“コメ不足”の裏にも安倍政権と竹中平蔵あり。農政の大破局を招いた新旧「魔のトライアングル」構成員たち

 

本当に農協を外せばコメは安くなるのか

その大転換のために考え抜かなければならない論点は数々あるが、一つには、今回の小泉パフォーマンスが「JA外し」の一面があったことから、「ほら、JAを外せば米は安くなるじゃないか」といった短絡的な印象操作がすでにマスコミに現れている。しかし、4月下旬の3回目の備蓄米放出(23年産10万トン)について「日本農業新聞」(5月26日付)が示した試算によると(図1参照)、

  1. 政府は元々60キロ=1万1,879円で買い受けた米を一般入札にかけ、その95%をJAに2万1,085円で売り、
  2. JAはそれを米卸商に2万2,231円で売り、
  3. 卸はそれを小売に3万4,362円で売り、
  4. 小売はそれを消費者に4万3,272円で売った。

こうしてみると、JAのマージンが極端に少なく、良心的なように見えるが、実際の仕組みはやや複雑である。

同紙は触れていないが、1.の前にはもう1段階があって、全国151の備蓄米の入札に参加する資格を持つ登録業者(ほとんどがJA)が存在する。JAは、出来るだけ安い値段で買い受けようとする国の入札の応じ、落札すると、その分の米を自分の倉庫に保管し、農水省の「検収」を受けた上で所有権を渡すが、米そのものはそのまま倉庫に置いて同省から保管料を受け取る。

そして今回のように放出するとなると、今度は出来るだけ高い値段で売るための入札に応じ、落札すると、所有権が戻ってきて、それを卸業者に売ってもいいのだが、放出の最初の段階では「1年以内に買い戻し」とされていたので、面倒ならばそのまま倉庫に置いておき、買い戻しを待ってもいい。買い戻されると、また所有権は国に移り保管料を受け取るが、米そのものは依然としてそのJAの倉庫で動かないままである(極端に言えば、だが)……。

要するに、米が過剰に出回って価格が下落するのを避けようとする農水省とJAの思惑の一致に基づいて作動する「緩衝装置」が備蓄米制度なのであって、表のJAが卸に売る時の上乗せ額だけを見ていても事の本質は分からない。

そもそも、消費者に急いで安い米を届けようという話なのに、大元の国が「安く買って高く売る」入札制度に頼った結果、最大の上乗せを得てしまっているのは珍妙極まりないが、行政=役人が法律に縛られるのは仕方がない。そこで政治=小泉が出てきて「そんな馬鹿なことがあるか。今回は随意契約で国が事実上価格を決める」と超法規的な措置を強行したのである。

それはともかく、卸は8,695円、小売は8,910円の上乗せを得ていてその比重は消費者価格5キロ=3,600円の米の場合で約4割。流通はそれほどの力を持っているのかと驚くばかりである。

今回の小泉方式では、JAはもちろん卸も飛ばして直接小売に入札させ、しかも公定価格=2,000円と決まっているので小売も上乗せできず、この値段が実現した。しかしこのやり方では生産者も流通業者も全く仕事が成り立たず、持続可能な米の供給システムを作る上では何の参考にもならない。

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