藤田菜七子元騎手を引退に追い込んだJRAの「やってる感」と自己保身。調整ルーム“スマホ不正事件”の危険な本質とは?

2024.10.15
by 東山ドレミ
20241015fujitananako_eye
 

藤田菜七子元騎手が、スマホの不正使用で突然の引退に追い込まれた。だが、「公正競馬のために厳格な規則を設けるJRAと、その規則を平気で破る若手不良騎手」という報道の構図は本当に正しいのだろうか?

「藤田さんを悪者にするのは明らかに間違っている」

JRAの藤田菜七子元騎手(27=美浦・根本厩舎)が、外部との接触や通信機器使用を禁じられた「調整ルーム」内にスマホを持ち込み、LINEで厩舎関係者らと連絡を取っていたとされる問題。

前日の文春砲を受けてJRAは10日に騎乗停止処分としたが、その直後に藤田元騎手みずから引退を表明。11日には騎手免許が取り消され、8年半にわたる騎手生活が突然の終わりを迎えたのは周知のとおりだ。

世間では、あまりの“スピード引退”を惜しむ声があがる一方で、不正防止が重要な公営ギャンブルの性質上、JRAの規則を破った騎手への“厳正な処分”はやむを得ないとの見方が支配的。藤田元騎手が昨年5月、スマホを持ち込んでJRAから厳重注意を受けたさい、「他者と通信はしていない」と虚偽の説明をしていたことも影響しているようだ。

だが、競馬紙記者を経て現在は競馬プラットフォーム運営に携わる関係者はいう。

藤田さんを悪者に仕立て上げるのは明らかに間違っていると思います。今回の引退は本当にショックです。彼女はJRAの自己保身の犠牲になったようなものですから。競馬サークルの人々の多くはそれをよく分かっているはず。大きな声で言えないのは、JRAを真っ向から批判するのは憚られるし、公正競馬の建前があるからにすぎません」

JRAの「自己保身」とは、具体的にはどういうことか?

「多くの競馬ファンは、調整ルームというものを都市伝説的に誤解しています。あたかも面会謝絶の監禁状態のようなイメージがあるかもしれませんが、実際の運用は想像以上にゆるかった。その状況を黙認してきたのは他ならぬJRAであるにもかかわらず『藤田騎手の“非行”を処分しました』なんてチャンチャラおかしい責任逃れということです。たとえば、夕食を電話注文してそれをテイクアウトしに外出、なんてことはザラですし、土日で競馬場間を移動する騎手はその間に通信しようと思えばできてしまいます。コロナ禍には、自宅やホテルを調整ルームとみなす『認定調整ルーム』という制度すらありました。いったい誰が家の中の通信をチェックしたんですか?JRAは、理屈の上ではやりたい放題の状況をずっと放置してきたんですよ」

JRAが黙認していた規則破り。他の騎手に問題が波及する恐れも

若い世代の騎手ほど、JRAの規則や調整ルームの制度が「やってる感」だけのバカバカしいものに感じられたかもしれない。あるいはJRAの側にも、よく言えば騎手たちへの思いやり、悪く言えば気の緩みがあったのだろうか。

だが、いざ文春砲を被弾したJRAは、組織としての責任を取らず、藤田元騎手個人に責任を押しつける形を取ってしまった。

「文春に藤田さんを“売った”1人はS厩舎のTです。藤田さんはこの夏にJRA職員の方と結婚したばかりですが、以前はこのTと交際していた。付き合っていた当時のLINEのやりとりをバラすなんて人として終わっているのは言うまでもありませんが、今後このような“告発”が他の騎手に波及していく可能性は十分にある。本当の問題はこの点にあるんです」

print
いま読まれてます

  • 藤田菜七子元騎手を引退に追い込んだJRAの「やってる感」と自己保身。調整ルーム“スマホ不正事件”の危険な本質とは?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け