三島由紀夫の割腹自殺を「狂った喜劇」と断罪した“オレンジ色の憎いヤツ”。『夕刊フジ』休刊に思うこと

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2025年1月末で休刊となったタブロイド紙『夕刊フジ』。“オレンジ色の憎いヤツ”というキャッチフレーズ、見覚えのある方も多いのではないでしょうか。その休刊を惜しむのは、メルマガ『佐高信の筆刀両断』の著者で辛口評論家として知られる佐高さん。今回は、佐高さん自身がデビューを飾ったという『夕刊フジ』の古き良き時代について回想し、その思い出を綴っています。

オレンジ色の憎いヤツ、『夕刊フジ』の終刊

最近は『日刊ゲンダイ』だけ買って、『夕刊フジ』は買わなくなっていたが、なくなってしまったのは寂しい。

私のデビューは『夕刊フジ』だったからだ。

内橋克人の『匠の時代』(岩波現代文庫)に続いて、私の新入社員ルポなどが始まり、それは『KKニッポン就職事情』(講談社文庫)としてまとめられた。内橋と私の「KKニッポンを射る」という対話を連載したこともある。

当時は『ゲンダイ』が「政治革新、経済保守」で『フジ』が「政治保守、経済革新」といった趣きがあった。そうでなければ、内橋や私が登場することはなかっただろう。

しかし、『フジ』は「経済」面もどんどん保守化し、「政治ウルトラ保守、経済も保守」になっていった。

『夕刊フジ』が片道でそこに行かされた人たちがつくっていたということもあるのだろう。無名の私を起用した経済担当部長の島谷泰彦も編集局長の馬見塚達雄も反骨のサムライだった。

社長が山路愛山の孫の山路昭平。馬見塚の『「夕刊フジ」の挑戦』(阪急コミュニケーションズ)の副題は「本音ジャーナリズムの誕生」である。

そこで馬見塚は『夕刊フジ』がサラリーマンに歓迎された要因として内橋が挙げた「3つのI」を紹介する。

1つ目は「インサイド・ストーリー」である。

三大紙など正統派ジャーナリズムが表から物を見て報道するのに対して、内幕を描く。

2つ目は「インフォーマル」。

読者がそれを知りたい、望んでいると判断したら、形にとらわれずに突っ込んでいく。

そして、3つ目が「イレギュラー」である。

正規軍の戦いではなく、ゲリラ戦法だ。隙間や死角をついていくわけで、アウトロー・ジャーナリズムとなる。

『夕刊フジ』には宅配に馴れきった新聞にはない斬新さがあった。今日おもしろくなければ明日は買わないのだから、1回1回、何かおもしろいネタを仕込んで下さい、と島谷に言われたのを私は今も憶えている。1日1日が勝負だということである。

あの“オレンジ色の憎いヤツ”と謳う『夕刊フジ』の姿勢を決めたのは三島由紀夫の事件だった。

三島が自衛隊に乱入して割腹自殺した翌日、『夕刊フジ』は「その美意識はわれわれにはまったくかかわりのないものであり、個人的な観念の遊びの域を脱して、実社会に割り込まれたのではたまらない」と書いた。

そして「月賦で買ったマイカーでドライブを楽しむサラリーマン、やりくりをしてマイホームのために貯金をする妻」が営む「家庭のあたたかさ、かなしみ、そのほんとうの味わいは三島にはわからなかったのだ」と断罪し、「“狂った喜劇”でしかない」と結んでいる。

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