徳島のコオロギ食ベンチャー企業が破産。同社社長は、コオロギ粉末を使った高校給食がSNSで炎上し、悪質なデマが拡散された結果、経営が傾いたと主張しているが、昆虫食にノーを突きつけるネット民たちの反応は冷ややかだ。
コオロギベンチャー社長の“恨み節”に冷ややかな目
食用コオロギベンチャーの株式会社グラリス(徳島市)が先月7日、徳島地裁に自己破産を申請した。徳島大学発の同社は、食用コオロギの養殖・品種改良から商品開発・販売までを手がけ、2022年には無印良品の「コオロギせんべい」で一躍脚光を浴びた。
だが、県内高校が給食に同社のコオロギ粉末を使ったとのニュースがネットで“炎上”した同年末から2023年にかけて同社の業績は悪化し、「ニュースに反応した人々がネット上で昆虫食への嫌悪や安全性への批判を繰り返し、商談が相次いで立ち消えた・・・飼料向け事業の拡大を図ったが、設備投資に必要な国の補助金が受けられず事業の継続を断念」(日本経済新聞2024年11月21日)したとされる。
そんな中、いまネットで物議を醸しているのが、AERA dot.が12月8日に公開した「破産した『食用コオロギ』ベンチャー企業の社長が明かす“SNS炎上騒動”の全真相 それでも『リベンジ』を誓うワケ」なる記事。
同社の渡邉崇人社長が「炎上はあくまでも経営難の一因」とエクスキューズを置きつつも、ネット上を独り歩きした悪質なデマにコオロギ事業が潰されたとの持論を展開する内容で、おおむね、
- コオロギ粉末を使った給食を「無理やり食べさせた」というデマがネットで拡散された
- これらのデマは、閲覧数を稼ぐことが目的のフェイクニュースだった
- デマは「不妊になる」「人口削減計画の一環」などの陰謀論と結び付き悪質化した
- 会社に苦情や脅迫が多数届き、気に病んだスタッフたちは次々に退職していった
- 企業レピュテーション悪化、資金繰り悪化、経営悪化、ついには事業停止に至った
というお涙頂戴ストーリーになっている。
同社炎上よりも「謎のコオロギゴリ押しブームが先」の指摘も
ところが、この渡邊社長の“恨み節”に対する世間の反応は極めて冷ややかだ。SNSやネット掲示板には、同社の甘さや勘違いを批判する声が多数投稿されている。
《リベンジしていただかなくて結構です》
《自分の記憶では謎のコオロギゴリ押しブームが先。それが嫌われて炎上した》
《何を甘えたことを。従業員が次々に退職していくのは経営者の責任でしかない》
《誰が号令かけてたか知らんが、当時のあれって完全にステマでしょ?》
《一時期、インフルエンサーとか政治家とかコオロギ食いまくってたやんw》
《ステマじゃなければ、みんなが一斉に“よっしゃーコオロギ食うぞ”とはならんだろ》
《人口削減計画とか極端な陰謀論だけに反論してくる人物は信用ならない》
《だからなんでコオロギなん。こっち単純に食べたくないだけなんよ》
同情的な意見はほとんど見つからない。なぜグラリス社と渡邊社長はここまで嫌われてしまったのだろうか?その理由は、今回のAERA dot.のインタビューからも読み取れるという。
「渡邊社長は、自分たちにとって都合のいい陰謀論、言ってみれば“必ず論破できるトンデモ論”だけをピックアップして反論し、人々の本当の不安や疑念、『コオロギなんて食べたくない』という気持ちは意図的に無視しています。これが世間の反感を買う最大の要因です」(ネットメディア編集デスク)
コオロギ食は「ネットの陰謀論」より「ステマ疑惑」の総括が先
前出のネットメディア編集デスクが続ける。
「コオロギを食べると不妊になる、コオロギ食は人口削減計画の一環だ、などは“必ず論破できるトンデモ論”の典型です。特に後者に関しては、コオロギ食反対派の中でも信じている人はほとんどいない珍説中の珍説。でも、アストロターフィング(ニセ草の根運動)の手法を用いれば、このようなトンデモ反対意見をいくらでも人工的に作り出すことができてしまうのがSNS時代です。そんなものにいくら反論してみせたところで、コオロギ食の安全性や正当性をきちんと説明したことにはなりません。
本来、渡邊社長が誠実に向き合うべきなのは、たとえば、一時期のコオロギゴリ押しブームとは何だったのか?大規模なステマだったのか?それとも本当に自然発生的なムーブメントだったのか?会社として関知していたのか、いなかったのか……といったことの総括です。中心にいた当事者の一人として、説明責任があるはずです。
時系列を振り返ると、グラリス社が炎上する前に、メディアやインフルエンサーがコオロギ食を“次世代のスーパーフード”と持ち上げ、国会議員が昆虫食を試食するという、あからさまなコオロギゴリ押し現象が発生していました。高校の給食が炎上したのは、そのゴリ押しへの強い反動という側面が大いにあります。ネットのデマで会社が破産したと主張するよりも前に、ネット民を辟易させたステマ疑惑と向き合わなければ信頼は取り戻せないと思いますよ」(前同)
昨今はコオロギ食に限らず、反対派すらほとんどが信じていない“珍説”をどこかから探してきて、それを“論破”し、さも勝ったような顔をする人間が増えている。詭弁の種類としては、「相手が言っていないことに反論する」ストローマン(藁人形論法)の変形にあたるが、今どきのネット民にそのようなゴマカシは通用しないようだ。
ほんの少し前まで、昆虫食やコオロギ食を礼賛していた人々は、なぜか波が引くようにネット上から消えてしまった。あれがゴリ押しやステマの類でないとすれば、なんとも不可思議な現象だ。もし本物のブームだったなら、グラリス社も「設備投資に必要な国の補助金」を受けて事業を継続できただろうに後味の悪い結末となった。
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