有事に日本国民は餓死する。農水省がコッソリ降ろした「食料自給率向上」の看板

 

農水省がこねる「食料自給」を諦めるための屁理屈

しかし官僚組織は無謬性神話を死守しなければならないので、「今まで間違っていたので、ごめんなさい」と言うことはありえない。一般には分かりにくいありとあらゆる屁理屈を捏ねて隠微な形で軌道修正を図るのが常で、この場合はそれは昨年9月にまとまった「食料・農業・農村政策審議会」の答申によく表れている。

ここでは「食料自給率」に関わる文言を3カ所抜き出して示すが、前後の文脈から切り離されていて分かりにくいかもしれない。関心の深い読者諸兄は、農水省HPにある全文のP.41以下「第3部 食料・農業・農村基本計画、不測時における食料安全保障」の項を参照して頂きたい。

食料・農業・農村政策審議会 答申

まず、現行基本法で「食料自給率向上」が前面に押し出された理由が次のように説明される。

▼我が国の国民が必要とする食料を確保していくためには、国内農業生産と輸入・備蓄を適切に組み合わせることが不可欠であるが、食料の輸入依存度を高めていく方向ではなく、自国の農業資源を有効活用していくという観点で、国内の農業生産の増大を図ることを基本としていくべきとされた。

▼こうした中で、現行基本法において、基本計画の記載事項として食料自給率目標を位置付けた。これは、食料自給率の低下に対して生産者・消費者が不安を抱いていることから、その向上を図る目標としたものである。

▼供給熱量ベースの食料自給率は、国内で生産される食料が国内消費をどの程度充足しているかを示す指標であり、国内で生産される食料を国民が消費するという過程を通じて決まるので、その維持向上を図るには、国内生産・国内消費の双方にわたる対応、すなわち、農業者、食品産業、消費者、行政といった関係者のそれぞれが問題意識を持って具体的な課題に主体的・積極的に取り組むことが必要となる。こうした生産・消費についての指針として食料自給率の目標が掲げられるならば、それは食料政策の方向や内容を明示するものとして、意義があるものとされた。

《私流のひねくれ解説・1》

食料確保には国内生産と輸入の組み合わせが不可欠だというのは一般論を語っているようだが、実は、現行基本法では国内生産増強の一本槍だったこと、そのために「食料自給率向上」を前面に掲げたのであり、それはそれで啓蒙的な意味もあったのであることを述べていて、全体として、「輸入」の観点を入れ込んだ「食料安全保障」への論点ずらしの布石を打つための文章である。

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