“コメ不足”の裏にも安倍政権と竹中平蔵あり。農政の大破局を招いた新旧「魔のトライアングル」構成員たち

 

アベ友の姿も。新しい「魔のトライアングル」の基本構図

自民党農林族議員と農水官僚と農協が織りなす「魔のトライアングル」ということが昔から言われていて、それは今なお存在し一定の力を持っているのかと思う。けれども、私の認識では、それに対抗する別の新しい「魔のトライアングル」がすでに勃興していて、その基本構図は、

  1. 安倍晋三時代に形成された森山裕を中心とする「新農林族」議員、
  2. 大規模化・機械化・効率化・市場化一本槍の官僚群、
  3. 新自由主義=規制緩和イデオロギーに染まった竹中平蔵、新浪剛史、宮内義彦ら経済界の非主流派。

2012年12月の総選挙で「TPP断固反。ブレない。ウソつかない。」のポスターを張り巡らせて勝利し、政権を取り戻した安倍晋三は、手の平を返したようにとはこのことかと言われたほどの鮮やかさで方針を転換、TPP加盟に突き進むと共に、国内では特に農協を目の敵に据えて規制緩和の一大キャンペーンを展開した。

その時に、安倍が「農林族を制することができるのは農林族しかいない」という考えのもと、党内や農協との調整を委ねたのが、当時農水副大臣だった江藤拓(前農水相)と、衆院農水委員長(13年)→自民党TPP対策委員長(14年)→農水相(15年)の森山裕(現党幹事長)だった。その下で突撃隊長となったのが小泉=党農林部会長(現農水相)である。

これを政権内外から応援し、国家戦略特区を作らせて自社を農業に参入させたりしたのが、竹中平蔵(パソナ)、新浪剛史(ローソン)、宮内義彦(オリックス)など安倍のお友達の新自由主義派経済人たちである。

農水省の内部には、「改革派」と呼ばれる市場開放、大規模化・機械化を推進する潮流があり、伝統的に経営局や輸出・国際局を拠点として、どういうわけか東京大学法学部出身者がこの局長を経て事務次官になる主流コースを握っている。

この人たちは中山間地の家族経営による中小零細農家こそが日本の宝であることを絶対に認めず、むしろ「厄介者」扱いして出来るだけ早く絶滅させようとしている。

それに対して、東大でも農学部出身者や他大学の農学部、農業系大学の出身者は農産局や農村振興局に依っていて、どちらかというと旧農林族に近く、「穏健派」と呼ばれている。

安倍時代を通じてこの新トライアングルが前面に立つようになったのに対し、旧トライアングルは大きな政策方向で勝負することを避け、農業自体が衰弱に向かうとしてもその下で中小農家がとりあえず目先のカネを掴めればそれでよしとする姿勢に沈んでいる。

そういう二重に不幸な退嬰によって今回の農政大破局が訪れてきたのであって、マスコミがよく言う「主食の米を聖域として、保護してきた日本の農政の抜本的な立て直しを」などという決め台詞は、新トライアングルの側に立って旧トライアングルを潰せと言っているのかどうか。

分かって言っているなら、一見当たり障りないこの表現は実はイデオロギー的偏りを孕んでいることになり、分からないで何となしに言っているなら読者の頭を撹乱する役目を果たすだけである。

小泉はこの過程の中でだいぶ勉強したようで、数日前の会見ではポロッと呟くように「米の流通は複雑怪奇ですから」と述べたが、その通りで、安易な単純化を避けながら本当にあるべき米の生産と流通と消費のシステムを模索していく必要がある。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年6月2日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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