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植田日銀の一発逆転、参院選後の7月末決定会合で「利上げ再開」か?「金利のある世界」石破政権内でも抵抗感薄く

ついこの間まで、市場の多くは日銀の年内利上げはないとみていました。周知のとおり、トランプ関税による世界市場の混乱を受け、日銀の利上げシナリオが大きく後退したためでした。しかし、そんな状況も変わりつつあります。ここへきて日銀の利上げ再開に少なくとも2つの追い風が吹くようになりました。参院選後の7月末の日銀金融政策決定会合で利上げ再開となる可能性が出てきています。(メルマガ『マンさんの経済あらかると』著者・斎藤満)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日銀の利上げ再開に追い風

プロフィール斎藤満さいとう・みつる
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

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日銀・植田総裁の発言に変化

日銀の植田総裁は、5月27日に日銀本店で開催された国際コンファレンスで挨拶しました。そこでは、経済物価の中心的な見通しが実現してゆけば、2%の物価安定目標の持続的な達成に向けて金利を引き続き引き上げてゆく、と述べました。

そして予想インフレ率は現在1.5%から2%の間にあり、2%に近づいているとの認識を示し、さらに日銀が説明に使う基調的インフレ率があいまいで、現実のインフレ率と長い間乖離していることが問題と指摘されている、との認識を示しました。

同月1日の決定会合後の会見では、状況によっては利下げの可能性も示唆していただけに、これとは大きな変化が見られます。この変化の背景に何があったのでしょうか。

トランプ関税に対する不安が軽減

1つは、最大の不確定要素となっているトランプ関税に対する不安が、ひところより軽減されていることです。

相互関税については全世界共通の10%を超える分については90日間保留となり、その間の交渉結果いかんでは軽減撤廃の余地があり、5月28日には国際貿易裁判所がこれを違憲との判決を出しました。もっともトランプ政権は直ちに控訴していて、着地はまだ不明です。

また中国に対する145%の高率関税は30%に引き下げられ、そのぶん中国が米国に掛けていた125%の関税も10%に引き下げられ、市場は安堵しています。トランプ大統領には「朝令暮改」との批判もありますが、ひところのトランプショックに比べると、ショックの度合いが緩和されています。

5月30日には赤沢大臣が米国のベッセント財務長官らと4度目の閣僚級会議を持ち、これに合わせてトランプ・石破両トップによる電話会談が行なわれました。日本が「日米両国にウイン・ウインとなる解決策」を模索していることもあって交渉に時間がかかっていますが、この電話会談、実はトランプ大統領からかかってくるといいます。

トランプ大統領としては、ここまで貿易交渉で確かな成果を見ていないだけに、何とか「隷属国日本」との間で成果を急ぎたい、との焦りもうかがえます。

株価もトランプショックの下げから回復

こうした動きの中で、株式市場では日米ともにトランプショックによって下げた分をほぼ取り戻しました。

5月1日の決定会合で日銀が利上げを見送った背景には、トランプ関税の行方やその影響が極めて不透明であったこともありますが、直接的にはこのトランプショックで株価が大きく下落するなど、市場が不安に陥っていたことが大きく影響していました。

その市場が、株価で言えばショックによる下げ分をほぼ取り戻し、長期金利も急落の後また元に近い水準にまで戻しています。

そして、自動車鉄鋼など、関税の影響を直接受ける業界の動きも注目されるところですが、業績見通し自体は慎重になっているものの、ここまでのところ輸出や生産が大きく落ち込むこともなく、経済の混乱も回避されています。

このように、日銀にとっても大きな不安要素が薄らいでいるのです。(次ページに続く)

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見えてきた「石破長期政権」永田町でも利上げへの抵抗が和らいできた

もう1つは、永田町からの抵抗が和らぎつつあることです。

まず、永田町にとっても市場の安定は重要です。夏の参議院選挙前に株式市場が不安定では選挙に負担となります。トランプショックで株価が急落した状況を見れば、政府としても選挙前に利上げして株がさらに下げれば不利になるのはわかっています。

だから選挙前の利上げはノー、となったのですが、その悪材料が株の持ち直しで改善しました。

そのうえで、与党が選挙に勝っても負けても、日銀の利上げには抵抗が小さくなっている点が挙げられます。

まず、選挙での大敗リスクが低下し、石破政権の長期維持が見込まれるようになりました。

野党の中で支持率が高まっていた国民民主党も、党首の舌禍事件や党内のごたごたで支持率が低下し、維新も勢いがなくなっています。敵失で与党が大負けするリスクが低下しているわけです。

しかも、最大野党の野田立憲民主党との共闘が年金法案などを通じて進んでいて、選挙で負けても大連立の形で石破政権の維持が可能になりそうです。それだけ与党に余裕が出ていて、かつてのような、かたくなに日銀の利上げに反対する状況ではなくなりました。

また、仮に与党が参院でも過半数割れとなり、幹部の責任問題となった場合、森山幹事長が責任を取らされ、身を引く可能性があります。

現在、森山天皇と揶揄され、ある意味では石破総理以上に力を持つ幹事長が身を引けば、日銀の利上げ阻止の急先鋒がいなくなり、それだけ日銀には追い風になります。(次ページに続く)

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市場が想定するよりも早い時期に利上げ再開か

冒頭で紹介したように、植田日銀総裁は先のコンファレンスで「中心的な見通しが実現して行けば、2%の物価安定見通しを持続的に達成するためにも利上げを続ける」と発言しています。

そして日銀は前回の展望リポートで自らハードルを下げています。つまり、成長率、物価見通しをともに引き下げています。

その一方で5月の東京都区部のCPIまでの情報でも、早くも物価見通しに対して、現実の物価が上ぶれする可能性が高まっています。4月、5月のCPIは前年比で3%台後半になりそうで、最近の上昇の勢いからすると、ここからさらに加速する可能性があります。

これに対して、最新の日銀予想では25年度のコアCPIは2.2%、26年度は1.7%の予想となっています。トランプショックで成長率が低下する中で物価上昇も減速すると予想しましたが、少なくとも足元ではこれを大きく上回る上昇ペースにあります。日銀は自らハードルを引き下げましたが、そのぶん過剰達成の可能性が高まっています。

これまで日銀は実体のない、あいまいな「基調的インフレ率」を「2%に近いがまだ2%に達していない」としてきました。しかし、これに対する世間からの批判が強いことは日銀も認識しています。

次回7月の展望リポートで物価見通しを改めて上方修正し、問題の「基調的インフレ率」も2%に到達したとして利上げに出ることは可能な状況となっています。市場が想定するよりも早い時期に利上げ再開となりそうです。

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※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年6月2日号「日銀の利上げ再開に追い風」の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。当月配信済みバックナンバーもすぐに読めます。

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image by: 首相官邸ホームページ, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

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