『私が見た未来』(たつき諒・著)に端を発する、2025年7月5日の「大災害」予言はあえなく外れた。「実は7月5日というのは予知夢を見た日付にすぎず、実際は7月中に巨大津波が発生するらしい」という噂も出回っているが、いずれにせよ結論は同じだ。作家・投資家の鈴木傾城氏によれば、このような予言を本気で信じてしまう人は将来、貧乏になる可能性が極めて高い。と言っても「不幸な人ほどオカルトを信じてしまう」というような単純な話ではない。ごく普通の善良な人が貧困層に堕ちる理由がある。(メルマガ『鈴木傾城の「フルインベスト」メルマガ編』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
「予言に騙されない」という、お金持ちと詐欺師の共通点
いつの時代にも、社会では周期的に「もっともらしい断定的な預言(予言)」が流布されては、外れて消えていく。
「〇月〇日に大地震がくる」「〇年〇月に人類は滅亡する」「〇年〇月に株式市場は大暴落する」……。そういうのにたぶらかされる人はいつの時代にもいるのだが、逆にそういうものには1ミリも心が動かない人もいる。
理知的な人はもちろん馬鹿げた預言は頭から信じないのだが、面白いのは詐欺師や犯罪気質の人間も、そうした断定的な預言を極限的なまでに信じないこと。なぜなら、彼らは「他人を騙す側」にいるからだ。
要するに、朝から晩まで他人を騙す手口を考えている詐欺師の類いは、預言を詐欺の手口と捉えているので「それで騙す」ことを四六時中考えている。それで、彼らは預言みたいなものを聞くと、詐欺師は「なるほど、こうやって騙せばいいのか。うまくやりやがって」という発想になる。
その結果、騙すことばかり考えている人間は、預言に騙されない頭になる。これを聞いたときは、本当に笑ってしまった。
預言を信じない人間は全員が詐欺師ではないのだろうが、一部は詐欺師かもしれないので恐ろしい面もある。「何も信じない」で終わればいいのだが、「預言を信じさせて騙す」一面を持っていたら、一緒にいるだけでリスクがある。素直に信じて騙される人のほうが可愛げがあっていい。
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「未来を予測したがる」のは人間の危険な本能
それにしても、預言にたぶらかされるというのは、なぜなのだろうか。
人間は、未来が見えない状況に不安を覚える生き物だ。たとえば、1年後に収入がどうなっているか、物価はどう変わるか、あるいは大地震がくるかどうか……。こうしたことに対して、人は「せめて何かを予想したい」と思う。
これは生存戦略としての進化の産物であり、原始時代から人間は天候、獣の動き、他者の行動を先読みすることで命を守ってきた。予測したがる性質は、脳の構造に組み込まれている。それが預言にたぶらかされる精神状態を生む。(次ページに続く)
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予測可能だという前提そのものがおかしい
株式市場のような領域でも、その傾向が顕著である。
多くの投資家は、日々のニュースを眺め、「今後どうなるのか」を必死に読み取ろうとする。政策金利、GDP成長率、失業率、企業業績、地政学リスク……。すべてを材料に未来を予測しようと試みる。
だが、誰も予測を正確に当てられない。
政策金利を決定する失業率やインフレ率は予想外の動きをしているかもしれないし、予期せぬスキャンダル、予期せぬ悪材料、予期せぬ政治家の言動、予期せぬ企業のアナウンス、予期せぬ天変地異、予期せぬ国家間の衝突、予期せぬ誤報道が起きるかもしれない。
そして、予期したことであっても、相場は「過去と同じ動きを繰り返す」わけではないし、期待通りの反応をすることもない。業績が好調な企業の株価が急落することもあれば、悪材料が出ても株価が上がる場面もある。
よく考えて欲しい。こんなものをすべてピタリと当てることなどできるわけがない。不確実性を生み出す要因は日常的に発生している。ロジックで説明しきれない要素が市場には満ちている。
これらの要素は互いに複雑にかかわりあっているが、すべてを把握し、正確に未来の値動きを導き出すことは、どれだけ情報を集めても不可能だ。つまり、予測可能だという前提そのものがおかしいのだ。
だが、人は未来が不確実であることを認めたくない。だから、どこかで自分なりの「納得できる筋書き」を作ろうとする。そうしないと、不安で不安でしかたがないからだ。不確実性ほど、人を不安にさせるものはない。
この不安を和らげてくれるのが、予測であり、断定的な預言だったのだ。
