうね。この声明に、サッカーファンからは『藤田さんは騙されてますよ』『ゼルビアは悪役の風上にも置けない』『そんなことをしても愛されるクラブにはならない』『じゃあもうJリーグなんて見ないよ』といった失望の声が聞こえてきます。ゼルビアは“好調な成績”ではなく、選手たちの卑怯な行為や黒田監督の挑発的な発言で嫌われたのですから当然です。誹謗中傷と“多大な実害、実損”の因果関係も不明瞭ですし、ここでイジメ問題を引き合いに出すのも違和感があります。というのもゼルビア側こそ、さんざん弱いモノイジメをしてきた悪ガキが、ちょっと仕返しされだけで先生に言いつける、みたいな“被害者ムーブ”をしているわけですから…」(スポーツライター)
想定外の悪評に戸惑う「サッカーに興味がない」町田市民の声
FC町田ゼルビアは、クラブ理念として次のビジョンを掲げている。
- 町田市民が誇れるクラブであること
- 地域の発展に貢献できるクラブであること
- 次代を担う子どもたちの健全な育成と夢の創造に貢献するクラブであること
だが、そんな思いとは裏腹に、町田市民から見た現在のゼルビアは必ずしも「誇れるサッカークラブ」とは言えないようだ。
昨年、東京都町田市内に中古マンションを購入し、40代の夫、幼稚園児の長男と暮らす30代の女性A子さんは、ここ最近のゼルビアの悪評に戸惑っているという。
「都内と比べればずいぶん安く買えて、夫の職場がある新宿まで通勤しやすい、というのが町田にマンションを購入した理由でした。そんな中で私が覚えているのは、不動産業者の方の『町田はこれからサッカーでも盛り上がりますし、すごく良いエリアだと思いますよ!」というセールストークです。夫婦ともにサッカーはたいして興味がなく、たまに日本代表戦をテレビで見るくらい。だから、J1クラブが生まれると言われてもピンとこなかったのですが、まさか、ここまでの悪評が立つとは想像もしていませんでした。今年に入って、友人・知人から『町田住みだったよね。例のゼルビアってどうなの?』みたいな質問をされることが増えて、正直困惑しているんです。SNSをチェックするとものすごく叩かれていますし、叩かれても仕方がないことをいろいろやっているようですし…。それに、ウチは子どもが男の子なので、将来サッカースクールに通いたい、なんて言われたらどうしようかと。ゼルビア傘下のスクールはなんとなく教育に悪そうじゃないですか」(A子さん)
ゼルビアの熱狂的なサポーターは、何があってもクラブを擁護してくれるのかもしれない。だが、それよりもずっと数が多い一般市民の気持ちまで考慮しなければならないのが「おらが町のサッカーチーム」というものだ。
殺害予告など、度を過ぎたネット書き込みはどんどん取り締まればいい。だが今回、ゼルビア関係者が受けた“誹謗中傷”は、「犯罪者みたいな顔」「存在が粗大ごみ」「知能がない」といった内容だという。
たしかにギョッとする強い言葉だが、多くの人々の偽らざる気持ちを代弁したものとも言えるだろう。「刑事告訴」で論点をずらす前に、まずは自らを省みなければ、ゼルビアが失った信頼を回復するのは難しいのではないか。