山尾志桜里氏の公認問題で政党支持率が急落した国民民主党。世論の猛反発をうけて公認を取り消したものの、時すでに遅し。「山尾叩き」の空気が一夜にして「玉木叩き」に変わり、事態はさらに悪化してしまった。想定外の深手を負った玉木代表は、いったい何を見誤ったのだろうか。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:辞退を拒否し出馬会見を強行した山尾氏を見誤ったか。玉木代表の大失策
国民民主党の支持率が急落、玉木雄一郎代表の大誤算
参院選への公認を国民民主党に取り消された山尾志桜里氏がSNSに「両院議員総会での決定について」と題する“抗議文”を公開した。下記はその一部だ。
「代表・幹事長の同席を希望しましたが、辞退会見であれば同席するとのお答えは大変残念でした」
6月10日に開かれた山尾氏の出馬記者会見。そこに、玉木雄一郎代表と榛葉賀津也幹事長の同席を求めたが、「辞退会見であれば同席する」とつれない返事だったというのだ。
それなら、会見前の時点で、党執行部は山尾氏が自ら辞退してくれることを望んでいたということにならないか。「辞退会見であれば同席する」というのはそういう意味だろうし、山尾氏に辞退するよう勧めていたとも受け取れる。
山尾氏は出馬が報じられて以来、週刊誌やSNSを中心に過去の不倫問題が蒸し返され、相手男性の妻が自死したこととの因果関係も取りざたされていた。党のあり方と山尾氏のスキャンダルとは別物であるとはいえ、支持者や党関係者からも、なぜわざわざメディアに叩かれる要素が満載の候補者を立てるのかと訝る声があふれた。
案の定、国民民主党の政党支持率は急落、玉木代表は記者会見のたびに山尾氏の公認問題について追及され、困惑の表情を浮かべていた。
玉木氏としては、いまさら公認を取り消すわけにもいかず、しだいに山尾氏自ら身を引くことしか、支持率落下に歯止めをかける手立てがないと思うようになっていったのではないか。
“8年前の不倫疑惑など、もはや時効”読みが甘すぎたか
党本部が「出馬会見」を渋る理由を山尾氏はわかっていたはずである。それでも、山尾氏に「辞退」という選択肢はなかった。こちらから頼んだのではなく、党の要請を受けて、決意したという自負があるからだ。
“抗議文”によると、山尾氏は昨年来、玉木代表から国政復帰の誘いを受けていた。今年に入り、あたらめて出馬要請があったので、その気になった。公認が決定したと党から連絡があったのは4月23日だった。だがその日に予定されていた公認の発表と、玉木代表、榛葉幹事長同席の記者会見は延期された。
5月14日、党は他3名の立候補予定者とともに山尾氏の公認を発表したが、宙に浮いていた出馬表明記者会見については、山尾氏が早く開きたいと望んでいたにもかかわらず、党はどうするべきか決めかねていた。会見で山尾氏がこれまで通り不倫問題についてノーコメントを貫けば、かえって火に油を注ぐのではないかと危惧したからだ。
山尾氏は6月4日、SNSに「出馬会見をさせてください」と投稿し、党にもその意思を強く訴えた。玉木代表、榛葉幹事長にとって難しい判断だった。当初、8年前の不倫疑惑など、もはや時効だろうとタカをくくっていたが、それはいかにも甘い見方だった。(次ページに続く)
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不倫疑惑の説明から逃げる山尾氏。相手の妻は自死、世論は猛反発
週刊文春が報じた山尾氏の不倫疑惑。「男女の関係はなかった」と公言し、これまでそれに関するメディアの質問に山尾氏は全く答えていない。
しかも、不倫相手といわれる男性の妻が離婚後の2020年に自殺したことも同誌によって報じられている。そのため、世間には、他人事ながら山尾氏に憎悪の感情を抱く人々も数多いとみられた。
山尾氏が出馬会見をすれば、ノーコメントを貫いてきたそれらの問題について、記者たちから容赦ない質問が飛んでくるのは間違いない。山尾氏は憲法改正に前向きな国民民主党の理念に影響を与えた改憲論者であり、リベラル系のフリージャーナリストからはもともと厳しい視線を向けられている。
そんな不安に苛まれながらも玉木代表が山尾氏の出馬表明会見を認めたのは、うまく切り抜ける方策があるのだろうと、これまた甘い観測をしてしまったからにほかならない。山尾氏が自ら辞退しない以上、不倫などいくつかの疑惑について会見で説明責任を果たし世間を納得させるほか事態収拾の道はない。
