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SNSで個人の狂気が集団へ広がる“トランプ現象”とも酷似か。『ジョーカー2』が描く「フォリアドゥ」とは

公開前から大きな注目を集め、現在日本でも上映中の映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。レディ・ガガの怪演も話題となっていますが、タイトルにも盛り込まれている「フォリ・ア・ドゥ」一体どのような状態を指すのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、日本では「感応精神病」と呼ばれるフォリ・ア・ドゥについて詳しく解説。さらにこの「症状」と陰謀論拡散との関係を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で注目? 「二人狂い」・感応精神病(フォリアドゥ)とは SNS時代のフォリアドゥ 陰謀論を拡散 ドナルド・トランプ現象とも類似

映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で注目、フォリアドゥとは。ドナルド・トランプ現象とも類似

フォリアドゥはフランス語で「二人狂い」を意味し、精神疾患を持つ者の妄想が親密な関係にある健常者に伝染する状態を指す。特に恋人や家族など、感情的に強く結びついた人々の間で発生しやすく、孤立した環境で暮らすカップルや家族に多い(*1)。

映画では、主人公アーサー(ジョーカー)とハーリーン・クインゼル(ハーレイ・クイン)の関係性がフォリアドゥを連想させる(*2)。劇中で、アーサーの狂気がハーリーンに影響を与え、彼女が徐々に変貌する様子が描かれている。また、アーサーの歪んだ世界観がハーリーンにも共有され、二人が社会から孤立していく過程が示されている(*3)。

この映画は、精神医学的な概念を巧みに取り入れ、登場人物の心理と関係性の変化を通じて、観客に深い洞察を提供する。

さらに、フォリアドゥのように妄想が共有される現象は、SNS時代に広がる陰謀論にも通じる。SNSの発達により、感応精神病と陰謀論との関係は現代社会に重大な影響を及ぼす可能性が。

感応精神病とは?

感応精神病の最初の症例は19世紀にシャルル・ラゼーグとジャン=ピエール・ファルレという二人のフランスの精神科医によって報告。

また2008年、スウェーデン出身の双子姉妹ウルスラとサビーナ・エリクソンが、イギリスでフォリアドゥ(感応精神病)の顕著な例として知られる事件を起こした。

彼女たちはイギリスを訪れた際、高速道路で姉ウルスラが突然大型トラックの前に飛び出して重傷を負い、その直後に妹サビーナも同様に車の前に飛び出しした。サビーナは一時的に気を失ったが、軽傷で済んだ。この事件でウルスラが「primary(発端者)」とされ、サビーナが「secondary(影響を受けた側)」と診断される。

釈放後、サビーナはグレン・ホリンズヘッドと出会い、彼の自宅に一夜を過ごした翌日、彼を刺殺。事件当時、サビーナは明らかに異常な言動を示していたが、精神鑑定を受けることなく釈放。この事件は英BBCのドキュメンタリー『Madness in the Fast Lane』で詳しく取り上げられている。

精神疾患において、個人の強い信念が妄想であるかどうかを判断するのは困難なことがある。そして特に多くの人が共有する誤った信念は、その広がりによって「合理的」と見なされる場合がある。これが陰謀論の拡散など、社会的な現象にもつながる可能性が。

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様々な映画の題材にも

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』だけでなく、サスペンスやホラー映画、ドラマでは「フォリアドゥ(感応精神病)」というテーマが、しばしば現実と幻覚、妄想が交錯する展開に用いられる。

例えば、1997年の今敏監督のアニメ映画『パーフェクトブルー』では、アイドルから女優へと転身を図る主人公が現実と虚構の境界を見失う過程で、フォリアドゥ的な要素が強調されている。この作品では、観客が主人公とともに混乱を体験する構造が取られている。

また、2006年のアメリカ映画『BUG/バグ』では、孤独な女性アグネスが「虫が見える」と主張するピーターとともに現実と妄想の境目を共有し、精神的に追い詰められていく。この映画でもフォリアドゥのテーマが強調され、登場人物たちの精神状態が観客に不安感を与える。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、このフォリアドゥを掘り下げることで、観客に精神疾患や社会からの疎外感について考えさせる狙いがあるかもしれない。映画は、ジョーカーのカオス的な影響が他者にどのように広がるかを探求し、これを単なる個人的な狂気ではなく、社会全体が抱える問題として描く。

SNS時代のフォリアドゥ 陰謀論を拡散 ドナルド・トランプ現象とも類似

現代社会において、感応精神病(フォリアドゥ)はSNSによって拡大する可能性がなくはない。フォリアドゥは、特定の精神状態や妄想を二人以上が共有する現象であるが、SNSでは、カリスマ的なリーダーやインフルエンサーがフォロワーに強い影響力を持ち、その結果、同じ誤った情報や妄想を共有するフォリアドゥ的な状況が生まれることがある。

特に陰謀論は、複雑な出来事を単純に説明し、不確実性からくる不安を軽減する手段として利用される。SNSはこうした陰謀論の拡散を助長し、カリスマ的な人物がそれらを広めることで、多くの人々が同じ信念を共有しやすくなる。このようにして、SNSは感応精神病的な環境を形成し、誤った情報の広がりを加速させる(*4)。

そしてアメリカのドナルド・トランプ氏の支持者がSNSを通じて集まり、彼の主張や陰謀論に共鳴した現象は、フォリアドゥ的現象でもある。トランプ氏はカリスマ的なリーダーとして、強力なメッセージを発信し、多くの支持者に影響を与えた。これにより、SNS上で共有される誤った情報が拡散し、社会的混乱や誤解が生じた。

これは映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で描かれるような、カオス的な影響力と類似しており、個人の狂気が集団へ広がる一例と言える。

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引用・参考文献

(*1)「妄想が伝染する『フォリアドゥ『とは? 精神科医が『社会で孤立しがちな人』へ警鐘鳴らす」メーテレ 2024年10月12日

(*2)メーテレ 2024年10月12日

(*3)「『もう俺1人じゃない』 映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』美しい狂気にジョーカーとハーリーンが踊る特報映像公開」otocoto 2024年4月10日

(*4)ジェイムズ・ティリー「【寄稿】 陰謀論──なぜこれほど大勢が信じるのか」BBC NEWS JAPAN 2019年2月18日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年10月26日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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