一般論として、あなたが愛する妻は、夫であるあなたよりも「紀州のドン・ファン事件」に何倍も詳しい可能性が高い。なぜならこの事件、詳しく分析すればするほど、現行の相続関連法の致命的欠陥が浮き彫りとなるからだ。妻から見ると、中途半端に夫と離婚するよりも、いっそ殺害したほうがおトク――この恐ろしい構図は資産家のみならず一般家庭にもあてはまる、と元国税調査官で作家の大村大次郎氏は警鐘を鳴らす。世の男性は自分自身の身を守るため、まずは妻以上の知識を身につける必要がありそうだ。(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:紀州ドン・ファン事件に見る“相続関連法の欠陥”
紀州ドン・ファン事件に見る“相続関連法の欠陥”
紀州ドン・ファン事件というものをご存じでしょうか?和歌山県の有名な資産家が、急性覚せい剤中毒で変死したという事件です。
この資産家は、死ぬ3か月前に50歳以上も年の離れた若い女性と結婚しており、この女性に現在、殺人の容疑がかけられています。
この妻は、覚せい剤のことについて調べていた記録があり、また覚せい剤の密売人と会っていたようなのです。また資産家は、この妻との離婚を検討していたとも言われています。
この資産家は約13億5千万円の遺産があるとされ、妻にも数億円の遺産を受け取る権利があります。ただ、この資産家には、「遺産のすべては自治体に寄付する」という遺言書がありました。そしてこの遺言書は裁判で正当なものだと認められています。
が、相続では、「遺留分」と言って、遺言書があったとしても、相続人に不服があれば遺産の半分までは「法定相続分」に応じて遺産が分配されるということになっています。だから、遺族は約7億7500万円はもらう権利があります。法定相続分というのは、法律で定められた遺産の取り分のことです。
配偶者の法定相続分は、子供がいる場合は2分の1、子供がおらず相手の親が生きている場合は3分の2、子供がおらず相手の親もおらず相手の兄弟がいる場合は4分の3、子供がおらず相手の親もおらず相手の兄弟もいない場合は、全部ということになっています。
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結婚期間が短くても莫大な遺産が
この資産家の場合は、子供はおらず親も死亡していましたが兄弟はいたので、配偶者の取り分は4分の3であり約6億円がもらえるのです。そして、この約6億円の遺産について、妻は相続税を払わなくていいのです。
相続税法では、配偶者には非常に手厚い制度があります。現在の相続税というのは、配偶者は、法定相続分までの相続資産は無税ということになっているのです。
本来、相続税は最高税率55%という高い税金です。その税金が、配偶者の場合は、大きな割引になる制度があるのです。
だから、この事件にあてはめてみれば、妻は約6億円の資産のうち、本来は約3億円を相続税として払わなければなりませんが、これを払わなくていいということになるのです。
なぜこれほど配偶者は優遇されているかというと、「夫婦の資産は夫婦で築いてきたもの」「遺産は残された配偶者の生活を守ることを最優先すべき」という考え方があるからです。
が、この相続税の配偶者制度には、一つ大きな欠陥があるのです。
離婚時の財産分配とはまったく違う、相続税の「致命的欠陥」
それは、夫婦の期間がどれくらいでもあっても、すべての配偶者が同じような優遇を受けられるということです。
50年間連れ添った夫婦であっても、結婚して数か月の夫婦であっても、同じように優遇されるのです。これが離婚時の財産分配とは大きく違うところです。
民法では、夫婦の財産は名義がどうなっていても夫婦で築いたものであるという考え方があります。だから離婚した場合には、名義がどちらになっているにせよ、夫婦の財産はお互いのものということになっています。
が、離婚時の財産分配の場合、結婚する前にすでにあった資産については分配の対象となりません。結婚した後に夫婦で築いた財産だけが、お互いのものという考え方になるのです。
これは当たり前といえば当たり前の考え方です。だから、結婚生活が短い夫婦の場合は、夫にいくら資産があったとしても、結婚前に持っていた資産は離婚分配の対象になりません。
紀州のドン・ファンの場合、資産の多くは新妻と結婚する前に築かれたものなので、離婚していれば資産の分配はほとんどなかったといえます。
しかし、離婚ではなく、死別だったなら「結婚期間の長さはまったく関係なく」機械的に法定分配率が割り振られるのです。
こういう法制度を、妻側から見たとき、どうなるかを検討してみましょう。
妻の場合、資産家と結婚して短い期間で離婚する場合、もし相手に落ち度があれば多額の慰謝料などもらうことができますし、この慰謝料には税金はかかりません。
しかし相手に落ち度がない限りは遺産分配はほとんどありません。
離婚されるくらいなら殺した方がマシという構図
一方、離婚ではなく相手が死んでしまった場合、短い結婚期間であっても莫大な遺産が無税で入ってきます。最低でも遺産の4分の1以上は自分に入って来るし、うまく行けば遺産のすべてを手に入れることができるのです。しかも税金もほとんどかからないのです。
となると、妻側から見れば、「離婚されるくらいなら殺した方がマシ」ということになります。
もちろん、これは、「相続関連法のしくみから見た一般論」を言っているだけであり、このことをもって紀州のドン・ファンの元妻が犯人だと言っているわけではありません。
あくまで一般論として、相続分配の構図を述べているだけです。
この構図は「結婚期間の短い“資産家”の場合」という条件で成り立っていますが、一般家庭にも当てはまる部分はあります。
というのも、一般家庭においても離婚すると資産は「最大でも半分」しかもらえません。が、相手が死亡すれば「最低でも半分以上」もらえるのです。
つまり「離婚するより殺した方が得」という構図は、一般家庭にも当てはまるのです。あまり仲の良くない配偶者がおられる方はお気を付けください。
(本記事はメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2024年11月16日号を一部抜粋したものです。「財務省の騙しの手口2」「日本で安楽死が認められない恐ろしい理由1」を含む全文はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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