だが、6月10日に開かれた山尾氏の出馬会見は、玉木代表らが期待したものとはほど遠い内容だった。予想通り、多くの質問が不倫疑惑に集中したが、山尾氏は、あらかじめ決めていた言葉を繰り返すばかりだった。
「新しく言葉を紡ぐことはご容赦いただけたらと思う。いろいろな思いの人がいて、いろいろな立場がある。今何かを話せば、さまざまなご迷惑をおかけすることもある」
何を言っているのかわからない。色々な思い。さまざまなご迷惑。いったい誰のことを気遣っているのか。記者たちは辛辣な言葉を浴びせかけた。
「奥さんを死に追いやったような方が優しい国づくりなんて、おかしい」
「山尾さんは不倫関係を否定した。ウソをつき続けるのか。それとも不倫を認めるか。答えないと立候補する資格はない」
記者たちの感情論には辟易するが、こういう質問に対して曖昧模糊とした言い方でかわそうとするのでは、うまくいくはずがない。捨て身の覚悟をもって、包み隠さず事実を話すしか、信頼される政治家として復活する道はないのではないか。(次ページに続く)
玉木代表に誘われ決意したのにいまさら「公認取り消し」か。山尾氏の言い分
危機に瀕して、山尾氏が何ら成算なく、会見に臨んでいたとしたら、驚くべきことだ。それだけでも政治家の資質に疑問符がつく。誤算と言うほかない会見内容に、玉木氏らは自分たちの甘さを呪いたくもなっただろう。
ただでさえ、山尾氏擁立で政党支持率が急落し、このままでは参院選が戦えないという声が党内にひしめいていたのである。この記者会見のダメージはことのほか深刻だ。
玉木氏らは、もはや山尾氏を庇うことはできなくなった。舟山康江両院議員総会長らが山尾氏に辞退するよう働きかけたが、山尾氏はそれを拒否した。このため、執行部の判断ではなく、両院議員総会での決定という理由で6月11日、「公認取り消し」を山尾氏に伝えた。
もちろん、山尾氏にも言い分がある。山尾氏は6月7日に商店街の一角で事務所開きをし、後援会会員や支持者らが党の機関紙10万枚以上のポスティングやポスター掲示などを続けてきたのだ。いまさら「公認取り消し」はないという思いが強いだろう。悔しくてならない気持ちもよくわかる。
しかし、驚くべきは「公認取り消し」を受けた山尾氏の反発の凄まじさだ。“抗議文”には以下のような文章が綴られている。
「党から正式な公認内定を受けても、党の都合で排除されてしまう政党では、志ある方も今後立候補の決断に躊躇してしまうのではないでしょうか」
「国民民主党には感謝しつつ、その統治能力には深刻な疑問を抱いておりますので、今後は一線を画させて頂ければと思っております」
「統治能力に深刻な疑問」「今後は一線を画す」。玉木氏への腹いせのような言葉には違和感をおぼえる。
たしかに、玉木代表や榛葉幹事長が中心となって小所帯でやってきた政党が、昨年の衆院選での躍進を境に急成長し、組織のガバナンスが必要とされる段階にさしかかっている。そのための運営ノウハウや人材が不足しているのは事実だ。それはなにより山尾氏がよく知っていることであろう。統治能力不足を指摘されれば、玉木氏も返す言葉があるまい。(次ページに続く)
“山尾叩き”が一夜にして“玉木叩き”に変貌、このまま参院選へ?
だが、山尾氏が玉木代表や榛葉幹事長の苦しい胸の内をおもんぱかることなく、今回の結末を党のせいにしてしまうような文面を公表したのは意外だった。その思考能力、発言力が非凡であるからこそ、そう思う。
とにもかくにも、今回の騒動で国民民主党は深手を負ってしまった。玉木雄一郎ともあろう政治家が、なぜこんな失敗をしてしまうのか。昨年の衆院選以来の人気上昇に調子に乗りすぎたなどと言うつもりはない。
新人議員が急増した党内に、頼れるベテラン議員が必要だったことも理解できる。そのための、現実的な方法として、山尾氏ら4人の国会議員経験者に声をかけたのだろう。
だが、組織強化策が裏目に出て、人気の絶頂からあっという間に滑り落ちた。いったん落ち目になると世間は容赦ない。山尾氏を立候補させると言って批判され、それを取り消すとなったら、さらなる弾丸が降りかかる。
“山尾叩き”は一夜にして“玉木叩き”に変貌した。
このまま負の連鎖を断ち切ることができなければ、国民民主党は急降下トレンドのまま参院選に突入することになる。
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image by: 玉木雄一郎 公式Facebook | 外務省 (MOFA), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons