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トランプよりまだハリスがマシ。あの英誌『エコノミスト』が「許されるならハリスに投票したい」と書いた理由

日本時間の5日夜から投票が始まり、翌日夜には大勢が判明する見通しのアメリカ大統領選。ワシントン周辺では暴動に備える動きも出るなど、騒然とした雰囲気に包まれているとも伝わります。このような状況にあって、「2度目のトランプ政権は大惨事を呼びかねない」とするのはジャーナリストの高野孟さん。高野さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、そう判断せざるを得ない理由を綴るとともに、アメリカが陥っている「冷戦後の世界への不適応症」について詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:英誌「エコノミスト」はもし投票権が与えらればハリスに投票すると宣言/私もそれには賛成だ!

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「もし一票を与えられたらハリスに投票する」。英誌『エコノミスト』が宣言したもっともな理屈

英誌「エコノミスト」はもし投票権が与えらればハリスに投票すると宣言/私もそれには賛成だ!

英国の有力週刊誌『エコノミスト』は10月31日付の論説で、「トランプの再選は受け容れがたいリスクをもたらす/もし本誌が一票を与えられたら我々はカマラ・ハリスに投票する」と宣言した。私も同意見で、もし私に投票権があれば、ハリスに投票する。理由は簡単で「worse(なお悪い)」は「worst(最悪)」よりは「better(なお良い)」からである。

「大惨事」を呼びかねない2度目のトランプ政権

『エコノミスト』誌の10月31日付論説は言う。トランプに投票するのは、

  1. カマラ・ハリスはマルクス主義者で国を破壊しようとしていると本気で心配している人たち
  2. トランプが勝てば米国は偉大になると信じている人たち
  3. トランプにリスクがあることを承知しつつも、「まあ周りも抑えるだろうし大丈夫だろう」と冷静な選択をしたつもりでいる人たち――

の3種類がいるだろうが、(1)と(2)は仕方がないとして、『エコノミスト』の読者の多くも含まれるであろう(3)の人たちはよくよく考えて貰いたい。

確かに1度目のトランプ政権は、事前に言われたほどの最悪事態を招くことはなく、経済は順調だったし、新しい戦争に巻き込まれることもなかった。だから心配のし過ぎだと言われるかもしれないが、8年前に比べるとトランプの政策はさらに極端になり、世界は危険に満ちているし、何よりも彼の最悪の衝動的言動を抑え込んだ思慮深く責任感のある人たちの多くは彼の元を去り、狂信者やおべっか使い、一発当てようと思っているような連中ばかりに囲まれるようになった。

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トランプを「ファシスト」と断定したかつての首席補佐官と統合参謀本部議長

今回のトランプは「すべての輸入品に20%の関税をかける」「メキシコからの自動車輸入には200%ないし500%の関税を課す」と語っていて、まるで関税と税優遇を用いて友を助け敵を罰した19世紀に戻ろうとするかのようだ。今そんなことをすれば米国の繁栄の基礎が壊滅させられる。

1度目の時はウクライナ戦争もガザ戦争も起きていなかったが、2度目ではその2つの戦争にどう対処するかが迫られる。トランプは、自分が大統領になれば「1日でウクライナの戦争を終わらせる」と言う反面、ガザの戦争に関してはイスラエルの攻撃を際限もなく支持するつもりのようで、よく分からない。何より心配なのは、彼の同盟国に対して罵倒したり恫喝したりする軽蔑的な態度で、それがNATOを破壊しかねない。

こうした危険を抑え込むには、共和党や閣僚、ホワイトハウスのスタッフなど周辺の役割が重要だが、一度目で閣僚を経験した人たちの半分は彼を支持しないと言い、また共和党の最長老の上院議員は彼を「卑劣漢」と呼び、さらにかつての首席補佐官と統合参謀本部議長は2人とも彼を「ファシスト」と断定している。

もちろん、対するハリスがなんぼのものかという問題はあるけれども、少なくともトランプのように米国にとっても世界にとっても到底受け入れ難いほどの大惨事を引き起こすことはないと考えられるので、『エコノミスト』誌としてはもし許されるならハリスに投票したいと言うのである。

アメリカが病む「冷戦後の世界」への不適応症

このような米大統領選の不毛としか言いようのない光景の根源は、米国が「冷戦後の世界」というものを理解できず、従ってそれに巧く適応するよう自分を変えていくことができずに、極度のストレスに苛まれ自分を制御できなくなっていることにある。

