歴史の検証に耐え得るものではない「その場限りの机上の空論」
さらに3番目の個所ではこう述べられている。
▼基本計画の見直しにあわせ、自給率目標は、国内生産と望ましい消費の姿に関する目標の一つとし、上述した食料安全保障上の様々な課題を含め、課題の性質に応じ、新しい基本計画で整理される主要な課題に適した数値目標又は課題の内容に応じた目標も活用しながら、定期的に現状を検証する仕組みを設けることとするべきである。
《私流のひねくれ解説・3》
自給率目標は残すけれども、新基本法とそのための基本計画で設定される様々な課題に応じたいくつかの目標の1つとしてであって、それ以上には位置付けることはしないという宣言である。しかし、食料輸入の強化が食料安全保障に資するという話は今まで聞いたことがない。
この点について、資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は2月12日付「日本農業新聞」への寄稿で、基本法見直しでは「平時における国民1人1人の食料安全保障を考えると宣言しておきながら、いつの間にか議論は『不測時における安全保障』〔のための輸入先確保〕にすり替わっている」と指摘、さらに次のような重大な問題点を指摘している。
「世界の食料市場を支配する穀物メジャーあるいはフードメジャーへの言及がない。……2019年の世界の農産物貿易額1兆3,300億ドルの内の少なくとも40%はカーギル、コフコ(中糧集団)、ADMなどのフードメジャーだ。……彼らが有事の際に食料を日本向けに優先して供給してくれる保証はない。政府は、今回の『食料・農業・農村基本法』改革の一丁目一番地であるはずの『国内農業生産の増大』を真剣に取り上げるべきだ」
その通りで、農水省のこの「食料自給率向上」断念、「輸入の安定化」への切り替えという取り組みは、その場限りの机上の空論の類で、とうてい歴史の検証に耐え得るものではない。
初月無料購読ですぐ読める! 2月配信済みバックナンバー
※2024年2月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、2月分のメルマガがすべてすぐに届きます。
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.639]「食料自給率」で迷走する農水省(2/19)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.638]米国の検察は自国の大統領に何ということを言うのか?(2/12)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.637]なぜこんなところに米軍が駐在していたのか(2/5)
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.636]ジャーナリストになりたい君へ《その1》(1/29)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.635]日本の「下からの民主主義」の原点としての中江兆民(1/22)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.634]イアン・ブレマーの「今年の10大リスク」を読む(1/15)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.633]今年は「選挙の年」、世界各国で次々に大統領選や総選挙(1/8)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.632]明けましておめでとうございます!(1/1)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.631]自民党疑獄史と党内若手の衰退(12/25)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.630]どこまで切開できるのか、派閥の構造的裏金システムの深い闇(12/18)
- [高野孟のTHE JOURNAL:号外]今週号は休刊します(12/11)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.629]100歳で亡くなったキッシンジャーのシニカルな人生(12/4)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.628]史上最低の岸田内閣への支持率でもはや政権どん詰まり(11/27)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.627]米中日関係をどう認識するか?(11/20)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.626]軍産複合体にもっと餌を与えても大丈夫と言うクルーグマンの迷妄(11/13)
- [高野孟のTHE JOURNAL:Vol.625]経済そのものが分かっていない岸田首相の悪足掻き(11/6)