権威が「こうなる」と言ってくれたら、それは道しるべになる。「そうなる」と言っているのであれば、それに従えばいい。あるいは「〇年〇月に株式市場は大暴落する」という断定的な預言があれば、みんなそれを信じているので安心して売れる。(次ページに続く)
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わからないものを、わからないままにしておく勇気
予測という行為は、一見すると理性的で科学的な行動のように思える。専門家のコメント、経済モデル、AIによるシミュレーションは、複雑なデータ処理と論理的思考によって導かれているように見える。
だが、実態はそうではない。
たとえば、あるエコノミストが「来年の成長率は3.2%に達する」と断言したとする。この数値は、過去の統計と仮定の積み重ねによって導かれた仮設である。
だがその中には、現在の政権が継続するとか、金利が急変しないとか、海外の市場が安定しているといった前提が多数含まれている。こうした前提がひとつでも予想外で崩れれば、数値はまったく意味を失う。
にもかかわらず、人はその「もっともらしさ」に安心感を覚え、信じたくなる。
株式市場の世界でも、未来の値動きに関する「予測」は日々、各方面から発表されている。「今後半年でS&P500は10%上昇する」「今年、株式市場は大暴落する」などの言説は、過去のチャートと整合性のあるロジックを伴って語られる。
だが、それも再現性のある理論でも何でもなく、ある特定の条件下での仮説でしかない。予測は、どこまでいっても固まることができない泥沼みたいなものだ。
2020年にパンデミックで世の中が一変するとか、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻が原油価格や穀物価格を激しく変動させ、世界中の金融市場に影響を与えるとか、そういう突発事項を前年に予測できた人はひとりもいない。
AIや機械学習の進化によって、将来の予測はより精緻におこなわれると思う人もいるが、私はこれにも懐疑的だ。AIも予測不能な突発的な事象には無力だからだ。
つまり、どれだけ高度な分析手法を用いても、予想外が起こりまくる現実社会ではうまく未来を当てることができないのだ。アノマリー的な動きはあったとしても、絶対的なものではないし、かならず再現するとも限らない。
未来に対する合理的な態度とは、「わからないものを、わからないままにしておく勇気」を持つことに他ならない。(次ページに続く)
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予測を放棄することが、もっとも合理的
未来が不確実であることを真正面から認めるとき、投資における前提そのものが大きく変わる。「どの銘柄が伸びるか」「いつ買えば得か」「今年の金利はどうなるか」といった問いは、答えのない幻想にすぎないと理解できるようになる。
そして、この不確実性を前提にしたときに成立する投資手法がある。それが――(本記事は、メルマガ『鈴木傾城の「フルインベスト」メルマガ編』2025年7月6日号を一部抜粋、再構成したものです。続きはご購読ください。投資に詳しい人もついやってしまう「株価予測」のバカバカしさや、着実に資産を増やすことができる具体的な投資手法について、鈴木傾城氏がさらに詳しく解説しています)
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著者の鈴木傾城氏は、米国株式を軸に据えた資産運用術を長年メルマガで啓蒙し、読者から絶大な支持を得てきました。鈴木氏が提唱する投資方法は、短期的なマーケットの上げ下げに惑わされることなく、着実に不労所得を構築していくもの。たとえば突然、NYダウ指数やNASDAQ指数が-80%の大暴落に見舞われたとしても自分の生活は安泰。そんな、巷の「株バブル」とは一線を引いた資産運用の普及・啓蒙につとめています。
毎週のメルマガでは、投資哲学、マクロ経済分析、株式市場全般の動向、個別銘柄の動き、新たに組成された株式ETFの評価、相場急変時の解説など有益な情報を配信中。1日で大金を稼ぐような内容では決してありませんが、不労所得の実現にむけて株式投資に取り組む際のよきペースメーカー、よきパートナーとなってくれることでしょう。
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- なぜ、詐欺師や犯罪者は預言を信じない?予測に翻弄される投資家が知るべきこと(7/6)
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