有事に日本国民は餓死する。農水省がコッソリ降ろした「食料自給率向上」の看板

Tokyo,,Japan,-,July,31,,2022:,Sign,In,Front,Of
 

食料安全保障のリスク回避のため、高水準を保つことが望ましいとされる食料自給率。しかし我が国は38%と、先進国の中で最低水準となっています。そんな中にあって農水省が今国会に提出予定の「食料・農業・農村基本法」改正案は、専門家が首をひねるような内容となっていました。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野さんが、農水省が「食料自給率向上の看板を半ば降ろす羽目に陥った」理由を考察するとともに、食料・農業・農村政策審議会の言い訳めいた答申の数カ所を引き、それぞれについて厳しい視線で解説を加えています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年2月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

農水省の大迷走。食料・農業・農村基本法改定で有事に国民餓死決定か

農水省は今国会に「食料・農業・農村基本法」改正案を提出しようとしているが、1999年制定の現行基本法で前面に掲げていた「食料自給率の向上」の看板をこっそりと降ろして――と言ってもさすがに捨て去ることはできないので「食料安全保障の目標の1つ」に格下げして、出来ればこの言葉を国民に忘れてもらいたいかの態度を示してきた。何のためかと言えば、自給率の向上がどうにも難しいので「輸入先の安定化」を目標に取り入れるためである。

それに対しては、当然にも、自民党の農林族から反発の声が上がり、そのため「自給率その他の食料安全保障の確保の目標を設定する」というように文言としては蘇らせて族議員を納得させはしたものの、かつてあれだけ大騒ぎした食料自給率向上に「あんまり触れないようにしよう」という同省の本音は変わらないだろう。

否応なく浮き彫りになる農政の失敗の歴史

なぜ触れないようにするのかと言えば、そこを見れば農政の失敗の歴史が否応なく浮き彫りになるからである。

1961年制定の旧農業基本法は、池田内閣の「所得倍増計画」を都市サラリーマンだけでなく農業者にも及ぼすことを企図した。その具体的な方法は、農家の大半を占める貧農層を切り捨てて大規模経営化を推進し生産性向上を図る一方、それで余った労働力を都会の第2次・第3次産業へと総動員して一気に高度経済成長を実現しようという、徹底的な経済合理主義イデオロギーによるものだった。こんなアクロバット的な政策が巧くいく訳がなく、1960年に1,766万人あった農業従事者は75年に1,373万人、90年に849万人、2005年に196万人、そしてついに2020年には60年前のほぼ10分の1の160万人にまで激減した。

それで一定の生産性向上効果があったのは事実だが、肝心の食料自給率は、1960年に79%あったのに対し75年には54%、90年に48%、2005年に40%、2020年には38%と無惨に減り続けた。その途上で、危機感を抱いた農水省は1999年に基本法を現行のものに改定し、その際に「食料自給率向上」を高々と掲げたのだったが、それは何の歯止めにもならなかった。根本原因は、上辺はいろいろ繕ってもベースの大規模化、機械化・化学化による効率化という、日本農業の実態におよそ相応しくない欧米流の農業近代化を模倣しようとする致命的誤謬がそのまま続いたことにある。それでとうとうお手上げになり、「食料自給率向上」の看板を半ば降ろす羽目に陥ったのが今回である。

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