本誌が25年前から繰り返し語ってきたように、冷戦が終わったということは、それ以前の熱戦の時代に戻っていくのではなく、冷戦にせよ熱戦にせよ、国家がその総力を挙げて武力に頼って利益を確保しようとする16世紀以来の野蛮な戦争文化をキッパリと卒業する機会がついに訪れたことを意味した。

そこからは、軍事力を持つ者が他を支配する一極覇権主義やそれに基づく敵対的軍事同盟主義はもはや通用せず、大国も小国も、国家以前の地域でさえも、地上に存在するすべての人々は等しく「1票」を持って世界の平和と繁栄の追求に参与しその恩恵を享受することができるという「多極化」原理が支配的になるはずで、そのための教科書は、長く棚ざらしにされてきた国連憲章の「普遍的集団安全保障体制」論にほかならないかった。

が、冷戦終結の一方の当事者であったブッシュ父大統領は「米国は冷戦という名の第3次世界大戦に勝利し、仇敵=ソ連を叩き潰してやった。これからは米国が唯一超大国で、その経済力と軍事力を持ってすれば世界を思いのままに動かすことができる」という幻想に取り憑かれてしまった。

そこから米国の世界への不適応症が始まり、それは特にブッシュ子大統領によるアフガニスタンとイラクでの戦争を通じて重症化し、その誤りの害毒が全身に転移してボコボコと吹き出物が出ているのがトランプということになる。

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「酔っ払いのような情緒不安定」に迷い込んでしまった米国

このようなことを早くから見抜いていた1人は、フランスの知識人エマニュエル・トッドで、『帝国以後』(藤原書店、2003年刊)でこう述べていた。

▼アフガニスタンとイラクに対する派手な戦争は、米国の強さよりも弱さの表れである。弱さとは、経済的に見て米国はモノもカネも全世界に依存して生きるほかなくなっていることであり、外交的・軍事的には、それを維持できなくなる不安からことさらに好戦的姿勢を採って、自国が世界にとって必要不可欠な存在であることを証明しようとするのだが、欧州、ロシア、日本、中国などの本当のライバルを組み敷くことは出来ないので、イラク、イラン、北朝鮮、キューバなど二流の軍事国家を相手に「劇場型軍国主義」を演じるしかないのである。

▼こうした米国の酔っ払いのような情緒不安定は、要するに、冷戦の終わりに際して、「冷戦という第3次世界大戦に勝ったのは米国で、今や敵なしの“唯一超大国”になった」という誇大妄想に陥り、ロシアがそうしたように、米国もまた“普通の(超のつかない)大国”に軟着陸しなければならない運命にあることを自覚しなかったことによる。

▼結局のところ、米国は暴走して破綻し、世界の中心は欧州、ロシア、中国、日本が緩やかに連携したユーラシアになる。米国が生き残るとすればそのような多極世界の1つの極をなすローカル大国として自らを定位できた場合だけである……。

米国の情報世界をはじめとするエスタブリッシュメントも、このことを自覚していない訳ではなく、全米情報協議会(ナショナル・インテリジェンス・カウンシル)が政権のために4年に一度改訂版を出す「グローバル・トレンド」報告書の2004年版は、

▼20世紀が米国の世紀であったのに対し、21世紀は中国とインドが先導するアジアの世紀となるだろう。

▼中国とインド、そして恐らくブラジルやインドネシアなど“成り上がり”国家は、今までの西と東、北と南、同盟と非同盟、先進国と途上国といった旧式のカテゴリーを廃棄してしまうかもしれない。

▼米国の対テロ戦争はアジア諸国にとっては見当違いなものと映っており、米国が同地域の安全保障について魅力的なビジョンを示さなければ、中国が地域安全保障秩序の対抗案を出して米国を排除することにもなりかねない……。

と述べていた。結局、米国は20年前から一向に成長せず、分かっちゃいるけど止められないという調子で“唯一超大国”幻想の中を彷徨い続け、そのためにますます「酔っ払いのような情緒不安定」に迷い込んでしまった。そのことを象徴するのがまさにトランプだということである。世界は、酔っ払いの癇癪爺ではなく、正気なら誰でもいいから別の人が米国の舵を握ることを切に願っているのである。

なお、このエマニュエル・トッドやNICの米国分析については、高野著『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版、2006年刊のP.207~226、250~262に詳しい。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年11月4日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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