トランプ米大統領の就任によって、「在日米軍が日本から引き揚げる」可能性が相対的に高まっている。日本はアメリカに頼らず自国領土を防衛できるのか。エコノミストの斎藤満氏は「自衛隊による防衛は極めて心もとない状態」にあるとしたうえで、わが国の自主防衛能力を高めるためには「核武装」と真逆の「核廃絶兵器」の研究・開発が必要だと指摘する。(メルマガ『マンさんの経済あらかると』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日本の防衛は大丈夫か
プロフィール:斎藤満(さいとう・みつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
在日米軍が日本から引き揚げる日
米国の要請で日本は5年間で43兆円の防衛費を用意し、米国の武器を大量に買う方向にあります。しかし、イージス艦やオスプレイを高額で購入しても、その整備、メンテナンスは米軍任せで日本は関われない片務性があります。
そして、トランプ新大統領は世界に展開する米軍を引き揚げる意向で、在韓米軍や在日米軍も引き揚げの可能性があります。
戦後80年にもなりますが、いまだに米軍が駐留する「占領下」にある国は日本くらいです。
トランプ氏は日本に駐留経費の負担増を求めるでしょうが、敵国が日本を攻めてきた場合に、米軍が日本のために戦うことは期待できず、「武器弾薬を売るから頑張れ」となる可能性が高いとみられます。日本の防衛はこのままで良いのでしょうか。
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自衛隊の現有戦力では日本を防衛できない
日本は戦後80年間、戦争を放棄する一方で事実上米国の占領下にあって、米国の軍事力によって日本の防衛を続けてきました。世界で唯一の被爆国でありながら、米国の核の傘のもとにあります。
米国がかつて在日米軍を引き揚げる案を提示した際には、日本政府が自ら米軍の駐留維持を要請したといいます。米軍依存の防衛体制が続いています。
しかし、米国はすでに10年も前から「世界の警察」機能を果たせないと言い出し、さらにトランプ政権は米国第一主義で、他国のために米軍を海外展開する余裕はないと言っています。このため、欧州も含めて海外駐留の米軍を引き揚げる方向にあり、米軍の力を利用したい国は、ビジネスライクに金を出せ、と言っています。
日本には自衛隊がありますが、最近の若者は自衛隊への入隊理由として、自然災害の救助に貢献したい、などを理由に挙げるものが多く、日本の防衛のために戦う意欲も準備も不十分です。
実戦・演習の機会もなく、いざ戦争勃発となった際には、自衛隊による防衛は極めて心もとない状態にあり、結果として米軍に依存せざるを得ない状況にあります。
しかし、昨今の国際紛争に対する米国の立場を見れば、米軍が直接紛争解決に兵を出すわけではなく、あくまで武器弾薬の供与で、つまり軍事、経済支援を行って「間接支援」をする形になっています。
ウクライナ戦争でも米国はカネと武器は供与しても、実際に戦うのはウクライナの兵士で、犠牲者もウクライナ人、ロシア兵となっています。
外国を守るために米国人が命を犠牲にすることは、今の米国世論が認めない状況にあるためです。したがって今後、朝鮮半島や台湾で有事となっても、米軍が直接戦闘に参加するよりも、戦うのは現場の自国戦闘員で、米国は武器弾薬の提供という「間接支援」となる可能性があります。
米軍が日本人のために命がけで闘うことはないのです。在日米軍は日本防衛のためでなく、アジアでの紛争の際に米軍が出撃しやすいという理由から駐留しています。